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【詩集】霊の在り処

文字列に編み込まれたわたしが
読んでしまった人間の瞼の裏に棲む
そうしてわたしの視点はあまたとなる
わたしは万物とつながることを
わたしは全てをみてしまうことを

望んだことか叶ったことか
遠いところの起点を忘れて

多面は迫りくる
捲られ続ける頁
増幅する視界
増殖する自我

【ego】

わたしの引いた歪な線
ここから夜明けが来る
歪んだ太陽がのぼり
水面のような朝焼け
クラゲのような陽射し
全ての線が溶けてゆく
時間も空間も落ちてゆく
わたしの引いた歪な線は、
創世に失敗し、
誰も生まれず、
一時の期待が無に帰して、
何も、在る事はなかった

【nirvana】

かるくなるのは、沈んでいたから
浮上するとき、どんな顔をしていた?
眠りだけがやさしい世界を嫌って
海底へふかく沈んでにげたときに
また、かるくなると信じていた?
もう、浮上しないと誓っていた?
思い出せない紀元前
はじまってから何世紀
私の存在は神話になって
何度も海に流されていた

【genesis】

抒情よ、この手を取りゆくか
私が願った、回帰する無であった頃へ

何も奏でないころというのは
音の揺れもないということは

言葉の生まれるまえのこと
抒情の必要もないころか

寂しいと思う気持ちさえ
回帰した無には希望と共に零となる

抒情よ、回帰を恐れよ
わたしをおいて、逃げ仰せよ

【infinite】

大地が裂けて、天使が生まれた
万物が天使を育て、天使のために滅びた

愛は無念無想

崩落する文明に微笑むときには
抱擁はすでにほろびてしまった

誰のためにも祈れないのならば
愛を与える存在が消えたのならば

この梯子をのぼる孤独
虹がかかろうと誰も見ることの出来ない

空い美しさ

【rainbow】

瞼の裏のうつくしい滅びを
だれとも共有できないまま
今日の天気の話をしている
誰かと誰かが愛し合った
そして誰かは絶望した
私は私の滅びだけを
笑顔の裏にたずさえる
今日もわたしは落下する
避ける大地に落下する
コキュートスでは誰に会う
週末の約束、希望を捨てて
安堵を選び、滅亡を選ぶ

【Valkyrie】

ふるえるこころはあめつちをゆらす
この地に名前をつけた王はどこへ行った

廃墟の空は栄華のころとかわりなく
壊れた門にいのる乙女の血はかわりなく

ふるえるこころはあめつちをゆらし
かつての王国をおしつぶしてしまう
かたちだけの神殿は崩落する

誰も記さない出来事の痕跡に腰掛けた男は
煙草に火をつけ、ゆれる煙に目を閉じた

【temple】

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