#098 コロナがもたらした社会の分断と、いま求められるリーダーシップ・フォロワーシップ
あけましておめでとうございます。2021年最初の note になります。
一昨年の春に始めたこの note も、もうすぐ2年、100回になります。
アクセスログをみていると、どういうジャンルの記事に注目頂いているのかがわかって興味深いです。今後の活動の参考にさせて頂こうと思います。
昨年はなかなか厳しい年になりました。今年もまだまだ厳しい状況が続きそうです。
VUCA な時代とは
最近はあまり使われなくなりましたが、数年前 「VUCA(ぶーか、と読みます)」という言葉が流行ったことがありました。
VUCA とは、
・Volatility (変動性)
・Uncertainty (不確実性)
・Complexity (複雑性)
・Ambiguity (曖昧性)
の頭文字をつなげた言葉で、今のコロナ禍の状況のような、先が見通せない、不安定な状況のことを言います。
VUCA - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/VUCA
元々は1990年代に使用された軍事用語のようですが、ネットワークなどの技術やサービスが進化したことにより、最近のビジネス環境もかなり VUCA な状況になっています。
特に、何か新しい事業を始めようとする場合、この VUCA な状況に対してどのような戦略を立てるのかが重要です。
「OODAループ」などは、こうした状況に対応するためのフレームワークの一つだと言われています。
OODAループ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/OODA%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97
VUCA な時代には組織の分断が起きがち
こうしたVUCAな状況においては、どうしても「組織の分断」が起きがちです。
コロナ禍においても、
・外に出て活動したい若者と、とにかく感染者数を減らして安心したい高齢者
・感染者が多く出ている都市生活者と、都市からの人の移動を阻止したい地方生活者
などの分断がみられました。
最近では、残念なことに、
・医療従事者と、それ以外の産業で働いている人
との間で分断がおきつつあるように感じています。
こうした社会の分断は、以下の2つの条件が揃うと発生しやすいです。
1. 未来が予測できない
この状況が、いつ頃、どのような形で着地するのか見えていないと、「こうすれば良い」という共通認識が作れないため、各自の思い込みによる分断が発生します。また、不安やストレスが大きくなることで、そうした分断を助長します。
2. 人によって、現象に対する便益が異なる
コロナにかかってもほぼ無症状で済んでしまう若者と、一気に死亡率が高まってしまう高齢者とでは、経済を止めることに対するリスクと便益が大きく異なります。このように、ある事象から受ける影響が人によって全く異なる場合、そこに便益を等しくするクラスタ(ここでは若者と高齢者)が生まれ、クラスタとクラスタの間で社会の分断が始まります。
こういう時には、みんなが目標を一つにして、支え合うことが大切だと思うのですが、上記の理由から原理的に社会が分断しやすくなってしまいます。
組織の分断を加速する認知バイアス
こうした組織の分断、「認知バイアス」の観点からも説明できます。
1. バックファイアー効果
特定の思想を支持する人は、自分の信念が誤りだという事実や証拠を示されても、それを拒絶し「それは何かの間違いや陰謀にちがいない」として更に自分の思想や信念を増強させることを言います。
心理学の分野では、この効果は必ずしも正しくない、という説もありますが、twitter なんかではよく見られる現象のような気もします。
2. ダニング・クルーガー効果
能力に乏しい人が、その乏しさ故に自分自身の能力不足を認識できないことを言います。「あまりに愚かすぎて自分が愚かであることを知らない」状態のことです。
こちらも、twitter などではよく見られる気がしますし、日常業務の中でもこのような感想を頂くことはあるのではないでしょうか。
VUCA な時代に必要なリーダーシップ
こうした状況におけるリーダーシップとして、以下の3点が重要だと考えます。
1. 着地点を明確に示す
先が見えないとどうしても人は不安になります。リーダーがまずやるべきことは、みんながどのような着地点を目指すのかを、はっきりとわかりやすく示すことだと思います。
状況は刻々と変わるので、示した着地点が間違っていることもあると思います。でも、それを恐れて曖昧なビジョンしか示せないようだと、その間に混乱や社会の分断がどんどん進んでしまいます。
2. 嫌われる勇気
1. にも関係しますが、何か組織が進む方向を示す際、その決定が全ての人を満足させることは不可能です。言い方は悪いですが、誰かを切り捨てないといけない場面が出てきます。
