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PRとマーケティングを連携させて事業成長を加速させる方法


1.PRとマーケティングを理解する

はじめに

テックタッチ株式会社でHead of PR/ Marketingを担当している中釜由起子です。朝日新聞社でWebメディアの編集長を務めた後、IT企業や当社でPRとマーケティングの部門を管掌し、強化してきました。
PRとは何か、マーケティングとは何かについて書かれた記事は多数あります。しかし、事業会社で実務に携わりながら、両部門の連携を意識した指標設計や戦略策定について書いた記事は少ないのが現状です。
そこで今回は、PRとマーケティングの連携に悩んでいるスタートアップの経営者や部門責任者向けに、両部門を効果的に連携させるための方法を紹介します。広報にはコーポレート広報、危機管理広報、採用広報などがありますが、今回は、事業広報とプロダクトマーケティングでの連携方法について、重要なポイントを掘り下げていきます。

PR(パブリックリレーション)とは何か

「広報とPRの違いは何ですか?」
こう質問されて、即座に答えられる方は広報職の方でも少ないのではないでしょうか。

上記の図をご覧ください。広報はPRに内包される概念です。PR=親、広報=子とイメージするとわかりやすいかもしれません。PRは広報よりも広い概念であり、発信によってニュースを作り、価値観や行動を変えることを目指します。広報は未だに広告と混同されがちですが、メディアに情報を提供し、「ニュースとして発信してもらう」アプローチをとります。PRは、メディア露出に留まらず、信頼感を高めつつステークホルダーと良好な関係を築くための包括的な概念で、より戦略的な動きが必要になります。

経営層が見るべき広報/PRの観点は?

そもそも、経営者の方が広報をどう評価すべきかは前回のnoteで記載したので、詳しくは下記noteをご覧いただければと思いますが、ざっくり要約すると下記です。

1. 広報の成果は測定可能である。
2.経営目標と連動した広報戦略を立て、自社の体制や事業フェーズに併せて定量の指標を設定する。

PR施策とKPIの一例

上記は網羅的に記載しましたが、初期はメディア掲載数、記事化本数(自社作成)、メディアアタック数などを指標としてPDCAを回すことが多いです。

マーケティングとは何か

マーケティングは、顧客のニーズを満たし、企業の目標(売上)を達成するための活動として捉えられてきました。

潜在顧客、検討顧客、顕在顧客など様々な検討フェーズの見込顧客(リード)に対して、適切なタイミングで最適な情報を提供し、顧客との長期的な関係を構築していくために、市場を分析し、ペルソナを理解して施策を設計します。

経営層が見るべきマーケティングの観点は?

リード数はマーケティングの指標としてよく使われますが、事業貢献を意識するならば、それだけでは十分ではありません。
マーケティング活動の目的やフェーズ、そして注力している施策によって、見るべき指標は異なります。SaaSビジネスの場合は、MRRを起点としたマーケティング戦略に基づいて、経営者が見るべき指標を設定すべきです。テックタッチのマーケティングでは、主にエンタープライズ企業の新規リードからのMRR創出を目標としているため、下記のようなKPIツリーを設定しています。

MRR貢献案件数・金額              → 経営への報告                 ▲
商談数                → 経営への報告
       ▲
ナーチャリングからのアポ数
       ▲
MQL数 / SQL数
       ▲
新規リード数
       ▲
サイト訪問者数・CV数/1キャンペーンからのアポ数

テックタッチでは、経営者に報告するのはMRRに寄与する案件数、金額、商談数に加えて、四半期ごとのROI、リード・商談CACとしています(LTVについては、マーケティングを本格化したのが直近1年と短いため、来年から測定予定です)。

BtoBの一般的なオフライン・オンラインマーケは概ね実施しており、各チャネルについてKPIは30種類ほど設定しています。

これらの細かい指標は、部門長とメンバーが見るツリーのさらに下の指標であり、上流KPIが達成できなかった時のボトルネックを早期に特定できるように、年間のイベント出展計画、イベントごとの目標リード数などは全て計測しています(ちなみに、さらにテックタッチはエンタープライズマーケティングのため注力領域や施策に特徴がありますが、こちらは今回割愛します)。

