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【詩集】8月ラストオーダー

No.16

熱帯魚と同じ色にしたかったペディキュア
匂いも知らないまま置きっぱなしの香水
すべてが、散らかったまま
それでも、頭は冴えていた

思い出す、一言一言
思い出す、影と形
いつも、思い出してばかりいたから
目の前の、水槽は真っ暗になっていた

すべての生命に、本当は同調出来ていなくて
口先だけのごめんなさいを繰り返して
口先だけのはずかしいを繰り返して

すべてが、散らかったまま
その度に、思い出は増えた
思い出す、思い出す、
綺麗なブルーを塗っていた
澄んだ匂いを纏っていた

【暗転した記録】




No.17

誠心誠意のうわのそら
鳥ばかり見て捺印をして
指先は他人事のように華やかだった

讃美歌が聞こえる午後1時
眠りと覚醒の合間をぬるくさまよって
乖離しながら散歩をつづけてまばらになる記憶

必死に寄り添いながらさめてゆく
心からの笑顔と一緒に軽蔑しながら手を繋ぐ
何もかもが優しくて、何もかもが燦々として

嘘だけが存在しない視界に今日も生きていて
別れを願いながら、この出会いに祈りを捧げて


【青い芝生に幸福論】




No.18

君を囲む数字は全て焔のようだった
灯火をかこんで木の実を食べていた頃から
だんまりと、君のことを眺めて廻り続けていた

わたしを表す文字は鴉と同じ色をしている
見失った君の目はそう言っている現在進行形
鳴いてみたところで、誰がわたしを見つけるだろう

なにひとつ伝わらないことは
喉の奥から生まれる音を聞いた時から
すべての遺伝子は理解していたけれど
きっとひとりは嫌だったから
ひとりを嫌がるふたりも嫌だったから

どこまで廻る、万華鏡に変わり果てた目玉で
わたしは、木の実を道路に転がしながら
いつでも上から、次の車輪を待っている

【円環につながれなかった意識体】




No.19

もう一度飛びたいのは、
白い月を拝む為ではない
ずっと、わたしは、
誰のためにも空は飛ばなかった
そういう、
まごころのゆくえを、少し追いたかった

偽者よりも笑顔はうまい気がして
偽者はいつもうつむくようになって
わたしはふたつをこなさなきゃいけなくて

地面は重い、空は軽い、そんな都市伝説
何度も、何度も、視聴覚室で聞き流して
大切なことは、何時も、何時も、聞き逃して

もう遅いかもしれない、逆らいたいニュートン
屋上から衛星を掴んで、明日の笑顔はへたになる
視聴覚室では、すすんで耳を塞いでみよう

もう一度飛べるのなら、
まごころを見つけたのなら、
太陽に連れて燃やしてしまいたい
ずっと、わたしは、
わたしのためにだけ、
空を飛ぶ


【月面探索への切符】




No.20

高い純度はいつだって鮮血の上
羽ばたくことは虚しさの発露
何度も諦めて四季は飛んで
寒冷地で燃え尽きたのは
だれの明晰夢だろうか

どうして、ここが、わかったの、
夢の中では、振り返られないから、
ただの疑問符すらも、凍ってゆく、

誰かの夢の中では血を吐いて生きていた
わたしの夢の中では重力に従順であった
熱くなる、充血する夜明け前、新雪に眩しく

振り返るときに、世界が壊れてゆく
目を覚ましては、浅い呼吸がつづく
わたしの血管をすり抜けてゆくのは、
誰かの夢と夢、花向けのための残響

【8月ラストオーダー】



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