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量子もつれの秘密:量子コンピュータがもたらす新時代と知的財産
量子力学の世界は不可思議な現象に満ちています。なかでも「量子もつれ」は、離れた場所にある複数の量子が、あたかも瞬時に情報を共有しているかのように振る舞う、驚きの現象です。
近年では、この量子もつれを応用した「量子暗号通信」や「量子コンピュータ」が注目を集めており、社会や産業界での影響も大きくなると予想されています。
しかし、その一方で量子技術の発展には多くの法的・技術的課題も存在しています。特許や著作権、不正競争防止法、プライバシー保護といった幅広い法分野への影響は計り知れず、どのように活用し、保護していくかが今後の大きなテーマとなりそうです。
今回は、この不思議な量子技術の世界と知財との関係に触れてみたいと思います。
今回のポイント
量子コンピュータの世界って?
量子コンピュータで何ができるの?
量子コンピュータの特許や企業秘密の扱いには、どんなメリットとデメリットがあるの?
量子コンピュータの発展がもたらすデータの価値や法的保護はどうなるの?
量子もつれとの出会い
ゆう:ねえ、りょう、この前「量子もつれ」って言葉を聞いたんだけど、何のことかわかんなくて……アインシュタインが「幽霊みたいだ」って言ったんだって。
りょう:だね、2つ以上の量子(光子等)がすごく関連し合ってて、一方の状態を観測すると、どんなに離れていても、もう片方の状態が瞬時に決まっちゃう。一万光年離れても瞬時に分かりあうみたいな感じ。
ゆう:待って、なんかロマンチックじゃない、笑
りょう:笑、実験でも確かめられているからガチな現象だよ。
量子暗号通信って何?
ゆう:でも、それって何の役に立つの?
りょう:量子暗号通信っていう秘密の通信に使える。「量子もつれ」を利用して暗号に使う秘密の鍵を交換することができるんだけど、誰かがのぞき見すると、その瞬間に状態が崩れちゃうから、のぞき見した跡が残るんだよね。
ゆう:覗いたことが絶対ばれちゃうってことね。
りょう:そうそう、だから、誰かにのぞき見されたことが分かったら、その鍵を使わなければいいんだよね。そうすれば、完全に秘密が守れる。
ゆう:そっか、ロマンチックなだけじゃないんだね。
重ね合わせって何?
ゆう:そう、あと「重ね合わせ」っていってた、あれ何だろ?
りょう:普通のコンピュータって0か1のビットの組み合わせで計算するんだけど、量子コンピュータでは0と1を同時にとり得るんだよね、「重ね合わせ」ってそういうこと。この「重ね合わせ」の状態で計算できるんだよね。
ゆう:ん?答えも「重ね合わせ」ってこと?わけわかんなくない?
りょう:最終的には計算結果を観測しないと結果が分からないんだけど、観測した瞬間に0か1かに決まっちゃう。だから、答えはしっかりでるよ。
ゆう:なんか不思議。
りょう:そだね、計算中はこの重ね合わせを利用して並列処理ができるから、ものすごい数の組み合わせを一気に処理できるって感じ。
ショアのアルゴリズムってどんなもの?
ゆう:量子コンピュータができたら秘密がバレちゃうって聞いたんだけど、どうして?
りょう:量子コンピュータで素因数分解を高速に行う「ショアのアルゴリズム」っていうのがあるんだ。
ゆう:ショアってなんか美味しそう笑
りょう:笑、確かに。今使われている暗号方式は、大きな数の素因数分解が難しいから解読できないんだけど、ショアのアルゴリズムを量子コンピュータに乗せればそれができちゃう。つまり、通信の秘密がバレちゃう。
ゆう:それ大変だ、、
りょう:そうそう、だから、先回りして量子コンピュータでも解読できない暗号方式(ポスト量子暗号)の開発も進んでるんだ。最近、米国国立標準技術研究所(NIST)がその標準規格を決定したばかり。
ゆう:そっか、それなら安心かな。
量子コンピュータと特許
ゆう:本当、未来って感じだね。
りょう:そうそう、もうかなり前から量子コンピュータのいろんな観点で特許出願もされてる。もしどこかの方式が将来のスタンダードになったら、その特許を持つ企業は大きなライセンス収入を得られるかもしれないからね。
ゆう:でも、特許って独り占めでしょ、研究しにくくなるんじゃないの?
りょう:うん、だから一部技術を無償で公開する企業や研究機関も出てきてるんだ。基盤技術や標準化技術はある程度オープンにしてみんなで開発を進め、コアとなる重要なノウハウは特許や企業秘密として保持することになるかな。
ゆう:そっか、全部独占するか全部公開するかじゃなくて、その中間をうまく取るって感じね。
りょう:それと、特許って出願しちゃうと内容が公開されちゃうんだよね。もちろん、一定期間独占はできるんだけど。
ゆう:特許って秘密にできないんだ。
りょう:だから、特許出願せずにトレードシークレットとして保護する方法もある。機密保持契約とかセキュリティ管理を徹底すれば、企業秘密として保護できる。ただ、一度漏洩したらもう保護されないし、同じ発明の特許を競合に取られたら大変。リスクとリターンのバランスが難しいよ。
ゆう:一長一短だね。
量子技術とデータの保護
りょう:量子コンピュータができると、世の中を忠実にシミュレーションできるようになるとも言われてる。世の中、実は量子の世界なんだから。そうなると、実験しなくても、シミュレーションだけで薬が開発できるみたいに、シミュレーションの活用分野が各段に広がる。
ゆう:それって、どうなるの?
りょう:新薬や材料開発、医療、教育、金融工学、ビッグデータ解析など幅広い分野で革命が起きるんじゃないかな。シミュレーションのデータの価値も爆上がりするだろね。
ゆう:それも特許なの?
りょう:データ自体の特許を取ることは難しいから、著作権とか不正競争防止法とかいう法律で守ることになるだろな。生成AIとの組み合わせで著作権法上の新しい問題もでてくるだろね。
これからの展望
ゆう:すごい、なんか世界が変わる感じだね。
りょう:特許、著作権、不正競争防止法、プライバシー保護…全部が影響を受ける時代になるんじゃないかな。法律もアップデートが必要になると思うよ。
ゆう:わかんないけど、課題も多そう。
りょう:量子技術をどう活用し、どう保護していくかは、未来をつくる上での大きなテーマだね。未知の領域が多いけど、早めに動いた人や国がアドバンテージを得るのかもね。そんなに遠くない未来だろうから。
今回のまとめ
量子コンピュータによって現在の暗号方式が解読されるリスクが懸念されるが、量子コンピュータでも解読できない暗号方式の開発も進んでいる。
量子コンピュータの各分野で特許出願がされてきたが、一部の技術を無償開放して、量子コンピュータの開発協力や標準化を進める動きもある。
特許出願せずにトレードシークレットとして保護する方法もあるが、リスクとリターンのバランスが難しい。
量子コンピュータによるシミュレーション技術の発展でデータの価値が高まり、著作権や不正競争防止法等による保護の必要性が高まる。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
弁理士 中村幸雄
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