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ミュージカル「SIX」日本キャスト版観劇感想
こんにちは、雪乃です。ほぼ1ヶ月ぶりの更新です。お久しぶりです。
年が明けてから仕事がとにかく忙しく、平日はもちろんのこと休日も更新できず……ということで、前回の記事から1ヶ月もログインしてませんでした。
そんな今日はミュージカル「SIX」の日本キャスト版を観てきました。劇場は来日版と同じくEX THEATER ROPPONGI。一緒に観に行った母に「大丈夫!1回行ったしもう場所覚えたから!」と前日まで豪語していたのですが、いざ当日になってみたら来日版とは違う出口から出てしまい、「あれ、どっちだっけ……?」みたいになりました。(行き先が同じであろう方々についていったら到着した)
来日版に引き続き開幕した日本キャスト版。どのキャストもハイレベル、かつ日本語上演のため観客との言語の壁がなくなったことにより客席との一体感が増し、大満足の公演でした。
楽曲や演出こそ来日版と同じですが、「SIX」はキャストの個性や持ち味が役の個性に強く反映される作品のため、日本キャスト版として来日版とは違ったエネルギーを感じて楽しかったです。
来日版の感想はこちら。↓
「SIX」はイングランド国王ヘンリー8世の6人の妻たちの生涯をライブ形式で描くミュージカル。王妃を演じるキャスト6人に加え、バンドメンバー4人を加えた10人で80分間ノンストップのパフォーマンスが展開されます。
ではキャスト別感想を。
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キャサリン・オブ・アラゴン/鈴木瑛美子さん
ヘンリー8世の最初の王妃は、スペインからイングランドに嫁いだキャサリン・オブ・アラゴン。もともとヘンリーの兄アーサーの妻で、アーサーの死後ヘンリーの王妃となった人物。後にイングランド女王となるメアリーの母でもあります。
今日の昼公演でキャサリン・オブ・アラゴンを演じたのは、一昨年に観劇した「東京ローズ」でその歌唱力に圧倒された鈴木瑛美子さんでした。「東京ローズ」を観たときに「この6人でSIXやってくれないかな〜」と思っていたので、本当に出演してくださって嬉しいです。同じく「東京ローズ」組の原田真絢さんもジェーン・シーモア役で出演されていて嬉しい。
キャサリン・オブ・アラゴンはヘンリー8世の最初の王妃ということもあり、オープニングナンバーのソロパートや各王妃の持ち歌もキャサリンから始まります。鈴木瑛美子さんのソウルフルな歌唱は幕開けを飾るに相応しく、観客を「SIX」の世界に誘う牽引力がとにかく抜群!アン・ブーリンと結婚するために婚姻を無効にされたことに対して「ありえない!」と歌い上げるナンバー「No Way」では、溢れる感情のエネルギーを迸らせながらも、キャサリンが何を信じ、何に耐え、何に傷ついたのかを描き出しています。歌唱力に加え演技力で、誇り高い1人目の王妃を熱演されていました。
アン・ブーリン/田村芽実さん
キャサリンに代わって2人目の王妃となったのは、キャサリン・オブ・アラゴンの侍女としてヘンリー8世と出会ったアン・ブーリン。後のイングランド女王・エリザベス1世の母でもあります。
田村芽実さんは梅芸・松竹版「るろうに剣心」で初めて拝見した方。最近されたお役では朝ドラ「らんまん」のお佳代ちゃんが印象に残っています。
「らんまん」では際立ったコメディエンヌだった田村芽実さんが演じるアン・ブーリン、めちゃくちゃ魅力的でした!
一番印象的だったのが声の幅広さ。力強い歌声から、アン・ブーリンの持ち歌である「Don’t Lose Ur Head」ではあざと可愛く、かつパワフルなパフォーマンスと高い歌唱力、演技力で、「悪ったわね、悪気なくて」と歌いつつもどこか憎めないアン・ブーリンを好演。ことあるごとに自分が打首にされたことをネタにしていたり、同じく打首にされたキャサリン・ハワードとハイタッチをしたりと、細かい部分のお芝居までチャーミングさに溢れていました。
ジェーン・シーモア/遥海さん
3人目の王妃であるジェーンは、ヘンリー8世にとって待望となる王子エドワードを出産するも、その出産がもとで亡くなってしまった人物。遥海さんは初めて拝見する方ですが、とにかく声が好きです。無垢さと静謐さを宿した台詞の柔らかな声も好きですが、歌声は力強く、かつしなやか。持ち歌である「Heart of Stone」は圧巻!人としての揺るぎない強さや誠実さがベースにあり、かつ母としての深い愛情や、息子の成長を見届けられなかった無念さを歌い上げる「Heart of Stone」。来日版で一番心を掴まれたナンバーですが、遥海さんの作り上げたジェーンも素晴らしかった……!
