ヤナイユキコ

ワインとビールと珈琲を愛するフードライター。ヤナイユキコ名義で文章や小説を書いたり、料…

ヤナイユキコ

ワインとビールと珈琲を愛するフードライター。ヤナイユキコ名義で文章や小説を書いたり、料理レシピ制作をしています。どうしたらおいしくお酒を飲めるかを考えるのが趣味。三男一女の母で、「mg.」という食べものZINEの制作メンバーです。先天性心疾患や発達障害に少々通じています。

マガジン

  • しりとり手帖

    • 35本

    しりとりをしながら、最後の音節で始まる言葉をテーマにした何かを担当メンバーが発信します。

  • 綾子と達也のはなし

    綾子と達也という二人の男女の物語をベースに毎回ひとつの食べ物をめぐって展開する連作短編小説を書いていきます。

最近の記事

  • 固定された記事

スマホアプリの【縦式】と【Canva】で本をつくる方法

自分で本をつくりたい。 そんな願望を、熱量を、胸の奥にしまい込んだままの人が、ひょっとして大勢いるのではないでしょうか。 私もそのひとりで、 本の中身(本文)は書けるけど、 レイアウトができない。 印刷に出せる形にまでもっていけない。 【文章は書けるが、つくれない】と思ってきたのです。 ZINEと呼ばれる、言わば同人誌を友人らとつくりはじめて6年近く経つのですが、レイアウトやデザイン、印刷関係はすべて編集長任せで過ごしてきてしまいました。 そんな編集長が、デザインソフ

    • 2024年8月11日(日)の日記

      夫は法事のため早朝から山梨へ。8時頃起きて、子どもと私だけで朝ごはん。 買ってあったパンを子どもは食べ、 私は昨晩の冷や汁の残りと焼きおにぎりを食べる。きゅうりの輪切りと大葉、茗荷、すりごま、味噌とだし汁でつくるシンプルな冷や汁は、実家の味。夏は毎日、冷や汁とご飯でいいと思う。最近、朝ごはんをやり直せていないけど、やり直すなら冷や汁はマスト。豆腐を入れたりなどして、食べていそうと想像する。 今日も暑くて外に出られなかったので、 noteで運営しているマガジン「しりとり手帖」

      • 2024年8月5日(月)の日記

        月曜日だ。 子どもが夏休みでも月曜はくる。 夫がいたとて、子どもの遊び相手を進んでしてくれるわけでもなし、夏休みの宿題を見てくれるわけでもない。さらに昨日はmg.が参加していた機械書房さん主催のイベント「スピードスターブックフェス」に、三年に一度くらい稀な日曜出勤をジャストミートさせ、私をだいぶがっかりさせてくれたけど、金曜の深夜から三男が発熱。最終手段の子連れで行くことも不可能になり、がっかりは土曜の段階で諦めに変わった。今回は仕方ない。この「今回は仕方ない」、何度、思っ

        • キッチンドリンカー 担当:ヤナイユキコ

          主に女性が家事をしながらお酒を飲むことを、キッチンドリンカーという。 なかにはキッチンドリンカー=アルコール依存症となった人、と言い切ってしまう解説もあったりで、私はもうアル中なのか、とぼんやりする。 数日前にXでつぶやいたのだが、私は料理をしながらのお酒が一番うまいと思っている。 未完成の段階の料理に塩を振ったり、マヨネーズをちょびっとのせたりしてつまんで流し込むビールはもう堪らなくおいしい。 肉のジュージュー焼ける音や、食欲を掻き立てるスパイスの香り。フライパンから伝わ

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        • 綾子と達也のはなし
          2本

        記事

          あなたと喋っているような

          今年の5月に、初めて自分の名前で本を出させていただきました。 無名の自費出版なのに、張り切りすぎて最初から二冊(笑) 写真がメインである『朝ごはんのやり直し』は 私のXの朝ごはん投稿をmg.編集長のかわかみなおこ氏がフィーチャーし、編集・デザインをしてくれたおかげで完成した本。 もう一冊は、mg.さつまいも号に掲載する小説のためにイラストレーター・五嶋奈津美氏が手掛けた扉絵がとてつもなく素敵で、 これが表紙の短編小説集を絶対世に送り出そうと一念発起、こつこつ書いた6篇の短

