毒親からの解放ストーリー (50)

 いったいヒロシから何を聞かされていたのだろうか。メグミという名の女性とは全く面識が無く、今日初めて会った人だ。それなのに私を見つめる目はまるで仇を見るようなのだ。こういう人間はたちが悪い。一方的な情報だけを鵜吞みにして、本当のことを知ろうともしないし、理解しようとも思わないからだ。

 私がヒロシを追い出して、母親の財産を独り占めにしようとしていると聞かされているのだろうか。おまけに彼と結婚すれば、母親からの財産をまるまる自分の懐に入れることが出来るとでも思っているのだろうか。ともあれ彼女は私の敵だということが見て取れた。

 私は、出来るだけ冷静を保ちながら、ヒロシの結婚の報告を聞いていた。私が母の介護をしに実家を訪れている事が、そもそも邪魔だと思っているヒロシは、何とか私と母を引き離したいと画策しているはずだ。だからメグミを連れて来て、これから先は彼女と二人で母の介護をするから私がここに来る必要が無いと言いたいのだろう。

「ヒロシ、おめでとう。これから先二人で幸せになってね。でも母の介護は私だけではできないから、人数が多いと助かるわ。それでも介護っていうのは想像以上に大変なの。だから介護のプロにもお願いしないとね。家族だけで介護をしようとすると全員が倒れてしまうこともあるの。だからヒロシも自分たちだけで、介護を抱え込もうなんて思わないで皆で協力していきましょうよ」 

 こういって私が台所に行ってお茶の支度をしようとすると、ヒロシは、すかさず
「あっ、お茶の支度ならメグミがするからオネエはそこに座っていて、彼女はこういうことは得意だから。もうじき籍を入れてこの家の人間になる人だから他人じゃないのだよ。オネエはもうここの人間ではなくて、田中の家を守っていく人間だから。もう俺たちの邪魔をしないでくれよ」
ヒロシがこのせりふを口にした途端に、ヒトミは私の前に仁王立ちをして、私が台所に行こうとするのを止めようとした。

 私はむっとして、彼女をどかそうとして、私の前に立ちはだかっている左脇から、台所の方に行こうとした。そのとたん私の髪の毛を両手で掴むと、引っ張りながら床に倒そうとしたではないか。一瞬の事で驚いたが、それと同時に怒りがこみ上げた。すかさず私はヒトミの両肩を掴むと、思いっ切り顔面の中心めがけて、額の一番硬い部分を思いっ切り当てにいった。顔の中心というのは人体の弱い部位である。だからたったの一発でその顔面パンチは成功した。

 まさかこのような反撃に遭遇するとは想像もしていなかったメグミは、その場に崩れ落ち、鼻血を垂らしながらその場に座り込こんでいた。それを見ていた弟は、驚いて、急いで彼女をその場から立たせると、慌てふためきながら、家から出て行ったのだった。

 毒親だった母は、この光景を目に焼き付けるようにしながら、見ていた。
この子はいったい何者なのだろうか、私にとっては天使なのか、それとも悪魔になるのだろうか、どう判断すれば良いのかわからないといった風だった。

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