広く劇場に広がり、時に世界を優しく包み、時に圧倒的なエネルギーで聴くものを圧倒する──遥海さんの歌声が海のようで、お名前にぴったりだなぁと思いながら聞いていました。ジェーンが歌い終わった瞬間、劇場全体がジェーンに引き込まれ、束の間静寂が落ち、やがて拍手が起きる。手拍子とは違う形で観客の心を一つにする、素晴らしいパフォーマンスでした。
アナ・オブ・クレーヴス/菅谷真理恵さん
4人目の王妃は、ドイツからヘンリー8世に嫁ぐも「肖像画と顔が違う」という理由で離婚されたアナ・オブ・クレーヴス。しかしアナは離婚後も王族としての待遇を受け、ヘンリー8世に貰ったお城で悠々自適な生活を送った稀有な(元)王妃です。
自分の城を手に入れたアナが歌う「Get Down」は「跪きなさい!」という意味。自分こそが城の主人であると歌い上げるアナのエネルギッシュなパフォーマンスは、菅谷真理恵さんの芯と迫力のある歌声を得て会場をタイトル通り跪かせる力がありました。また城の主人というだけでなく、自分の人生の主人は自分であるという絶対的な自信に溢れた姿も印象深く、ひたすらに痺れるカッコよさを持ったアナでした。
キャサリン・ハワード/鈴木愛理さん
5人目の王妃は、不貞の疑いで打首にされたキャサリン・ハワード。鈴木愛理さんはNHKの「クラシックTV」で拝見していた方ですか、生のパフォーマンスを観るのは今作が初めて。舞台映えする圧倒的スタイルとソロアーティストとしての歌唱力、そしてアイドルとしてのキャリアに裏打ちされたキュートさに加えセクシーさも持ち合わせた、最高のキャサリン・ハワードでした。
キャサリン・ハワードの持ち歌「All You Wanna Do」は、真実の愛や自分の居場所を求めて恋人を作り、やがて王に嫁ぐも、結局男たちが求めるのは身体だけ──そんな虚しい関係に翻弄されたキャサリンの痛みや苦しみが、サビを繰り返しているうちにじわじわとに滲み出てくるところがとても演劇的。歌詞は同じなのに、次第にそれが異なった意味に聞こえてくる。1曲の中にキャサリンが生きた人生を感じさせるパフォーマンスでした。
キャサリン・パー/斎藤瑠希さん
6人目の王妃は、最後の妻としてヘンリー8世を看取ったキャサリン・パー。生き延びるため、追放されないために結婚をし、ようやく最愛の人と出会い、幸せを夢見ながらも、王との結婚のために恋人に別れを告げる。キャサリン・パーの持ち歌のタイトルは、恋人との決別の言葉として送った「Don’t Need Your Love」。しかし彼女が最愛の人を諦めたこの言葉が、他の王妃たちの人生をヘンリー8世から解き放ち、歴史から個人の生を掬い上げる力強いアンセムとなる。悲しみから力強さへと転じていくナンバー「Don’t Need Your Love」を歌い上げる斎藤瑠希さんの歌声、そして歌唱力は圧巻。キャサリン・パーはイングランドにおいて自分の名前で本を出版した最初の女性でもあり、そんな史実に基づいた聡明さを感じさせる落ち着いたお芝居も素敵でした。
キャスト別感想は以上です。
「ヘンリー8世の妻」として歴史に刻まれた6人の女性たちが怒りを、喜びを、悲しみを現代ポップスシーンのイメージが投影された楽曲に乗せて歌うことで、誰かの妻ではなく1人の人間として自分の人生を語り直すミュージカル「SIX」。6人のうちの1人ではなく、1人が特別な、かけがえのない存在であると歌い上げるラストナンバー「SIX」は聞いているだけで元気が湧いてくる大好きな曲です。
歴史は変えることができないけれど、このステージ上では自分たちの望むままに人生を書き換えてやる!そんなエネルギーに満ちた6人のパフォーマンスは、生きている限り自分の人生は自分で変えられる、自分の人生の主導権を握ることができるというメッセージを感じました。
最高の楽曲に最高のキャストが揃った「SIX」。願わくば日本キャスト版でもCDを出して欲しいです。
というわけで2つのバージョンで観た「SIX」、両バージョンとも最高でした。ぜひ再演を……!と今から願っています。
本日もお付き合いいただきありがとうございました。