ペルセポリス(1971) 音楽の彼方、歴史の彼方へ
明日、地球が滅んでしまうなら、私はクセナキス作曲「ペルセポリス」を聴くだろう。世紀の傑作、いや、世界遺産のひとつである。
これは1971年、イラン(アケメネス朝ペルシア)建国2500年を記念した、シーラーズの国際芸術祭のために作曲された。ここにはいまでは廃墟となったかつての宮殿群ペルセポリスがあり、これは紀元前520年、ときのダレイオス1世によって建設されたが、のちアレキサンドロス大王によって破壊され、再建されることなくそのまま廃墟となっている。
作曲家は、ペルシアという歴史的で偉大な国とその民族に向けて、彼独自の書法でこの宮殿を現代に蘇らせた。イランの子供たちがたいまつをもって廃墟を歩くよう演出されたというが、実際に音を聴いてみると、目の前に美しいペルシアの宮殿が建っているように思われてくる。われわれは音楽を通して、歴史の彼方へと浚われ、その目撃者となるのだ。
55分、ノンストップのうねるような音は破壊された宮殿をもう二度と壊れないように堅牢に作り上げるかのようである。われわれ日本人には馴染みのない異国の廃墟のなかに、人間の歴史と素晴らしい民族の姿を見ないではいられない。
サブタイトルにはこうある。
We bear the light of the earth.
この bear にはいくつもの意味があるが、ここでは2つの候補があげられる。ひとつは「(女性が子供を)産む、もうける」という意味。またここから転じた「実を結ぶ」という意味。そしてもうひとつは「運ぶ、伝える」である。目的語は the light of the earth であり、歴史の連なりの先端に現代のわれわれが立っていることを踏まえると、ここでは後者の意味にとれる。しかも「運ぶ、伝える」には、単に物理的にモノを運ぶという意味ではなく、「風にのせて運ぶ、言い伝える」という詩的なニュアンスがある。
地球の光を、現代に生きる私たちはそれこそ音楽に乗せて受取り、そして音楽とともに後に伝えるのだ。