【読書】おやこ見習い帖スピンオフ「雷風」
(1209文字)
笹目いく子先生の「雷風」読了。
いやぁ、本当に宗靖が主人公で『おやこ見習い帖』のスピンオフを書いていただけるとは、欣快の至りに存じまする。
本編を読んだ時から、宗靖は非常に魅力的で、ここだけに登場させるにはもったいないと思っていたんですよね。それは書いている先生も同じだったようで。
時間的にはほんの数日の話。
嫡子として養子に来た大名である本家の当主に、遅まきながら実子が生まれ、廃嫡の運命を辿ることを悟る。
悔しいよねぇ。なんの落ち度があったわけではない。
輿入れ予定だった姫とは文を交わし、お互いにその日を楽しみにしていた。
それも叶わないということ。
切ないよねえ。
この悔しさ、切なさを受け入れなければならない運命。
そして本人以上に悔しがり、涙を見せる近習たち。
そうなんですよ、自分ではなく主君への不遇は何よりの屈辱。武士ですねぇ。
ちなみに、司馬遼太郎の何かの本に書かれていたけど、幕末の志士たちは、国を憂いて論じていると、その熱い思いがこみ上げて涙を流すことも珍しくなかったそうだ。
江戸時代の武士たちは、今の人たちより良い意味で感情的だったのだと思う。
人のために流す涙は恥ずかしくない。
そういえば、銀河鉄道999でも誰かが言ってたなぁ。
閑話休題。
八方塞がりの状況に、嫡子として認めさせるよう立つことを進言されながらも、その道を選ばない宗靖。
そこに出会いがあって、自分が今成すべきことを知り、その道に進むと決める。
ここに至るまでの心情が、豊かな情景に彩られて描かれている。
話はここまでだけど、その先は多分、渦中の勢力争いに担がれて血腥いことが起こり、本編の江戸の火事のシーンにつながるんでしょうね。
んー、この間も読みたいと思うのは贅沢か(笑)
いや、ほら、礼子姫とどうなるのか分からないしね。
なにしろ、
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ
ですから。
有名な崇徳院の歌。
今は別れてもいつか必ず逢いましょうってことだから。
学がないボクでも知ってますよ、この歌は。
なぜかというと落語ですけどね(笑)
古典落語の有名な噺「崇徳院」。
好きなんですよね〜。
大店の若旦那が恋煩いで寝込む。
出入りの職人、熊五郎が大旦那にその相手を探してこいと頼まれる。
なんでも、茶屋で出会った娘が、若旦那に、
「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の」
と崇徳院の上の句を書いて寄越したという。
それはつまり、娘もまた若旦那に逢いたいということ。
そこで熊さん、床屋や風呂屋などの人が集まる場所で「瀬をはやみ〜!」と叫んで相手につながる人を探すという噺。
この時の様子が笑わせどころなんだよね。
ま、どうでも良い話ですが。
雷風を読んでいて、この落語が頭に浮かんで持っていかれそうになったけど、ぐいっと話に引き戻されました。
この話の世界が心地よい。
さて、この後はどうなるんでしょうねぇと作者にプレッシャーをかけてみたりして(笑)
なんてね。楽しませていただきました。