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不完全な二人が生み出す、劇薬みたいな恋一「美しい彼」の魅力について語る
FANTASTICSの配信ライブから一夜明け、現在1月31日の朝。本日のどこかで『美しい彼』シーズン2の予告が解禁される。楽しい反面、気持ちの言語化が追いつかなくてつらい。だが、もうすでにシーズン1は5話まで放送されている。うかうかしていられない。
こちらが前回のエッセイ、自転車になりたいってなんだ……意味がわからない。おっと昔の話はこの辺にして、私自身が『美しい彼』のどこに魅力を感じたのかをつらつらと述べていくとしよう。
というわけで、ここからはネタバレゾーンに入ります。まだシーズン1を未視聴もとい、小説もこれからで少しでもネタバレに触れたくない方はまたどこかでお会いしましょう。
世界の成り立ち、引力の螺旋
『美しい彼』には2人の語り部が存在する。原作者の凪良ゆう先生と脚本家の坪田文先生だ。皆さんご存じの通り『美しい彼』は原作が素晴らしい。本屋大賞受賞歴のある凪良ゆう先生は、ボーイズラブ小説でも冴えわたる文才を見せつけている。
葛西リカコ先生の挿絵が美しい……そして原作を擦り切れるほど読み込み、エッセンスを余すことなくドラマへと昇華させた坪田文先生の脚本力に、もはやぐうの音も出ない。小説には小説の、ドラマにはドラマの魅力が詰まっている。なお、原作とドラマのエピソードを並べると、以下の通りとなる。
●美しい彼・・・第1~3話
●ビタースィート・ループ・・・第4話
●あまくて、にがい・・・5~6話
●月齢14・・・シーズン2の第1話?
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この物語の主人公は2人。1人目は底辺ぼっちの高校生・平良一成(萩原利久)、2人目は孤高の王・清居奏(八木勇征)だ。大事なことなのでもう一度、この物語の主人公は2人である。
小説の第1章(ドラマ1~3話)では、平良の視点で彼の高校生活が描かれる。高校3年の春、平良は教室に入ってきた清居を一目見た瞬間、恋に落ちる。
まるで引き潮に乗せられたみたいな感覚。
引力めいた物に引きずられて、
彼から目が離せない。
清居奏。彼は、美しかった――
この平良のモノローグ、これこそが『美しい彼』という物語の根幹であり、ボーイズラブの曖昧な世界観を的確に定義した言葉である。と、加賀谷健先生は仰っていた。凪良ゆう節、ここに極まるといったところだ。
清居は誰ともつるまず常に冷淡。ゆえに誰よりも強くて美しい、生まれながらの絶対君主。平良の恋心はもはや崇拝だ。「キモい」「ウザい」という侮蔑の言葉も、清居の口からこぼれれば、平良にとって決して手放すことができない大切な宝物となる。
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うーんこれはなかなか、いやかなり気持ちが悪い。だが悔しいことに、他人事とは思えない。幼少期から吃音症に苦しんできた平良は、自己に対してあまりにも卑屈だ。自分は常に最底辺、誰からも認識されない透明人間として生きていくことしかできない存在なのだと決めつけている。
だから、この世界で唯一綺麗だと思う清居と、底辺の自分がどうこうなるなんて露にも思わない。ただ、見つめられればそれで良い。まさに、恋に恋して恋不知。平良の純情と表裏一体の気持ち悪さに、もう目が離せない。
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彼のキングは世界から消えた。
神様の真実、世界の全てが覆る
時は経ち、平良の大学生活が幕を開ける。小山和希(高野洸)という気の合う友人もできた。小山と一緒にいれば、楽に呼吸ができる。
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無味無臭、だけど穏やで安らかな時間。そんな日々がずっと続くと思われていたが、運命は時に残酷だ。小山の兄・洋平(栗山航)が演出する舞台。――現れたのは清居だった。
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夢に向かって努力し続けていた清居は、高校時代よりもずっと、強く美しかった。予期せぬ形で再会を果たす2人、清居を忘れようと続けてきた努力が一瞬にして崩れさる。清居を見つめていたいという一心だけで、知り合いの居ない打ち上げに参加する平良。時がたっても、平良の清居に対する気持ちの悪さは健在だった。
まさか、清居をこのまま追いかけ続けておかしくなった平良がとんでないことをしでかしてしまうのでは……と小説を読んでいる時、少しだけ不安になったのはここだけの話しだ。だが、打ち上げの帰り道、われわれは神様の胸の内を垣間見ることになる。
「あいつと俺、どっちが好きなんだよ」
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……なんということだ。小説でいうと第3章(ドラマでは第5話)、清居のモノローグで神様の真実が次々と解き明かされる。
清居はずっと、平良からの連絡を待っていた。平良の世界には清居しか存在していないような、そんな瞳でまた見つめられたいと願っていた。手の甲にキスをさせた時、神様はあんなにもいじらしい表情をしていただなんて……
平良にした初めてのキスを、忘れられずにいるなんて……愛らしいにもほどがある!!
そう、この物語のもう1人の主人公は清居奏。彼は決して、神様なんかじゃない。本当は寂しがり屋で、傷つきやすく、ただ愛されたいと願う普通の男の子だったのだ。
この真実を知ったとき、私がたまに感じていた、ある違和感の正体にたどり着くことができた。ずっと疑問に思っていた、平良が綺麗だと思う清居の表情は、どちらかというと少年のようにあどけなく、人間味にあふれている時だということに。
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それこそが、清居の本来の魅力だったのだ。完成された美の奥にある強烈な生、彼自身も身を焦がすようなアンバランスさ。それが愛おしくてたまらない。
もう一度会いたい。
もう二度と会いたくない。
真逆の気持ちの真ん中で、
苛立ちばかりが募っていく。
無意識ではあるが、最初にそのことに気づいたのが平良なんじゃないかと私は思っていたりする。それなのに、この平良一成という男は……お前は何て酷い奴なんだと私は言いたい。
清居が「これから何かにつけて思い出す、初めてのキス」を平良に捧げたというのに、「お情けのキス」だと勝手に決めつる、清居に対してあんなにも熱烈な視線を浴びせるくせに、清居が自分をどう思っているかなんて……知ろうともしない。
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なのに、ここぞという時に平良は清居の心の奥深くに入り込み、忘れさせてもくれない。平良のネガティブ俺様にかかれば、清居は心もうズタズタだ。
夜明けまで、あと少し
点と点が交わることがない、平良も清居も自分たちをそう定義していた。だが外野の私からしてみれば、こんなにも違うのに視点を変えれば、全く同じ本質を持つ2人を見たことがない。あまりにも不釣り合いで、びっくりするほどお似合いな関係。それが平良と清居なのだ。
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さて最終話の放送、そしてシーズン2の放送まであと少し。決して交わることがなかった二人がどのような結末を迎えるのか。ぜひともその目で確かめてほしい。もちろん映画も忘れずに。