ただ乗り問題の解決法(メカニズムデザインの実験分析から)

ただ乗り(free riding)とは、経済学では「公共財に対価を支払わず、便益を享受する」ことを指す。しかしこれは、ある集団や組織内においても起こることで、いざ集団となると仕事を怠け、もらうものはもらおうとする者が出てくる。メカニズムデザインでは、これを Social loafing (集団のなかで怠けること)というが、では、こうしたただ乗りはどのように解決できるのか。実験経済学では、様々な実験と研究がなされているが、そのなかでもコストをかけずに解決するいくつかの事例をみてみよう。参照したのは、Yan Chen and John O. Ledyard, "Mechanism design experiments"

1. 評価の可視化 (Evaluation potential)
個人の集団への貢献を特定し評価すること。とりわけ、その個人の仕事量と身分証明(写真つき)を明らかにした場合、ただ乗りを抑制することができる (ref.1)

2. 仕事が何と結びついているのか認識する (task valence)
与えられた仕事が重要であり意義深いものだと認識すればするほど、ただ乗りはしなくなる傾向がある。

3. 集団の結束力を高める (Group valence)
所属する集団が達成することを通して、個人は自らの意識を高めることから、集団の意識と結束力を高めることで、ただ乗りを防止することができる。ある実験では、単なる一過性の集団では協力的な働きは見られなかったが、一方で、集団意識を高めるような行動は大きな協力をもたらした (ref.2)。よって、個々人が高い集団意識をもてば、ただ乗りを制限することができる。

4. 相手の仕事への期待 (Expectation of co-workers)
集団内でともに働く他者がより働いてくれると思うとき、人はただ乗りしようとする。一方で、そのように期待しないとき、人はただ乗りしなくなる。

5. 仕事が特別であること(Uniqueness of individual input)
自分の仕事がつまらないものだと思うと、人はただ乗りする。しかし一方では、その仕事が集団にとって特別なもの(かけがえのないもの)だと思うと、ただ乗りをしなくなる。これには映画レヴューをするサイト、MovieLens のユーザーを対象に行った面白い実験があって (ref.3)、「あなたのレヴューはサイトに特別な貢献をしている」と言われたユーザーは、それまでよりかなり多くのレヴューを書くようになったという。

6. 単純な仕事より複雑な仕事を (Task complexity)
人は単純な仕事だと怠けるようになり、複雑な仕事だと勤勉になるという。これは、人は複雑な仕事に取り組むことにやりがいや関心をもつためではないかと言われている。


これらはメカニズムデザインの文脈で報告されたものだが、コストをかけずにいかに個人にインセンティブを与えるかのひとつの指標になるかと思う。



ref.1  Harkins, S.G. 1987.   Social loafing and social facilitation.

ref.2  Eckel, C. and Grossman, P. 2005.   Managing diversity by creating team identity.

ref.3  Beenen, G. et al. 2004.   In Proceedings of ACM Computer Supported Cooperative Work.

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