          あなたと喋っているような

          担任の小平せんせい

          三、四年の担任だった小平先生の印象は今でも鮮烈だ。 小平先生は私たち生徒に、人間の善性について説き、自ら行動して見せ、それを植え付けた人だ(根付かなかった生徒もきっといたけれど) 担任になった当初はギョッとすることが多かった。 小平先生は配膳された給食を前に下を向いて瞼をふんわりと閉じ、 「父よ」からはじまる言葉で欠かさずお祈りをしていた。 私たちは小平先生がその呪文のような文言を一通り言い終えるまで、 不思議そうに先生を見つめる者もいれば、一刻も早く給食を食べたくて先

          担任の小平せんせい

          目だけ長瀬智也に似てる兄の話

          今月で私は兄より三つ年上になった。 兄は三十六歳で亡くなったのだ。 事故死で、兄の不注意が原因だった。あと、運が悪かった。 今だから言えることだけど、誰も責めない、誰も恨まないで済む死に方は 実に兄らしかったと思う。 怨念を抱く対象がいないというのは、残された者にとって楽でもあるし、空虚でもある。 だから今でも私にとって兄は5年近く会っていない、でもいつでも連絡はとれる、そんな存在のままだ。 実際、残されたLINEやSNSのどのアカウントにコメントしても、応答はないのだけ

          目だけ長瀬智也に似てる兄の話

          綾子と達也のはなし④|泣き顔にケンタッキー

          「ただいまー」 達也のほっとした声が消え入ってしまいそうに、玄関の扉を開けると部屋は真っ暗だった。この日二時間近く残業をした達也だったが、先の連絡によれば、綾子はすでに帰宅しているはずだった。廊下の明かりをつける。視線を下にやると綾子が今朝履いていたローヒールがそこにあった。突き当たりに目を凝せば、キッチンとリビングを隔てるドアの磨りガラスから色をもった光がちらちら動いているのが見てとれた。 「綾子さん?」 何も引け目を感じることはないのだが、どこか遠慮がちに達也はリビ

          綾子と達也のはなし④|泣き顔にケンタッキー

          ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

          時が経ちすぎたのもあって、 未だにあれは現実に起きたことなのか、 それとも妄想の類いだったのか、 曖昧な記憶がある。 私ひとりでは到底入る機会もない、 仄暗いラウンジバーだった。 鼈甲色にぼんやり灯る照明は、 近距離でしか表情が読み取れないほどに心許ない。 あまり周囲に顔を見られたくない人たちにとっては都合のいい明るさなのだろう。 お忍び向き、ひと言で言えば、そんな店だった。 好きになるのは初めて会った時に すでに決まっている気がするのだ。 名刺を渡したその時、 声を聞

          ビニール傘 担当:ヤナイユキコ

          綾子と達也のはなし③|ふたりで餃子

          「達也くんっていつも、餃子に何つけて食べてる?」 キャベツをフードプロセッサーにかけている達也に玉ねぎを渡しながら綾子は問いかけた。 「餃子のたねに玉ねぎも入れるんですか?」 「うん。玉ねぎを入れると化学調味料に頼らなくても甘味が旨味になる」 「へぇ、そうなんですね。おいしそう」 達也は細かくなったキャベツをヘラでこそげ取り、大きなボウルへ移す。そうして空になったフードプロセッサーに、先ほど綾子がざっくり切り分けた玉ねぎを投入した。 「餃子に何をつけて食べるかって

