不安障害の不登校(外出自体が苦手)
「不登校は問題行動ではない」の記事の反響が大きかったので、しばらく不登校をテーマにしてこれまでの臨床経験から得られたものをシリーズで記事にしていきたいと思います。(といっても、前回書いてから、だいぶ時間がたってしまいました・・・)
発達障害の特性のあるこどもは、どうしても不登校になりやすいと言えます。自閉スペクトラム症、ADHD、学習症のいずれもそうです。前回はADHDの不登校(自己コントロールが苦手)について書きましたが、今回は不安障害の不登校について考えてみます。
不安障害の特性については「発達障害を考えるときのキホン5〜不安になりやすいかどうか〜」に書いていますが、「不安になりやすい」という特性は、不登校になる要因としては一番大きいものだと考えられます。不安障害は厳密にいうといわゆる発達障害ではありません。しかし私のクリニックに来院された子どもやそのご両親に、子どもの状態をアセスメントして説明するときには、この不安になりやすいかどうかという点を必ず交えて説明をしています。
学校は、子どもにとっては社会そのものです。学習、対人関係、時間管理、事務管理、遊び、運動、部活、先生との関係、先輩後輩との関係、同級生との関係、建物の雰囲気、登下校などなど、子どもの人生で家庭以外のほぼ全ての要素が学校に集約されています。もちろん習い事など他の居場所がある子どももいますが、時間的にみると学校の比重は非常に大きいものです。
不安になりやすい子どもが不登校になる場合、上にあげた学校に含まれる要素のうち、どの部分がネックになってしまっているのか見極めることが大切です。
・実は学習症があって勉強が難しいから「不安になって」学校がいけない。
・自閉スペクトラム症で友達とコミュニケーションがうまくできないから「不安になって」学校に行けない。
・ADHDでやるべきことがうまくこなせず、怒られてばっかりになるから登校するのが「不安になる」
・先生の雰囲気や話し方がどうしても「怖くて不安」
・同級生が自分のことをどう見ているのか気になりすぎて「不安」
・何が不安なのかはっきりわからないけれど、学校という場所や雰囲気自体がなんとなく「怖くて不安」だから登校できない。
などなど。実際に不登校になっている子どもに、「何で学校にいけないの?」と聞いても、答えてくれる子どもは少ないです。まだ自分が何に不安になっているのか分析する力がない場合が多く、あるいはある程度わかっていても、上に書いたような複数の要因が折り重なっているのでうまく表現できない子もいます。
ですので、わたしは診察で確認するときには「勉強のこと、お友達とのこと、先生のこと、どれが一番心配なのかな?」と聞くようにしています。比較的明確に一つを上げてくれる子どももいますが、それでもやっぱりはっきりしないことの方が多いです。
そして次に考えるのは、その不安の対象は、学校にまつわるものだけなのか、それともそれ以外にも向いているのかを確認します。学校にはいけないけれど、公園では友達と楽しく遊べている子もいます。公園ではあそべないけど、オンラインで友達とゲームを一緒に楽しめる子もいます。友達とは遊べないけれど、家族と商業施設にお出かけできる子もいます。学校にはいけないけれど、塾では勉強できる子もいます。集団の塾は無理だけど、個別指導だったら受けられる子もいます。家から出て勉強することはできないけれど、家庭教師の先生に教わって勉強できる子もいます。家庭教師は無理だけど、訪問の看護師さんならあって話せる子もいます。他の子が外にいるかもしれない時間帯には外出できないけれど、みんなと会う心配のないお昼や夜なら外出できる子もいます。
このように、子どもの行動をよく見ていると、何が不安で、何ならそんなに心配していないのか、言ってくれなくてもある程度大人の方で推測することができます。子どもがそこまで不安になっていない場所や状況、対象を見極めて、そこから活動できることを広げていって、「あ、そんなに心配しなくっても大丈夫かも」と思える体験をさせてあげることが大切です。
学校は不安だけれど、友達と外で遊ぶことができる子には、積極的にそういう機会を作ってあげます。そうすると、友達との関係の中から安心感を得て、「学校いってみてもいいかも」という気持ちになる子もいます。
やはり大切なのは焦らないことです。「これなら大丈夫かも」と思えるようになるタイミングは子どもによってそれぞれで、時間のかかり方もそれぞれです。しかし、「いつまでも今と変わらず不安なままで、このまま大人になっても引きこもりのままなんじゃないか…」というのは、少々心配のし過ぎです。不安をコントロールする力は、そこまで無理に訓練したり治療したりしなくても、年齢が上がっていくと向上してきます。不安になりやすさが原因で不登校になっている子どもは、どこかで「これなら大丈夫かも」という感覚をつかんで、行動するようになってきます。周りの大人は、そのタイミングを待ちつつ、その時にいろんな選択肢を提供してあげられるように、いろいろな場所やいろいろな生き方があることを伝える準備をしておくことが大切です。