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【詩集】破片のうちがわ

No.1

寂しくないを表す言葉
寂しいに収束する言葉
ありふれているのならば
ニセモノと呼ばれてしまう
わたしを証明し続けること
今日の意味が滲んでゆくこと
相変わらず曖昧に進んでゆくこと
原石がぶつかり合いながら崩壊して
今日もおとなしい混沌が生まれてゆく

【破片のうちがわ】


No.2

目を閉じていたい
手を伸ばさなくてもいい
私が大切な生き物なわけがない
そう思いたかったのは
傷口に触れられたくなくて
お互いの血の色を知らないまま
透明で潔白で純真で蒼天をかぶるように
繋がった糸をそういう括りにしたくて
あの日聞いていた音楽が
滑り落ちていく指から
繋がらない糸が

【縫合される天国】


No.3

君に色を与えた気になって
本当は僕の視界が白かっただけ
僕の色を誰かが教えてくれるのを待って
何も見ない、実体に触れない日々に生きて

上から塗り足されてゆくから
もう最初からはやり直せない
認識した色彩を捨てられない

だから、僕は何色でもよかった
最初から、無意味な問いであっても

【ホワイト・アウト】


No.4

いなくちゃいけない君
いなくてもいい僕
そうして天秤は釣り合っていた
僕の見積もりを多くした途端に
かたん、
音がして、
壊れてしまった、
とある酷暑の出来事

これを別れと呼ぶのなら
とても即物的で呆気ない
そう、マス目を埋めた時
先生の目を見つめてみた
あの日の解答用紙と君の行方は、

【期限切れの問題提起】


No.5

緑のまま、葉は揺れて、落ちて、
それを見たままの、子供の瞳は、
そのときを持ったまま、時を渡る

緑色の川を見つめている
老年のような心持ちに
複数形の年をまたいで
若葉が落ちてくる
何層の憧憬を、
通り過ぎて来ただろう
葉脈を泳ぎ続けて、
何を結んで来ただろう

【緑の地層の思い出旅行】


No.6

空間をつなぐシャボン玉
見えない円がつらなった
結び目は物理法則の外側

地球とプラネタリウム
その境目に惑い続ける
たよりない気泡の集り
天から流れ落ちる時刻に
円のつらなりに破れていくつながり
結び目はすべり落ちる

流星とシャボン玉は落ちて上がった
僕の迷いの数だけ落ちて上がって

【えんかん・りんね・えにし】


No.7

空はまばゆい雨を降らせて
傘は花畑になってゆく
人々は花畑の下に沈む

反射する光にあてられて
つぶれてゆく花束を想うとき
ふと、つたう、わたしの涙と
窓の外で、落下する雫が
失くされた意味を追いかけるように
同じ速度で着地するときには
何もなかったかのように
鮮やかさの贄となって

【アレンジメントされる夢】


No.8

季節の脆弱なこと、意識の頼りないこと
慣れてしまうこと、寂しさを忘れること
秋を巡るのならば、星をひとつお土産に
願うだけ、願うこと、つづくのならば、

枯れゆく日々に手を振る時に
少しだけ笑っていられるから

【心をわたして、木の葉の微笑】


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