          綾子と達也のはなし③|ふたりで餃子

          生まれ変わったら。

          生まれ変わったら男になりたい。 自分自身が男性から裏切られたり、 友人から嫌な男の話を聞くうちにそう思うようになった。 でもこれは、私が私のまま男になったら、 女性をうーーーーんと幸せにしてあげられるのに、という話。何して欲しいがわかるから。 顔面も男顔だからこのままで、性別だけ変えてくれたらな。 と、ここまで書いて、私は生まれ変わっても、 幸せにしてあげたい側なんだなと気づく。 幸せにしてもらう、そうしたら、何か返さなきゃいけない。 もらってばかりでは、愛想を尽かされて

          生まれ変わったら。

          また吸いたいと思うその日まで

          10年くらい、たばこを吸っていた。 初めて買ったのは、好きな人が吸っていた金色のマールボロだった。彼の影を追って。 そのくらいの気持ちで手を出し、 子どもが出来たことを機にやめた。 母体であるわたしが喫煙者だったから、 だからその子どもが喘息持ちなのかも、 アレルギーがあるのかも、 自閉症なのかも、 心臓病があるのかも。 と、自分を責め出すとキリがない。 どうしてそうなったかなんて一生解き明かせないのにどうしたって原因を考えてしまうから、身体に悪いとされてることは最初か

          また吸いたいと思うその日まで

          BEER(ビール) 担当:ヤナイユキコ

          AM11:15 「セットのお飲み物はいかがなさいますか?」 来た、この時が。 ケイコは滑らかにそれがいつものように 「グラスビールで」 と、言った。ついに言った。 「グラスビールですね、かしこまりました」 主婦であろう女が、意外だと思われただろうか。 店員の表情が気になりそちらを向くと、バチッと目が合い、微笑み返された。 ケイコもマスクの下で笑みをつくり、心の中で呟く。「今日は歩きで来ました、飲酒運転はしません」 朝夕週5日通りかかる、フレッシュネスバーガーの入

          BEER(ビール) 担当:ヤナイユキコ

          綾子と達也のはなし②|タモリと克実と市販ルウ

          「綾子さんのつくるカレーは、どうしていつもチキンカレーなんですか?」 達也はキッチンに立つ綾子の背中に向かって話しかける。綾子は切った鶏肉に塩を振っているようだ。 「ん? タモリさんがカレーはチキンに限るって」 料理を始めた頃、いや、もっと前から、綾子はタモリの料理に絶大な信頼を置いていた。子どもの頃テレビ番組で見た、熟れた手さばきや腕前を目の当たりにし、出演者が「タモさんの料理はうまい!」と絶賛していた記憶が焼き付いているのだろう、と思う。三歳年下の達也は今や伝説の「

          綾子と達也のはなし②|タモリと克実と市販ルウ

          ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

          最近立て続けに、文章のもつ力に沁み入った。 一つは、私も制作に関わっている「mg.」というZINEの最新号「さつまいもをめぐる」にゲスト寄稿してくれた、シモダヨウヘイさんのエッセイだ。 シモダさんは文筆家であり、 福岡にあるブックバー「ひつじが」の店主であり、 かなりの焼酎通である(きっとお酒全般お詳しい)。 そんなシモダさんが「mg.」のために、 芋焼酎のエッセイを寄稿してくれたのだ。 これが、やわらかく心に響く、読んだら飲みたくなる文章で、 好きを押しつけないシモダ

          ひとりごと|通る人が変わればころっと好きになる

          三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録②

          「このままじゃ一家心中するぞォ!!!」 これ一語一句そのまま、次男の三歳児健診で浴びせられた小児科医の名(迷)言である。 このとき次男は三歳三ヶ月。 まだ人間の姿をした宇宙人で、 話は通じないし、発話はほぼゼロ、3秒と座っていられない明らかな多動だった。 三歳児健診と言えば、視力に聴力、簡単な受け答え(「今日はどうやってここまで来たの?」や「今日お父さんはどこにいるの?」などに答えさせる)、積み木で何かつくらせる等、発達の経過を見られ、身長、体重、頭囲を測り、栄養相談、

          三歳で自閉症と診断された次男が1年半でIQ64→IQ86に上がった記録②