このような状況では、全ての人の意見を聞いたり、全ての人を満足させるような着地点を追い求めてしまうと、いつまでたっても意志決定できず、どんどん状況を悪くしてしまいます。
3. 優秀な参謀
早い意志決定が重要とはいえ、目をつぶって「えいやっ」で意志決定されるのは困ります。リーダーは、その分野について最上級の知識と経験が必要です。
とはいえ、全ての分野についてリーダーが十分な能力を持ち合わせているとは限りません。その場合は、最善の意志決定ができる「参謀」を、リーダーの横にそろえておく必要があります。
こうしたリーダーシップは、コロナ禍における政府の対応のような大きな話だけでなく、会社の運営や、プロジェクトの運営においても同じであると思います。
VUCA な時代に必要なフォロワーシップ
また、こうした状況では、リーダー以外のメンバーの行動も重要です。
1. わからないことには口をはさまない
既出の通り、我々はどうしても様々な認知バイアスの影響を受けてしまいます。リーダーに対して何か主張したいときでも、一度立ち止まって、本当にそれが正しいのかどうか自問してみるようにしたいです。
2. 一度決まったリーダーの指示には従う
VUCA な状況下では、全ての人を満足させる着地点はありません。かならず誰かは(もしくはみんながそれぞれ少しずつ)不満を抱えることになります。
しかし、それをいつまでも主張していても前に進むことはできません。
リーダーが決めたことには、とりあえず従うという柔軟性・寛容さが必要です。
3. 専門家としてどうしても言わないといけないことがあれば、きちんとエビデンスをもって主張する
2と矛盾するようですが、リーダーも間違えることはあります。自分の方がリーダーよりも明らかに知識や経験がある場合には、客観的に納得できるようなデータとともに具申する必要があると思います。
良く、スタートアップの採用条件に、「当社のビジョンに共感できること」というような文言がみられます。
これは、社員全体が同じ方向を向いてリーダーの指示に従わないと、スタートアップの主戦場である VUCA な状況では勝ち抜いていけないから、ではないかと思います。
同じように、採用面接で学生時代のリーダー経験について聞いたりするのも、リーダーとしての経験がメンバーとして仕事をする際にも重要であるからだと思います。
なんで全員にリーダーシップを求めるの? - Chikirinの日記
https://chikirin.hatenablog.com/entry/20110927
『人はリーダーシップ体験を積むことにより、「高い成果を出せるチームの構成員」になれるのです。そのために、全員にリーダーシップ体験が必要なんです。』
こうしてみてくると、今のような状況における、日本全体の舵取りが非常に難しいことも分かってきます。
国単位になると、企業のようにリーダーのビジョンに合う人だけをチームに入れることはできません。
強いリーダーシップを発揮すべき場面でも、選挙が近くなればどうしても支持率が気になってしまいます。
とても難しい状況になっているな、と思います。
一方、大企業で新規事業を始めるような場合には、できるだけ小さな、本体から切り離した組織を作るのが良いでしょう。
人数が少なくて人の入れ替えが簡単にできる組織の方が、VUCA への対応を行いやすくなるためです。
今年は良い年になりますように
…ということで、今年も、まだまだ大変な状況が続きそうです。
こうした状況を救うのは、最終的には化学技術の進歩なのだろうなと思っています。
ウィルスが誕生した経緯が判明したり、感染のメカニズムがわかったり、様々な感染防止対策やワクチンの有効性がエビデンスともに明確になったりすることで、V(変動性)・U(不確実性)・C(複雑性)・A(曖昧性)のレベルが下がっていけば、結果として社会の分断も無くなっていくのではないかと思います。
まとめ。
(1) 今のコロナ禍の状況のような、先が見通せない不安定な状況のことを「VUCA」と呼びます。VUCAな時代に適切に対応していくことは、政治だけでなく、企業活動や、プロジェクトの運営においても重要なテーマになります。
(2) VUCA な状況においては、社会や組織の分断化が発生しやすくなります。また、分断化を加速させる要素として、「認知バイアス」の存在があります。
(3) VUCAな時代を乗り切っていくためには、適切なリーダーシップと、それに加えて適切なフォロワーシップが重要だと考えます。リーダーが適切なビジョンを示し、メンバーがそのビジョンに向かって力を合わせることが重要ですが、社会や組織が大きくなればなるほど思いを一つにすることが難しくなります。マネジメント面からの対応だけでなく、VUCA な状況を作り出している原因そのものを減らしていくことが必要になってきます。
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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)