不思議な体験その2・臨死体験
ふと気づくと、見知らぬ場所に立っていた。
左右には見渡す限り一面の花畑。丈の低い、色とりどりの花が延々と続いている。立っているその場所は、花畑の真ん中に通る真っ直ぐな道の上。舗装されていないが、しっかりと踏み固められた道だ。真っ直ぐ前に続いていて、先はT字路になっている。T字路の向こうは森のようだ。
なんだかとっても気分がいい。
暖かく、明るく日が差して、花が小さく揺れている。人の声や車の音はないけれど、不気味な静けさではなくて心が落ち着く。そういえば電線や建物のような人工的なものは、一切見あたらない。
ここはどこだろう。
知らない場所なのに不思議に穏やかな気持ちで、前へとゆっくり歩き始める。時々左右の花に目をやりながら。森が少しずつ近づく。
するとT字路の右側から誰かが走ってきた。髪を振り乱し、慌てた様子だ。
母だ。
亡くなったはずの母、会うのは久しぶりだ。嬉しくなって駆け寄ろうとした。しかし母は、来ては行けない、戻りなさいというようなことを強い口調で言う。母の真剣な顔と大きな声に圧倒されて立ち止まった。
………
そこで気が付いた。目を開けると、右腕に2か所、左腕、右足、と4か所もルート確保(点滴)がしてあり、体幹と四肢が拘束され、心電図に酸素マスクに尿カテ+おむつ、という状況だった。
うーん。これはどういうことだ。ショック状態だったのかな?死にかけたのかな?しかしどうやら意識を失っていたのは数時間というところのようだし、今はすっかり清明になっているからたぶんもう大丈夫だろう。と妙に冷静に自分の置かれた状況を分析する。
そうか、あれはいわゆる臨死体験ってやつだったのか。
よく、臨死体験では花がたくさん見えたとか聞いたことがあるけれど、本当だった。確かに不思議ではあるが、共通性があるということは、おそらく脳の働きでそういうものが見えてしまうようになっているのだろう。死にかけるタイミングで電極付けて調べるなんてなかなかできないし、メカニズムを解明するのは難しいに違いない。
とは言え、母が大慌てで私を追い返しにきたのはどういうことだろう。
もし母に駆け寄っていたら。
もし母が現れなかったら。
私は今、生きていないのだろうか。
※蛇足だが、この体験は自殺しようとした時ではない。死のうとした時には死ねなかったし、死にたくないのに死にかけた(?)けれど死ななかったわけで、結局のところ生命力が強いってことなんだろうと思っている。
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