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ミュージカル「SONG WRITERS」観劇感想
こんにちは、雪乃です。今日はシアタークリエでミュージカル「SONG WRITERS」を観劇してきました。なお私は今日が今年最後のシアタークリエ。1年って早いですね。
日本のオリジナルミュージカル「SONG WRITERS」、再々演ということですが私は今回が初めての「SONG WRITHERS」。めっちゃ楽しかったです!!!
ということで感想を。
エンターテイメントとしての楽しさ
作詞家のエディと作曲家のピーターがミュージカルを作っているうちに、2人が思わぬ事件へと巻き込まれていく──というのが大まかなあらすじ。
耳に残る楽曲と華やかなダンス、虚構と現実を行き来しながらミステリアスにサスペンスフルに、そしてコミカルに進行していく脚本、さらには大立ち回りもあり、とにかく1本の舞台として見応えのある作品でした。
このミュージカルは複数人の作曲家が参加して作られていますが、どれも覚えやすく歌いたくなる素敵な曲ばかり。特に「ソングライターズ」「ハッピーエンドが待っている」「現実の国で夢見る人」は聞いていると無意識に前を向けるナンバー。「秘密があれば」は華やかにして妖艶、「愛はいつも愚かなもの」は「これぞミュージカルナンバー」とも言うべき極上かつ王道のデュエット。「鎮魂歌(レクイエム)」はこの曲を歌うピーターを演じる中川さんが自ら作曲されているということもあり、まさしく魂のこもった渾身の1曲。衝撃的な幕開きに掲げられるにふさわしいナンバーでした。
また1人の作曲家が全曲を手がけることが多いミュージカルにおいて複数の作曲家が参加している作品は、ないわけではないものの少ないと思います。しかし複数人の作曲家が曲を手がけることがまさしく「SONG WRITES」という複数形を使ったタイトルと共鳴し、様々な色が集まった、音楽的にもカラフルな作品に仕上がっていました。
キャストの素晴らしさ
初演から参加しているキャストと今回から参加しているキャストが一体となって作り上げられている本作。
自信過剰な作詞家エディを演じるのは屋良朝幸さん。今回初めて拝見するのですが、等身大のクリエイターの姿とオーラ溢れるショースターとしての姿が共存しているとことが素晴らしかったです。エディのソロから始まる「ハッピーエンドが待っている」は歌唱力・ダンス力ともに圧巻。再々演で拝見できて幸せです。
そしてエディの相棒であり、作曲家のピーターを演じるのは中川晃教さん。半年前に同じ劇場で某音楽の悪魔を演じていた方と同一人物なのが信じられないほど、繊細な若き作曲家を好演。広い音域と精緻な歌唱力で歌われる「Dinosaur in my heart」は血の通った痛みとどこか幻想的な透明感が共存する1曲で、この曲は中川さんの声で歌ってこそだと思います。……本当にアムドゥスキアス様と同じ方ですか?
エディが惚れ込んだ歌姫マリーを演じるのは実咲凜音さん。みりおんシシィの「私だけに」は大好きで何度も聞いているのですが、実は舞台を直接拝見したのは昨年の「生きる」が初めてでした。「生きる」の一枝役では確かな歌唱力と、そこに在る生活を着実に感じさせるお芝居が印象的でしたが、今回のマリー役も素晴らしかったです。マリーが歌い上げる「秘密があれば」は洗練された艶やかさを纏う楽曲。ミュージカルナンバーとしても華やかで見応え、聴き応えのあるナンバーですが、この曲が後の展開に繋がっていることも踏まえると、すべてを知った上でもう一度聞きたくなります。
エディが作り出した劇中劇の世界の登場人物・パディを演じるのは青野紗穂さん。舞台で拝見するのは「オン・ユア・フィート!」以来の方です。
青野さんといえば、個人的に印象的なお役はアニメ「ワッチャプリマジ!」のジェニファー・純恋・ソル役。主人公が憧れる絶対的なスターという役どころに説得力をもたらす圧倒的な歌唱力が印象的でした。(ジェニファーの曲は「Beieve」も好きだけど「Lux Aeterna」はリアタイ時本当に青野さんの声が持つパワーとエネルギーと世界観に圧倒された曲だから皆聞いてくれ~!)
