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【詩集】7月ラストオーダー

No.42

絶滅したのは、激しく生きたから
苛烈を極めて、その存在はひかり
誰の脳にも、焼きついているはず
それでも、人々はおぼえてはない
たしかに、絶滅してしまったのだ
だれの目にも、見えていた存在が
きっとあった、名前ごと消え失せ
地球に生まれた空席に疑問は無い
どの図鑑を開いてもいなくなって
たしかに生きていたものが絶滅し
わたしたちは、それを忘れている
絶滅した何かの、空席はそのまま
徹底的に、消えることに成功して
わたしたちは、生き続け腰掛ける
だれにも、自分の席はゆずらない
それが根源的な生命活動であるが
徹底的に、消え失せていた存在は
絶滅という真実をわたしから奪い
大変上手に、地球に空席を生んで
激しいまま苛烈に絶滅に成功した

【青い日々に欠席】




No.43

時間はいらなかった、水の中で目を開けることに
わたしは、地上よりも勝手を知っていた、海の底
塩分濃度、今日の気分、多分不機嫌なのは深海魚
どちらを選ぶ?ある日の問いに、曖昧な顔をした
どちらが果てる?この先への問いに、不敵な笑い
あぶく、あぶく、蒸気機関車を見つめていた日に
いちばん、深いところで、熱せられた心を思って
いつも、なにかにたとえてばかりの地上のわたし
まるで、なににもなれなかったみたいな他愛なさ
なにも、至るところも、溶け込むところも、無く
わたし、そのためには、付随するものの名前だけ

地上に居て、海底を思い、
海底に沈み、地上を思う
いつも、
なにかにあこがれてばかりの海底のわたし

まるで、なににもなれなかったみたいな他愛なさ
まるで、どこにもいなかったみたいなあっけなさ

【ないものはいつもきれい】




No.44

夜明け、月は満開を迎えていた
陽の光と、花吹雪の音で目覚め
カレンダーは、今日を照らして
わたしの日々は、散っていった

窓の外はうるさいほど、ひかる
かつて、こころは乱されていた
綺麗なものはこわくて触れない
窓の外はいつかの後悔のひかり
そして、日々へのわずかな感動

こころは平穏よりも凪いでいる
それは悲惨に打たれ続けた結果
ハッピーエンド、バッドエンド
まだ生きているからわからない

カーテンを、あけるかしめるか
少しの迷いが、指先に積もって
未だ、朝の陽光は怖かった
月は咲く、取り残された月光に
未だ、触れるのは怖かった

【さわがしく陽光をさえぎり】




No.45

はじまりが、つづくことを日常と呼ぶ
連続性に、くくられたくないという抵抗
よわいよわい、レジスタンスの上で踊る
なにかが、
特別であったのなら指輪はいらなかった
なにかが、
そばにあったのなら約束はいらなかった

【いつか、いつかはリフレイン】




No.46

僕は、枯れていった空の色、その真下に立って
結局、必要なことも不必要なことも語らなかった

無口で、お喋り、それが両立する唇をもったまま
今日も枯れていった空の色を眺めて、その真下に
佇む、散歩をする人々にとっては、多分透明な僕

僕は、誰にも語らなかった気がする
それでも、僕はお喋りだったから
何も知らないのに、何も知られていないのに
誰とでも、一緒に暮らすことが出来た

空は、枯れた色がよかった
焦る心を鎮火してくれるみたいで

語ることの無い僕であっても、
目立つことはなくて

だから、
誰の目にも、憂鬱には映らないから
明日も、
お喋りをしながら、何も語らないで
誰とでも、
一緒に暮らせる僕のままで

【カナリアは青空を知らない】




No.47

遠い場所の砂浜を裸足で歩いている
すこしだけ、
あつくて、
風は吹いていなかった

波の音は聞こえている、遠い場所には誰もいない
立ち止まった時、少し足を埋めてみた
足の甲だけが見えて、少しだけ光っていた

遠い場所、
どうやって、
辿り着いたのか覚えていない
どうやって、
海を見つけて、どうして砂浜を歩く?

風は吹いていない、肌に感じる温度はないけれど
この海がぬるいことを、すでに知っていた
砂浜を裸足で歩いている、ここは遠い場所
どこから遠いのかも、わからないまま

理由もわからずに、
靴はどこにあるのかわからずに
ただ、
遠い場所の砂浜を裸足で歩いている

【あつくて、しろくて、とおくて、】




No.48

はじめて、名前を知った時
僕の声帯が、震えることを恐れた
その名前の、波形に沿うということは
ひとつの、輪郭を、無防備になぞることだ
僕の声帯が、その名前の波形に沿うときに
僕の心の形が、その輪郭からの作用を受けること
その恐ろしいことを、誰にも悟られないように
群青の窓のそばで、ことの、過ぎ去ることを
目を瞑り、身を縮めて、待っていたというのに、
次の瞬間、
恐ろしい指先が、
僕の肩に添えられらる

【声帯の記憶はうつくしい形状】




No.49

音の、流れ落ちる風景を、緑色の床に寝そべり
ただ、眺めていた。
さみしくは無かった
人間的でありたかった頃には
金属音の連鎖みたいな季節が
ただ、流れ落ちてゆくだけで
緑色の床は、いつも冷たかった

珠をつらねたような暦、まぶしくて
このごろは、人間的になりすぎて
緑色の床に、温度が生まれていく
金属音の連鎖は止まって
ほんものの季節が生まれて
ただ、眺めることをやめて

【不変を落として、進行を踏む】




No.50

架空の梁を見上げてみれば、
誰かの足が浮いている

そこにいたの、そう言った、
そこにいたの、そう言われた。

軽くなるほど、僕らの距離は透明になってゆく
綺麗とは思わないけれど、よく見えてゆく
僕も浮くものだろうか、土を踏みながら問う
なんだか、笑われた気がして
すこしだけ、うつむいてみた
また、軽くなるときに、
僕らの距離は見え過ぎて
とうとう、見えなくなって
そういうことを、繋がりと呼ぶことに、
気がつけば、何も抵抗なんてないと
君は手を繋ぎながら、笑っていた。

【とうめいに近づくつながり】




No.51

炭酸水に氷を入れるときの、涼しい音
君は目を閉じてしずかにきいている
まるで精神統一、ほんとうは乱気流
雲はいそがしく、白くなってゆく
炭酸水は空に浮かぶ、氷とともに
君はストローを探して外に出る
後悔ばかり、雨のにおい、末端だけがさむかった
君のあしおとは、薄氷をさがして、彷徨っている
どこかへ行きたい、それは今日がよかったけれど
今日も行き先は不明だったから、炭酸水に浸って
時間は雲の流れに巻き込まれて、雨が降るときに
薄氷はとおのいて、ただのアスファルトのうえに
ひとりで立つことに、
もうかなしみすら溶けて消え
乱気流の気持ちは、
行き場がなくても平気になって

君のひとりは、
ずっと尊いまま、冷たいまま、

【7月ラストオーダー】



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