【映画】ミッシング
主演:石原さとみ
脚本・監督:𠮷田恵輔
(1621文字)
石原さとみの振り切った演技が話題になっていた。
娘の行方を探す母親らしく、ちゃんと”綺麗じゃない”。
これはもちろんメイク等、スタッフも気を使っているんだろうけど、化粧っ気もなく髪も整っていない。この状況の母親に見える。
そして苛立ち、喚き、泣いて鼻水まで垂らす。
子供を持つ母親なら、感情移入できてしまうと思う。
母親なら。
青木崇高演じる夫の豊は、妻の沙織里のように感情的にならず、チラシを配り、テレビの取材を受け、淡々と日々を過ごす。
ボクは、この夫に感情移入しながら観てしまった。
分かるんですよね。
近くにいる人が感情的にになっていたら、自分は冷静になってしまう。
冷静にならなくてはと考えているわけじゃないんだけど、冷静になってしまう。
そして、沙織里は夫と自分との温度差に苛立ち、それをぶつけてくるので、時々少しだけ声を荒げるが、すぐに冷静に戻って妻を宥める。
ボクの妻が言うには、
「沙織里は自分に苛立っていて、(失踪の原因を作った)自分を責めてくれないことで余計に罪悪感が強まっての苛立ちで、それをぶつけても大丈夫だっていう信頼はある」
とのこと。
なるほど、確かに。
甘えられる相手だと信じているからぶつけられるんでしょうね。
妻は完全に沙織里に感情移入して観たらしく、かなり泣いたらしい。
妻の言うことが頭では分かるけど、感情的にスッと落ちてこないのは、やっぱりボクが夫の立場で観ていたからだと思う。
いや、見方が違うと面白くないというわけじゃないんです。
このあまりにも大きな出来事に、おそらく観る方はそれぞれの立場や考え方に立つでしょう。
そうやって、いろんな面から観ることができるというのは素晴らしいと思う。
ラスト近くで、夫婦に少し嬉しいことがあった時、夫が声を押し殺すようにして泣くんですよね。
そこまでずっと耐えてきた。
もしかしたら、妻のように怒りや悲しみを外に出せれば楽だったかもしれない。
でも耐えてきた。
自分まで壊れるわけにはいかないと感情を押し殺してきた。
その壁が、過ぎゆく時間と、思いがけない優しさと少しの希望に、崩れるんですよね。
これは、夫の立場で観ないと分からないかも。
月日が流れて、止まった時間が少しずつ動き出す。
ゆっくりと夜が明けていくように。
それを認めてしまうのは、辛く悲しいけれど、進んでいくしかないということを悟る。
その時の石原さとみの表情がとても良い。
もうひとつ、報道や世間の反応に翻弄される夫婦の姿も、ひとつの軸になっている。
それはローカルテレビ局の記者・砂田を演じた中村倫也がうまく表現している。
世間の反応やイタズラを見ていると怒りが湧くけど、そこに集中しないほうが良いかも。
あくまでも、夫婦二人の物語だ。
これは辛い物語だけど、ぜひ夫婦で観て、感想を話し合ってもらいたい映画だなぁ。