ウスターソース 担当:ヤナイユキコ
「あなたの代わりはいないよ」
そう微笑みかける余裕こそないが、そんな気持ちで私はウスターソースを手に取った。
しりとり手帖、3回目を担当します、ヤナイユキコです。肩書きはフードライターですが、育児や生活にまつわる文章を書いたり、料理レシピの制作をしています。小説も書きます。
しりとり→リカバリ→竜宮城→と回ってきたので、私はう、う、う…ウスターソース!!!
今回は私のウスターソース愛について。
冷蔵庫を開ければ、中濃もとんかつもお好み焼きソースもある。でも、サラッとしていてスパイシーでちょっと辛口なウスターソース、あなたじゃないと駄目なのよ。
これから食べようとしているのは、
炊き立ての白いご飯と目玉焼き。
私にとって完璧な朝食。
これが毎日でもいいし、最後の晩餐もこれがいい(それかお鮨)。
フライパンにオリーブオイルをたらし、十分に熱したら、卵を割り入れる。
ジクジクと白身のふちが踊り始め、
今日は黄身をどの程度固めようかと考える。
少し水を入れて蓋をし、
黄身に白身の膜を被せる半熟パターンか、
ひっくり返していっそ固めに焼いてしまうのでもいいな。
そこまで考えて、でも今日はウスターソースで食べるから……と、白身だけプリッとカリッと焼いて、黄身はレアな状態に仕上げた。
少し前まで、目玉焼きは“醤油一択”だった。
ふとそんな私の保守的なところが、この世界の醍醐味や可能性を狭めているように思えて、ウスターソースをかけてみた。
そういえば、学生の頃お付き合いしていた人と「目玉焼きは醤油派?ソース派?」という話をしたな、と思い出す。「せーの!」で出した答えはふたりとも醤油で「だよねー!」と盛り上がった。それだけで、何でも分かり合える運命の人のように思えるから恋の魔法は不思議。
でもその相手がソース派だったら、見える景色が変わるかもしれなかった。同じものを好きなのがすべていいとは限らないということを、当時の私は考えもしなかったと思う。
茶碗にご飯を盛って、焼きたての目玉焼きを皿に乗せる。ウスターソースの日は別盛り。とろとろの黄身とウスターソース、オリーブオイルの油っぽさが混ざると最高においしいソースに変化して、こんな卵かけご飯があってもいいなと思う。
半分ほど食べて、思いつく。
先日試した、野菜を刻んでつくるサルサソース。ウスターソースとタバスコで味付けをしたら、目を丸くするほどおいしかった。もしや目玉焼きでも……と。
私はいそいそとタバスコを取りに向かい、
パッパッと目玉焼きに振りかける。
ひと口食べて予感は当たる。
そう、ウスターソースは世界を広げてくれる。
他にもミートボール、ハンバーグのソースにウスターソースは欠かせないし、牛肉の炒め物や野菜のきんぴらで醤油代わりに使うのもおすすめ。なかでも、つくり置きの定番・味玉は、ウスターソースで漬けると新しいおいしさに出会えるレシピである。
〈材料〉
ウスターソース……大さじ4
砂糖……大さじ1
酢……大さじ1
水……100ml
ゆで卵……3個
〈つくり方〉
①小鍋に水と調味料をすべて入れて一度沸いたら火を止める。
②ポリ袋などに①を入れ、好みの固さにゆでて殻を剥いたゆで卵とともに漬ける。
③一晩以上漬けたら食べ頃。3日程度おいしく食べられる。
醤油ベースで漬けるより、かなり黒っぽく色がつくけれど、味は濃くなりすぎないので大丈夫。
紅生姜とともに食べるとおつまみ感アップ! お酒好きの方、ぜひお試しあれ。
ね、ウスターソース。あなたの代わりはいないでしょ。
ウスターソースについてこんなに話せる日がくるとは思っていませんでした。しりとりに感謝!
ということで次回は「す」。
一緒に『mg.』というZINEをつくっている、須田さ紀え氏にバトンを渡します。お楽しみに。
※しりとり手帖の説明についてはコチラから