パティはあくまで劇中劇、しかも作中で目下制作中のミュージカルの中の登場人物。あくまでエディの「脳内劇場」にしか存在しないキャラクターであるはずなのに、実は……?という役。虚構と現実を行き来する表現の幅広さ、そして「愛はいつも愚かなもの」は、華やかさの中にも哀しさを湛え、かつ艶やかでもある唯一無二の歌声でした。欲を言えばもっとパティの歌が聴きたかった!
パティの元恋人で、マフィアに内通する刑事のジミーを演じるのは相葉裕樹さん。半年前に同じ劇場で某天才ヴァイオリニストを演じていた方です。
いやなんかもうね……スーツ姿だし刑事の役だし、シンプルにめっっっちゃくちゃカッコよかったです。あまりにも作画と声が良すぎてコナンの映画のゲストキャラかと思いました。 戦国鍋で相葉さんを知り、10年前の「ちぬの誓い」で初めて生でお芝居を拝見して、そして今年の春に観た「CROSS ROAD」のパガニーニ役でも感じましたが、役者としてまさに円熟期だな、と。円熟期だからこそ表現できるまっすぐな正義感やストレートなカッコよさ、、そして最後のサプライズなど、とにかく今の相葉さんでこのお役を拝見できて良かった、と心から思うことができました。
至高の創作讃歌
エディとピーターは、いつか自分たちの作ったミュージカルがブロードウェイで上演されることを夢見ている若き「ソングライターズ」。2人を軸とする本作には恋や友情、サスペンスやミステリーの要素まで絡むことになりますが、常に「創作の喜び」に溢れた作品なんですよね。「ソングライターズ」の歌詞に「この世に100の悲しみがあっても101個目の幸せを書き足せばいい」というフレーズがあるのですが、この言葉が「作品を創り出す純粋な喜び」を通じて、まっすぐに伝わってくる。フィナーレの「ソングライターズ」はひたすらに明るいのに、このフレーズがあまりにも眩しくて号泣しました。
物語終盤で歌われる「現実の国で夢見る人」には「そうさあなたは帰らなきゃいけない」「100の悲しみが突き刺さるあの国へ」という歌詞があります。観客がいつか帰らなくてはいけない、100の悲しみが突き刺さる国、それが現実世界。100の悲しみがある現実に101個目の幸せを書き足すことができるのが虚構であり物語であり、また音楽も舞台も、すべてひっくるめた創作物なのだ──という力強いメッセージを感じるナンバーでした。
劇中で音楽やミュージカルは、悲しみで溢れる世界に帰らなければいけない私たちに、幸せを書き足してくれるもの。そういった描かれ方はまさしく至高の創作讃歌であり、なおかつ物語や音楽など「創られたもの」を愛するすべての人への、虚構の世界からの力強い後押しだと思いました。
以下、ネタバレパートに入ります。
◇
虚構と現実が一体になるとき
劇中でエディとピーターが創っているミュージカルは以下のような内容。
マフィアのボスであるカルロは内通者の刑事・ジミーの協力もあり裏社会で幅広くビジネスを展開している。カルロの愛人であるパティはジミーの元恋人だが、今でもジミーに思いを寄せていた……。
ここからエディはマリーのアドバイスを取り入れながら、物語を書き進めていきます。
マフィアの内通者であったジミーは実は潜入捜査官。コカインの取引を食い止めようとするが、麻薬取締官ソリアーノの裏切りによって失敗、カルロの手下に撃たれて命を落としてしまう。その現場を目撃していたジミーの元恋人のパティはコカインを持ち去り取引の現場から逃走する……というストーリー。
しかしマリーがエディにアドバイスしたアイデアがすべて現実に起こったことであり、マリーの正体が整形で顔を変えたパティであったことが判明します。
マリー=パティの目的は、コカインの取引や麻薬取締官とマフィアとの癒着を告発し、ジミーの潔白を証明すること。そのためにパティは顔を変え、「マリー・ローレンス」と名乗り、エディとピーターの創るミュージカルを通じて世間に告発しようとしていました。