2. PRとマーケティングの違いを定義する

PRとマーケティングを比較すると、大まかには下記のようにまとめられます。

スタートアップではリソースが限られているため、PRとマーケティングを兼任する担当者も多いですが、異なる専門性を持つため、それぞれの専門性を持つ人材を配置した上で連携を強化する方がインパクトは出しやすいと思います。
ここまで読んで、
「PRとマーケティングは手法も指標も全然違うから連携するのは難しくないか?」
と思った方もいるかもしれません。しかし、BtoBビジネスは、購買プロセスが複雑で、意思決定に複数の人が関わるという特徴があります。そのため、長期的な関係構築や信頼獲得が非常に重要になります。

マーケティングの新定義(2024.1〜)

さらに、これまでマーケティングは「モノを売るための活動」と捉えられていましたが、公益社団法人日本マーケティング協会が2024年1月に最新の定義を発表し、新たな役割が必要とされています。

「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」

わかりやすく言い換えると、

・価値の創造: 顧客や社会のニーズを捉え、それに応える商品やサービスを提供する。(自社の都合で宣伝するだけ、は価値の創造ではない)
・価値の浸透: 創造した価値を、様々なチャネルを通じて広く社会に浸透させる。
・関係性の醸成: ステークホルダー(顧客、従業員、株主、地域社会など)との良好な関係を築く。
・より良い社会の実現: 豊かで持続可能な社会の実現に貢献する。

さきほど冒頭で説明したPRの説明に酷似していることにお気づきでしょうか。つまり、現代のマーケティングは、顧客や社会との共創を通じて価値を創造し、より良い社会を実現するための活動へと進化しています。つまり、PRとマーケティングは、異なるアプローチを持ちながらも、共通の目標に向かって連携することが可能です。この連携により、企業は強固なブランドを築き、成長を達成できるのです。

3.PRとマーケティングでいかに連携するか

いきなりPRとマーケティングの連携を組織のあり方や採用から再設計して…は難しいので、現状広報・マーケティングが独立して業務を行っていると仮定して、どのように連携するかを、テックタッチの例を参考に説明します。

スタートアップにおける広報・マーケティングの組織のあり方

スタートアップにおけるPRとマーケの組織体制の例は下記のような形かと思います。企業の事業フェーズによって、組織を強化してきたテックタッチの事例に基づいて紹介します。

創業期:専任メンバーなし
部門立ち上げ期: 広報・マーケティング担当者を1名配置
成長期:: 広報・マーケティングの責任者クラスを採用し、戦略策定や指標設定を開始
拡大期:PRとマーケティングの両方を理解している責任者が両部門の戦略策定を行い、連携を高める
成熟段階: 広報部門とマーケティング部門を独立させ、専門性を高めつつ連携する
テックタッチは現在、「拡大期」にあたり、マーケティング本部内にPR部とマーケティング部を配置し、施策単位で連携できるように部門長がマネジメントしています。
広報とマーケ、それぞれの担当者に必要な素養と連携のポイント
リソースがない場合、マーケティングとPRを兼任する担当者も多いですが、兼任させる場合は、担当者のスキルセットをよく考慮する必要があります。
それぞれの職務で必要な資質についてまとめてみました。
※PRパーソンとしての資質
1)社内の事情に通じていること。経営者の意向やビジョン、各部門の状況や課題、発信する情報のネタを把握して発信できること 
2)市場動向や競合の動き、業界トレンド、メディアの関心事、関連する時事ネタを把握し、自社に関連付けて企画設計やコミュニケーションができること
3)広報の実務スキルがあること
※マーケターとしての資質
1)市場と顧客への深い理解: 顧客のニーズ、行動、心理、市場トレンド、競合の状況を把握し、データに基づいて仮説設計、分析できること
2)戦略的思考力: 顧客視点とビジネス視点を持って施策を策定し、目標達成のために実行できること
3)データ分析力と改善力: 効果測定に基づき、分析・改善を繰り返し、PDCAサイクルを回せること
価値観を変える、社会に新たな常識を作ることが最重要ミッションであり、対外的なコミュニケーションを重視するPRの文化と、データ分析や数値目標を重視し、ロジカルに業務を進めるマーケティングの文化は、全く異なります。どちらを先に雇うかと聞かれれば、営業と連携して顧客の解像度をあげたり、見込客を創出するマーケターを先に組織化した方が、難易度は低いと思います。
相乗効果を期待できる文化・業務フローへのアプローチ
では、両部門がどのように連携するかについて、いくつか例を紹介します。

