毒親からの解放ストーリー (31)
そんな私の心の変化に気づいたのか、先輩はたまに喫茶店に誘ってくれた。
二人でいる時間は凄く楽しい。特別な話など無いけれど、同じ時を共有して、同じ空間にいて、同じ空気を吸っているという事実だけで私の心は幸せで一杯になった。
こんな気持ちは初めてだった。私にとっては、毒親の母だったが、そんな母のおかげで、先輩との距離が近くなれた事に感謝をしたいとさえ思うようになった。
田中先輩は二年間の病院実習が終ると私にこう告げた。
「これから国家試験に向けて勉強をしなければならない。だから暫くは今までのようには会えないと思う」
そう告げられた時には、これで先輩との関係は終わったなと思ったけれど、私は必死で笑顔を作って、何ともなかったようにこう言った。
「さよなら国試を頑張ってくださいね、陰ながら応援しています」
母親にも愛されなかった私みたいな人間が、男の人から愛されることを、夢見てはいけなかったのだと自分に強く言い聞かせながら、今まで夢を見させてくれた田中先輩に感謝をしながら深々と頭を下げた。しかしなぜだか、自然に涙があふれ出た。
先輩の医師国家試験が終わると、すぐに卒業式だ。そして謝恩会が終わった翌週の日曜日に先輩から話があるからと急に呼び出された。
てっきり別れ話をされるものと思って、待ち合わせの場所へ行くと
「元気がないけど何かあったの?」
いきなりそう言うと、
「やっと終わったよ。多分大丈夫だ!」
そう言うといきなり強くハグをされた。
驚きながらも嬉しくて、ずっとハグしてもらいたいのと、恥ずかしさで、身を固くしていると
「僕は大学院に進学するつもりだけど、君がオーケイなら、僕と正式に付き合ってくれる?」
と言うではないか。
あまりにも突然の事でどうして良いのかわからず、ただ頷くばかりの私だった。