1幕は。自分の創るミュージカルをハッピーエンドにしたいのにどうしてもジミーが死んでしまう展開に直面するエディの叫びで終わります。これ、真相が判明する前は「登場人物が勝手に動き出した結果、作者ですら制御不能になる」ように見えるのですが、真相を知った上で考えると「ジミーの死は現実ですでに起こってしまったことなので、エディが書き換えることはできない」ということであったと分かる。
またエディの「脳内劇場」で、マフィアと通じていた麻薬取締官ソリアーノを演じていたのが音楽出版社のディレクター・ニック。ここすらも「脳内劇場」にはとどまらず、ソリアーノの正体がニックであることも現実。つまりニックの務める会社のトップは、マフィアのボスであるカルロ。そしてカルロはマリーの正体がパティであることに気づき、真相を知ったエディから、カルロとニックがパティが持ち出したコカインの在処を聞き出そうとする。2つの世界が1つになり、2つの縦軸を合流させてから一気に駆け抜け、怒濤の大立ち回りを経て大団円へとなだれ込む2幕は一気に伏線が回収されることも有り、観ていて気持ちが良かったです。
現実と虚構が合流したからこそ際立つのが、「演じる」という本作のもう一つのテーマ。パティは愛するジミーの無念を晴らすために「マリー・ローレンス」という役を演じていたし、マフィアの一員であるソリアーノもまた音楽会社のディレクター・ニックという役を演じていた。しかし社会で生きていくうえで役を演じなくてはならないのは決して特別なことではなく、多くの人が、意識的にしろ無意識にしろどこかでやっていること。役を演じることに息苦しさを感じる人がいる一方で、どこかには役を演じることで生きやすくなる人がいる。そういうことは現実でも起こりうるからこそ、「ニック」という、創作に取り組める役を心から楽しんで演じていたソリアーノもどこか憎めず、愛おしさすら覚えるキャラクターに仕上がっていたのだとも思います。
最大級のネタバレになるので上には書きませんでしたが、ニックを演じたのは武田真治さん。「ニックを演じるソリアーノ」が感じていた創作の楽しさや音楽を愛する心に確かな説得力と、そして嘘のなさがありました。サックスを吹くシーンもあり、本当に良いお役でした。マフィアのボスのカルロや手下のアントニオ、ベンジャミンもどこか憎めず、ラストシーンがとにかくハッピーなんですよ。「ハッピーエンドが待っている」の歌詞を体現させていくラストは、心から楽しいのになぜか泣けて仕方なかったです。
そして最後のサプライズは、FBI捜査官にしてジミーの兄であるエリオットも演じた相葉さん!物語終盤までエディの住むアパートの管理人に変装しており、舞台上でその変装を解くのですが、アパートの管理人役があまりにも自然すぎて、種明かしのシーンまでまったく気づきませんでした。変装のクオリティがもうコナンの世界でしか見たことないレベルじゃない?!
エディの家の居候たちの活躍やエリオットの登場もあり、最後はマフィアも一網打尽となり、ハッピーエンドを迎えて完結する「SONG WRITERS」。普段は舞台が終わると現実に戻ってしまう感覚がどうしようもなく苦手だったのですが、「現実に戻ってしまうからこそ、音楽や物語などの『101個目の幸せ』を糧にする生き方を肯定する」という作り手からのメッセージを感じることができ、今までに無い、晴れやかな感覚で劇場を後にすることができました。
また創作は「100の悲しみがあっても101個めの幸せを書き足せ」るものだと教えてくれる作品でもある「SONG WRITERS」。趣味で創作をやっている人間としては、今後も創作をするモチベーションになる作品でした。
およそ10年の時を経ての再演となった「SONG WRITERS」。ケヤキブンガクのおかげで初演の戯曲も手に入りましたし(しかも森先生のサイン本!ありがとう日比谷シャンテ!)、活字で反芻しながら楽しんでいこうと思います。
今年もいよいよ終わりに差し掛かってきましたが、観劇を楽しみに駆け抜けようと思います。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。