互いの部門の戦略を理解する(メッセージ、ターゲットを理解する)

PRとマーケティングは、まずは戦略設計時に連携することで、どのステークホルダーに対するアプローチを優先すべきか、把握することができます。この段階で重要なのは、ただ業務報告・結果報告をするのではなく、互いの施策の意図をすり合わせ、目的と効果の認識を一致させることです。

PR部は、DAP市場の有効性についてフォーカスしようとしており、権威付けのための発信に力を入れています。

一方で、マーケティング部では「テックタッチ」を、社内システム、ユーザー向けシステム開発企業、公共団体という3つのセグメントに対してターゲットを設定しており、施策上ではKPIが異なっているように見えます。
PR部がDAP市場全体の有効性訴求に注力し、権威付けのための発信に力を入れていることを意識して、マーケティング部はメッセージングを行うべきです。PR活動によって市場全体の認知度や信頼性が高まれば、テックタッチという具体的な製品への関心も自然と高まり、リード獲得や顧客拡大、MRR貢献に繋がりやすくなるからです。

両者の連携について、もう少し具体的に施策ベースで説明してみます。

PR→マーケティング連携例(プレスリリース)

PR部は、社内からの依頼を受けてプレスリリースを作成し、メディアリレーションズ(メディアとの関係構築)やプレスリリース配信を行い、成果指標として掲載件数やプレスリリースのPV数などをチェックしています。一方で、マーケティング部はセミナーをゼロから企画してメールキャンペーンにより集客し、集客数やメール開封率、CV数(コンバージョン数)などを追いかけています。
それぞれの部門の基本的な動きはおさえていますが、連携はできていません。独立した動きになりがちなのは、広報担当者が事業部からリクエストされたり情報共有された内容だけをもとにプレスリリースを書いたりしたりしていることが多く、今取り組んでいる事業部の目標や結果、意図を深く理解しないまま目の前の露出に注力しがちで、マーケティングは短期的なKPI達成にフォーカスしがちだからです。
事業部の結果や意図を意識して業務を連携すると、効果を最大化するための施策を行うことが可能です。

プレスリリースの場合は、PRが注力ターゲット、業種を優先して企画を選定するのが連携効果を高めやすいと思いますし、プレスリリースで顧客と関係値を築き、マーケティングの事例作成の素地を作るというプロセス設計が可能になります。
また、「権威付けを行う発信」を行う際、外部の有識者の起用や調査PR、受賞歴のPR、業界団体への参加などがありますが、これらもマーケティングに寄与できるものを優先して取り組むことで、マーケティングの企画立案、CVR向上を助けることができます。
例えば、テックタッチの場合は今年権威付けのために経団連に加盟しましたが、この施策をマーケティング活動に利用することもできます。また、PRで行った調査レポート「大手企業の『2025年の崖』への対応に関する実態調査」は、複数メディアでの記事化(※プレスリリース転載は除外)と数百件の自社サイト流入に貢献しただけでなく、マーケティング部でeBook化とLPOをプレスリリース配信と同時に行ったことで、掲載配信1カ月で数十件のターゲットリード獲得に繋がりました。加えて、このテーマでセミナーも企画し、潜在顧客の獲得に貢献しました。
PRが、顧客に広くリーチできる斬新なアイデアや企画を豊富に持っている場合は、マーケティング施策に取り入れられると効果を発揮します。

マーケティング→PRへの連携例(データ分析)
ここまで、PR起点での連携メリットを記載しましたが、マーケティングのインバウンド分析などをマーケ・PR横断で行うことによって、PRに示唆を与えることができます。
テックタッチでは、PR部がKGIにサイト流入数をおいているため、GoogleアナリティクスやPR分析ツール「Metlwater」によるリーチ分析、読了分析を行っています。しかし、サイト流入はWeb広告、SEO記事、インバウンド対策施策など複数の施策が行われているため、PR単体の効果を測定するのは若干難易度が高い分析になります。
マーケティング部が、PRの指標も踏まえて分析を行うことで、PRの施策をより詳細に特定することができます。
例えば、テックタッチで特定四半期のインバウンド分析を行ったところ、プレスリリースの種別と配信数が、Webサイトへの流入数、CV数に大きな影響を及ぼしていることがわかりました。また、Web広告で効果的なキーワードなども分析することで、PR施策に活用すべきキーワードを提供することができます。

