毒親からの解放ストーリー (47)
この事態はすぐに対処するべきだと思い、横浜市の地区の区役所に出向いて介護保険の申請をした。と同時に区役所の相談窓口に行って、事の次第を説明して行政サイドからのアドバイスを受けることにした。 つまり父の遺産で得た母の財産を独り占めするために、母のお金を使って家を建て、そこへ引っ越した後に体調を崩した母は、家の中にこもるようになってしまった。自分で身の回りのことが出来なくなるにつれ、認知症状も出始めたのだ。
その様な状態になれば、一般的には、同居している家族が市役所や区役所などの行政の窓口で介護についての相談に行く。そしてケアマネジャーとかかりつけの医者によって、どのくらいの介護が必要かを決めるために家族の中からキーマンになる人と共に、対面調査を受ける。そしてその調査結果を基に行政のが、介護審査介をして、介護度が決定され、ようやく介護サービスが受けられる。
それなのに、弟のヒロシはどこかから良からぬ情報を得たのだろう。かかりつけ医から母は認知症である、という診断が出されてしまうと、母が書いたとされる遺言書は無効になる恐れが生じてしまう。だから弟は、母の認知症がばれないように、行政の介護サービスを一切受けようとしないのだろう。
それで母をあのような劣悪な状態で家に閉じ込めている。これは明らかな虐待なので、ヒロシがギャンブルをするために、家を出ているすきに、ケアマネに家に来てもらった。かかりつけ医として、私が診断するからと、家の状況を行政に説明した。必要とあれば、警察も呼ぶ覚悟だ。
私はヒロシに何と言われようとも、この家で母を守るつもりだ。これは母に対する愛情なんかではない。二次相続に対する備えなのだ。母が死ぬと再び相続が発生する。この場合は父の相続が終わった後の二番目の相続なので、二次相続という。
一次相続では夫婦のどちらかが残っていれば、妻、または夫が相続するのは、相続財産の二分の一で残りを子供の数に応じて均等に分割する。その後に残った妻、または夫が亡くなったときに発生するのが二次相続なので、この時は子供の数で均等割りにするのだが、遺言書がある場合には、その遺言書が法的に認められれば、相続人を一人に限定することもできる。但しこれはあとで、相続争いの元凶になるケースが多い。
ともあれヒロシは、2次相続に備えて、母を言いくるめ、そして母も弟の案にまんまと乗って、遺言書を書いたのだろう。その時点では母も今より元気だったし、元々私より弟のヒロシを可愛がっていたから、父の遺産が入ると、喜び勇んで彼の言いなりになり、一軒家を買ったのだ。そして二人してそこへ移って行った。
しかしこの家に来てまさかこのような体になるとは夢にも思ってみなかったはずだ。私の診たてでは、脳梗塞を起こしたに違いないのだ。その発作を起こした六時間以内に適切な処置をしてさえいれば、今の医学では後遺症を起こす確率は極めて低くなるのだが、その時母が一人で家にいた時の発症であれば当然、手遅れになる。
しかしヒロシは父からのお金が入ると、以前にも増してギャンブルにのめり込んで行った。彼の周りにいる人間たちも、遺産が入ったヒロシをおだてて、ギャンブルに誘った。そして素性もわからないような人達にちやほやされていくうちに、彼等の金ずるとなりそこにどっぷりとはまった生活をしている。