上に浮いて前を見て下に沈んで前を見る。
3日前はやったー!嬉しい!!
2日前はやるぞー!わくわく!
1日前はしまった!動揺、狼狽。
これはここ数日の私の気持ちである。
3日前、とても嬉しいことがあった。今年の地元の美術展入賞の報せが届いたのだ。今まで何回も挑戦しては落選して、ようやく入選できたと思ったら賞までもらえた。
「材料費びっくりするほどかかってるのに、何にもならなかったらトイレットペーパー以下や!(お尻を拭くことすらできないから)」と大声で独り言を言いながら自分を追い込み、家事は最小限しかしないで家族を巻き添えにし、提出期限ギリギリまでかかって制作した日々。ああ、良かった、報われた、心底そう思って感慨深かった。
今までにもいくつか賞をもらったことはある。それらももちろん一定水準以上じゃないと入選はできない。けれど、出品に諸々10万円近く支弁が必要で、企業が協賛についているそれらのコンテストは、コンテストビジネスとでも言うような、なにやらお金の匂いがするものであった。
それに比べ今回の地元の美術展は、市が主催し、市の美術協会に所属する先生方が審査している。出品料は驚くほど安いし、展示会場は市役所の会議室で、純粋に自称アーティストのための発表の場として、誰にでも公平に機会が与えられている。
だから、その中で入選できたことは、美術協会の先生たちからみて美術の水準に達している、と認めてもらえたということになる。それ以上でもそれ以下でもない。たかが田舎の美術展かもしれないけど、そのことにすごく意味があった。
だから本当に、ふわふわと浮いてしまいそうなくらい嬉しかったのだ。
喜んだ私は、まず自分のSNS各種でそのことを言いふらした。
入選したよ!嬉しいな!みんな見てね!!と。
その後、パートに行き、同僚たちにも「すごく嬉しいことがあったから聞いてください~!」と強要した。
次々に反応が返ってきた。みんなが褒めてくれた。
素敵な作品だね、おめでとう、と。とても優しくて、温かいメッセージばかりだった。
けれど、実は2日前の私は、もう受賞した作品のことは考えていなかった。
みんなからのメッセージは心から嬉しく、励ましや後押しになったものの、私の中では過去の出来事。気持ちは先走り、「次はどんな作品を作ろう。題材は…テクニックは…大きさは…。」と構想(妄想?)を膨らませ始めていた。
ところが、昨日実際に美術展会場に足を運び、他の入選作品を見るうちに、ふわふわと浮いた足が徐々に地面にめり込んでいった。見えていたはずの景色が、とても遠くて本当は見えないと教えられる、そんな風に感じられた。
それは、別なジャンルの作品も含め、やはり入選・入賞作品はどれも感嘆に値するすばらしい出来栄えで、上には上がいることを思い知らされたからだ。私は美術の専門的な勉強をしたことはなく、知識という土台なしに自分の感性だけで鑑賞しているが、そんな素人目にもやはり”上手いものは上手い”と分かる。
私はSNS等で喜びを爆発させ、受賞を言いふらしたことが、猛烈に恥ずかしくなってきた。どうしてもっと謙虚になれなかったのか。穴があったら入りたいとはまさにこのこと。
そんな浮き沈みを経験したのちの今、3日間の心境と制作期間の自分を振り返る。
私は他の入選・入賞作品に嫉妬したのだろうか?いや、違う。感じたのはうらやましさや嫉妬ではなかった。それは憧れだった。いつか私もこんな素敵な作品が作りたいという希望だった。
では、自己顕示欲が強すぎて、入選しても満たされなかったのか?それも違う。確かに、今まで何度も落選していたから、今度こそ人に認められたいという気持ちがなかったといえば嘘になる。けれど、制作していた時、私は自分で認められる作品を作ろうとしていた。手抜きはしていないと許せる作品を。今持てる力を出せたと思える作品を。
それに何より、制作中の私は夢中だった。時間の経過も、体の痛みも、些末な日常も、何もかも見えないくらい集中していたし、高揚し、苛立ち、落ち込み、奮起し、没入した。
ああそうか。
私と、私が一心不乱に作ったもの。
良くも悪くもそれが今回の作品のすべてだったのだ。
提出期限があり一定の審査基準があるコンクールで、自分の人間性等を知らない人物に作品のみを見てもらうというのは、作品の芸術的価値を客観視するために重要である。一方で、審査結果がその作品の価値とイコールではなく、入選したあるいはしなかったという点のみに注目してはいけない。
だからこそ、自分の結果に対してもっと謙虚であるべきだった。もっと平たく言うと、受賞したと言いふらしちゃいけなかった。
次からは、次こそは、自分の満足を最大の報酬として制作したい。それは、ひりひりと痺れるような気持ちで、苛立ちと喜びのギリギリの境目を綱渡りするような日々になるだろう。まだ始まってもいない今の段階ですら、それを思うとげんなりしてくる。
でも、やってみたい。
きっと、受賞の喜びとはまた違う歓喜が、そこにはある。その景色が見たい。
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