Dimension -リュウ-
初めて見る光景だった。あのショウが防戦一方だなんて。それもギリギリ対処出来てる様子で表情にも余裕が全くない。相手の方はただ我武者羅に打っているわけじゃない。確実に狙って、的確な攻撃を仕掛けている。洗練された動きで、ショウに形勢を変えさせる暇を与えない。
驚いてるのも束の間、セイが二人の方へ駆け出す背を見て、俺もすぐに我に返ってセイの後を追った。俺達が割って入るも、奴はわずかな動揺もせず、すぐに俺とセイの対処に転じる。二人がかりの攻撃にもかかわらず、奴は互角に渡り合うだけでなく、戦闘の流れを利用して、二対一の防戦から俺への一対一の攻戦へ転じてきた。速度で圧し、一手一手が確実に殺しに来ている。しっかりと俺の眼を見る奴の表情は、いたって冷静で、寧ろ軽く笑っているんじゃないかと思うくらいの余裕が見える。喉元へ斬りかかる奴の刃を俺も何とか止める。奴の顔がぐっと近づいてくる。
「じゃあお前は!」
「・・っぐ!あぁ!?」
「お前は今日どんな奴を斬った!?」
「何の話だよ!!!」
受けていた刀を弾くと、俺は襟元を締め上げる。しかし、奴は素早く左腕を、襟元を掴んでいる俺の腕に上から回し込み、手首を脇で挟み込むと、素早く中段蹴りを入れてくる。体格から予想だにしない程の重い蹴りに、体勢が崩れた俺の隙を逃さず、奴は一気に左腕を巻き込み、掌を俺の右脇下に入れると、一気に引き込んでくる。体格では絶対的な差があるにもかかわらず、俺はいとも簡単に引き落とされた。
「力技で・・・負けた!?」
そう思っている間も無く、さらに奴は倒された俺に猛追を仕掛けてくる。俺はすぐに身を翻し、なんとか奴の刃から逃れる。再び駆け出すセイと共にショウも奴へ仕掛ける。だが、奴は怯むことなく二人の太刀筋に対応していく。そして、二人の剣を弾くと素早く下がり、間合いを取る。ギリギリ対応できた程度の俺達に反し、奴は息一つ乱れていない。対峙する俺達。低い姿勢で構えていた奴が、刀を担ぎ、普通の体勢になおる。
「で?思い出せたか?自分が斬った相手の顔。」
「あ!?さっきから何ごちゃごちゃ言ってんだよ!んなもん一々覚えてね ぇよ!セイちゃん、覚えてる?」
「いや、全く。」
「・・・・・。あれ?俺には聞かねぇの?」
「「聞くまでもねぇよ。」」
「なんだとぅ!?」
「フンッ、やっぱりな。」
「はぁ?」
「そうして僅かですら見送ってもらえず、ウチの兵士達は死んでったんだな。」
そう言いながら、奴はさっき俺達が斬り抜けて来た戦場の方を振り返った。そして、再び俺達の方を向き直った時、奴の眼は、さっきまでの戦闘に対する猟奇的な目よりも、人間的な怒りの色が強く光っていた。
「お前達は武人なんかじゃない。お前達に戦場に立つ資格などない!!」
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