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大切なもの

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#超短編小説

雨降りの後

雨降りの後

  彼女の顔は、出会った時からずっとぼやけていた。僕の視力が悪いわけじゃない。彼女の顔は誰から見てもぼやけている。彼女自身も自分の顔がどんなか知らない。分かるのは顔の輪郭くらいで、目や鼻、口の位置は手に触れた感触でしか分からない。鏡にもはっきり映らない。だからもちろん、彼女がどんな表情をしているのかも分からない。でも、彼女のことが好きだ。声から伝わる凛とした明るさや、ふとした時の指の仕草、ふんわり

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