【映画】千夜、一夜
2022年公開の映画。Amazonプライムで鑑賞。
主演:田中裕子
監督:久保田直
脚本:青木研次
(1361文字)
田中裕子の演技はずっと観ていられる。本当に不思議な役者さん。
そして監督もカメラマンもそれを分かって撮ってる。間違いなく。
日本の年間失踪者数は約8万人だという。調べてみて驚いた。
事件に巻き込まれたケースもあるけど、多くの人が自ら消息を断っている。
映画にするなら、消息を断った方を追った方が出来事が起こりそうだが、この映画は淡々と待つ方を描く。
失踪する人はもちろん苦しいことや耐えられないことがあって失踪するんだろうけど、待つ方はまた違った苦しさだ。むしろこちらの方が辛い気がしてしまう。
なにしろ、その日から時間が止まってしまうのだ。
なぜ失踪したのか分からない。分からないけど、その答えを考えてしまう。でもやっぱり答えは見つからない。自分の何かが悪かったのかのかと、今度は自分を責めてしまう。
せめて死亡が確認できれば、区切りがつくのかも知れない。
しかし生死すらわからない。
全てが霧を摘むように不確かで手応えもない。
この奈美のセリフが、なぜか妙に共感できてしまう。
失踪された場合に限らず、様々な場合で理由は必要だからだろうな。
その理由に納得することができて初めて前に進める。
30年待ち続ける主人公の登美子と、2年が過ぎて新しい恋人と出直したい奈美。
どちらの選択も間違っていないし、どちらも苦しい。
止まった時間の中で、夫がいたずらに録音した夫婦の会話をカセットで聴きながら、ただ淡々と毎日を過ごすように見える登美子。
しかし少しずつ少しずつ壊れていっていた。
なんとも言えない切なさと同時に、愛する人を大切にしたいという気持ちが静かに湧き上がる映画だった。
実は、ボクの祖父も行方不明のままだ。
祖母は、祖父が行方不明になった後、間も無く亡くなり、父の兄弟は孤児院で育った。
父はさすがに諦めていたが、昭和が終わる頃まで、戸籍の本籍は阿佐ヶ谷の陸軍駐屯地があった場所に置いたままだった。
一縷の望みを捨て去ることは難しい。
今でも年間8万人が失踪する。
その原因の一端ををあえて探すなら、複雑になりすぎた社会にもあるのかな。