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静かな森でひとり
2024年7月12日 21:09
夏の眼球を舐めたくなって生唾を飲んだ。黒水晶のように煌めく瞳、白磁のような白目。そこに走る毛細血管から赤い金魚の尾鰭が優雅に靡く様を空想した。だから、寝不足の夏に目薬を差すはずの私は心ここに在らずで、夏の呼びかけで我に返った次第だった。「雪子、何ぼーっとしてんのよ。目薬まだ〜?」夏が無邪気に私の腕を握る。夏の手は私が蝋人形なら溶け出すほどに熱っぽかった。大学食堂のクーラーは効いておらず、七
2024年7月17日 23:15
彼女の顔は、出会った時からずっとぼやけていた。僕の視力が悪いわけじゃない。彼女の顔は誰から見てもぼやけている。彼女自身も自分の顔がどんなか知らない。分かるのは顔の輪郭くらいで、目や鼻、口の位置は手に触れた感触でしか分からない。鏡にもはっきり映らない。だからもちろん、彼女がどんな表情をしているのかも分からない。でも、彼女のことが好きだ。声から伝わる凛とした明るさや、ふとした時の指の仕草、ふんわり