一粒のお米には7人のなまはげがいる
食べ盛りの甥っ子軍団とランチにいくと、数か月、エサと出会えなかった猛獣のごとく、一心不乱に食べあさる。
「ごちそうさま~、うんまかった~」
食いっぷりはいい。しかし、ご飯がもってあった白い皿をみると、ところどころにご飯粒が残っている。
「ご飯粒残ってるよ。ちゃんとキレイに食べなよ。一粒のお米には、7人のなまはげがいて全部食べないと出てきちゃうんだから~」
すると甥っ子が
「なにそれ、意味わかんない」
なはまげが何?という質問もなく、ゲームの世界に入っていった。
甥っ子は東京在住で、秋田にきてもなまはげと遭遇したことがないため、なんの効果もないのだ。そもそも、なまはげが7人いるんじゃなく、本当は7人の神様なのだ。
私は秋田育ちだから、本物のなまはげの恐ろしさを知っている。なまはげは怠け心をいさめ、無病息災、田畑の実りをもたらす来訪神で、迎える家では、料理やお酒を準備して丁寧にもてなさなければいけない。
1日に何十軒と回るなまはげたちは、順番が最後のほうになると酔いが回り、へべれけになり、本物の酔いどれおやじ、いやなまはげと化す。私の家は町内の一番端だったため、本物のできあがったなまはげたちがくる。
「泣く子はいねが~」と酒臭い口を顔に押し付け、体を持ち上げられジャイアントスウィングされたら怖くて、泣くに決まっている。守ってくれるはずの両親も大笑い。あの頃は、なんて薄情な親なんだ!と思ったものの、今となってはなはまげの中の人と友達だったから楽しんでいたというからくり。
こっちはトラウマになるくらいの恐ろしさだというのに。
そんな恐ろしいなまはげが一粒の米に7人もいて、食べきらないと全部出てきたらたまったもんじゃないとばかりに一粒残らずきれいに食べていた。茶碗にくっついてカピカピになって取れなくなったときが大変。そこからなまはげが出てくるんじゃないかと必死で指でカリカリして食べた。
7人の神様じゃなくなはまげがいるというガセネタを孫に教えたおじいちゃんが、ご飯を食べるごとに箸で中央によせて食べるとキレイに食べられるという、ちゃんとした情報も教えてくれた。ご飯を食べ終わった茶碗に熱いお茶をいれて飲むとお米のノリまで無駄なく食べきり、さらに後片付けも楽になるという一石二鳥も教えてもらったけれど、そこまでは実践していない。
神様がいるお米に限らず、作ってくれる人に感謝をしながら今日も残さずキレイに食べる。