PR×マーケティング連携例(自社イベント)
SaaSの企業では、マーケティングで自社イベントを企画する企業が増えています。テックタッチも、昨年秋に初めてのオフライン自社イベント「TechtouchDay2024」を行いました。
PRとマーケティングの連携だと、事前のプレスリリース配信、事後レポート掲載は容易にイメージできると思います。

テックタッチの場合は下記のような連携を行いました。

マーケティングは集客や商談数などの目標設定があるため、短期的な成果を出すことも求められます。一方、PRはもう少し長期の目線で動くことができます。毎年継続して実施することを踏まえて、デザインも含めたブランドコミュニケーションを検討し、今回来場する顧客の特性を踏まえて過去の対談記事や調査レポートをまとめた冊子を制作しました。

これは、今回のイベントだけでなく、普段の営業活動にも活用することを意図したものです。
その他、テックタッチは昨年12月に日本カスタマーサクセス協会を立ち上げ、事務局を務め、代表の井無田が常任理事に就任しました。これは、カスタマーサクセスという分野の認知度向上と業界スタンダードの確立を目指し、PRとマーケティングが連携して企画したものです。協会立ち上げによって、PR目線では、大手企業や公共団体との関係構築に貢献し、マーケティング観点では、その後のイベントやコンテンツダウンロードなどですでに数十件のリードを獲得しています。

互いの活動がどのように貢献できるかを常に意識することで、それぞれの担当者が、認知度向上という共通の目標に向かって、より効率的に活動することができます。

連携する際に注意すべきこと

PR活動は、ブランド認知や企業イメージ向上など、長期的な視点に立った活動を含むため、すべての施策が直接的にマーケティング目標に貢献するとは限りません。また、両職種を実務まで経験して理解している人は少ないため

  • 連携可能な施策を明確化し、共通の目標を設定する

  • 両方の業務経験を持つ人材を育成する

この2点は抑えておくべきだと思います。

4. PRとマーケティングの連携指標

共通の目標設定が連携には重要ですが、具体的にPRとマーケティングの連携指標はどのようなものがあるでしょうか。「認知度」「興味・関心」「行動」「顧客獲得」など、顧客の行動ベースで見ていきます。

1. 認知度

ブランド認知率や想起率は測定頻度が高いほどブランド認知の状況を細かく把握することができますが、その分、調査費用も高くなります。そのため、スタートアップの場合はWebサイト訪問者数などでGAで測定して認知度を測定した方が、PDCAは回しやすいと思います。

2. 興味・関心

認知された後、 顧客がブランドや商品・サービスに興味・関心を抱いているかを測定します。訴求メッセージなどでサイトの滞在時間は容易に変わり、かつマーケが施策として実施することが多いイベントでの集客数、アンケートの企業への評価は、両部門の共通指標として経年変化を追いやすいです。

3. 行動

入力フォームに参照元を入力させる、URLにパラメータをつける、リードソース情報をマーケティングオートメーションで追跡するなどで、各部門の成果を測ることができます。

4. 顧客獲得
5. 売上


PRとマーケティング活動が、最終的にどれだけの売上増加に貢献したかを測定します。4.5はPRの直接貢献は測定しにくいのと、認知率向上にフォーカスしているため、テックタッチではKGIとしては劣後していますが、事業への最終的な成果指標として、マーケティングの成果を把握しておくべきだと思います。
特にPRの方は、こうした指標を見ていない方も多いのではと思いますが、PR担当に必要な資質「社内の情報に通じている」とは、社内のキーパーソンや経営者と対等に話ができるだけではなく、数値でも事業の状況を詳細に理解していると言えるのではないでしょうか。
それができて初めて、社会に新たな価値を作りにいけるので、少なくともPR活動の責任者はこの中の一部の指標でもモニタリングして、数値の意味を理解すべきだと思っています。

5. 最後に

PRとマーケティングの連携は、スタートアップ企業にとってとても重要だと思います。戦略を両部門で作り、お互いの業務を理解したうえで「どう連携できるか」を実践するヒントになれば幸いです。テックタッチは、PR、マーケティングの両部門が組織拡大中のため、採用活動中ですし、他部門も含めて全方位で人材を募集しています。興味のある方はぜひこちらからエントリーしてください!お待ちしています。


今年の経営陣noteはこちら


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