【詩】不確定フィルム上映
踏切を待ちながら、
暑くなった、サドルを撫でて
何気ない言葉たちは、
蒼天へと消えていく。
大事なことも、他愛のないことも、
同じ時間をかけて、消えていく。
のこされた、熱、ふぞろいな、秋風。
過ぎた夏、
虫の聲はどうして優しかったのだろう。
大切なものが、
遠ざかってゆくことに、抗うとき、
どうして、
ひぐらしだけが鳴いているのだろう。
瞼、次の、カット。
目を閉じて、開いて、
相変わらず、サドルを、撫でていた。
次のシーンで、踏切を渡る。
隣に、誰かが、居た気がした。
誰も見ていない、群像は、切り取られる。
灼熱があって、
寝不足があって、
不機嫌であって、
いつも、
何もかもが、
おかしくてしかたがなくて、
整理されていない情緒が、
朝日と夕日を繰り返す。
潰れた店。
並ぶスナックの看板。
開かないシャッター。
一件だけの本屋。
それは、ふるさと。
誰もいない。
いい町だった。
そう言える、
年月に、
感慨もない。
いい町だった。
フィルムは、埃をかぶったまま。
西陽に当てられて、忘れられて。
切り取られる前の、
目の前を、過ぎ去る、鈍行列車。
轢き殺される、刹那の蝉時雨。
記憶に、焼き付けてみても、
もう、巻き戻されなかった。
ただの蒼天、
ただの夕陽、
ただの聲。
誰もいない。
誰もいなかった。
名無しの帰り道。
また、消える言葉。
ウォークマンから
名前も知らないミュージシャン。
そうして、異国のハーモー。
何も知らない。
それでも、全部が、耳に残る。
思い出せるのなら、口笛に映して。
散らかされた情緒が、
過去と未来を行き来する。
自転車を漕ぎ出すとき、
確かに、何ごともなかった。
取り止めのない、シーン。
その、つなぎめ。
そこに、居た。
そこに、在った。
不確定。しかし。希望的観測。
実在の無い誰かの話し声。
切り取られた、誰かの、
ただ、優しいだけの。
ただ、血の滲むだけの。
【不確定フィルム上映】
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