
蓆(むしろ)を編む人
ずっと星の秘密を追いかけてきた。
私同様、古代から星に取り憑かれた人々は、
星をどう理解しようとしたのだろう。
私はその答えを漢字から読み解きたいと思う。
漢字の「度」(読み:ド、ト、タク、はかる、ものさし、わたる、のり)は、席と又(ゆう)からなる会意文字である。
度(むしろ)を手(又)で広げる形。
蓆(むしろ)をもって長短を度(はか)る意味。
土地を測量するのに用いられるのが度数であり、
天文暦数もこれを用いた。
後に法制を示すものとなる。
「席」は、厂(かん)と蓆の形に従う会意文字。
厂は建物の形で、その中で蓆を敷く形。
石の省に従うとある。
「石」は、厂と口に従う。
厂は山の崖の象で、口はサイ(祝祷を収める器)。
神事的な儀礼を示す。
石を社主、廟主にするのは甚だ起源の古いもので、古代信仰と深く関わる。先祖を祀るのが廟。
石が神社に神として祀られているのもそのためか。
度を調べると石に行き着く。
それは神事と深く関わっている。
祝祷を収める器である口(サイ)。
こう説明すると非常に分かりにくいが、私は単純に水を張った容器と解している。
水を張った容器を、崖の暗い洞窟の中に置く。
それは、天(星)を写す望遠鏡である。
つまり、「石」とは天体観測を示す文字。
星は、先祖の魂であり、珠(玉)はその入れ物。
星への信仰が、玉への信仰に繋がっている。
何故星を信仰するのか?
星は時を知らせ、その叡智は先祖からの大事な知恵であったからではなかろうか。
水をためた器による観測から、さらにそれを記録し計算するために蓆が用いられるようになった。
星の足跡を蓆に残していく。
機織りの起源は、この星々の足跡を記録することにあった。故に機織りは神事に繋がる。
崫の中に蓆を広げ、星の足跡を記録する。
こうして、星の順行や規則性が明らかにされ、長さが規定されていく。
暗い崫の中で、わずかな星の光さえも見逃さないように星を掴もうとした人々がいたと思う。
このような目には、昼間の陽光は眩し過ぎる。
必ず目を暗さに慣れさせる必要があった。
「遮光器土偶」がその人々の存在を物語りはしないか。
古代日本に、星の観測に取り憑かれ、その叡智を人々に教え導き、人々の暮らしを豊かにしようと情熱を燃やした一族がいた。
そんな物語を、度、席、石の文字が語っていると思う。