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緊張と好奇心が交差する「映画館」

初めての映画館デビューは小学生の頃で、『まじかる☆タルるートくん』の劇場版だった。
上映中、入場特典でもらったオモチャを手の内で転がしていて、物語の終盤に差し掛かった時に落としてしまった。おそらく前の座席の足元に落ちたはずだ。かがもうとして、スクリーンに照らされた子どもたちの人いきれに体が硬直した。みんな、真剣にスクリーンを見つめている。ここで音などたててしまったら、せっかくの気分を台無しにしてしまうだろう。それで、しゃがんで取るのは諦めた。
上映が終わって座席の下を覗き込む。けれど、暗くて何も見えない。もしかするともっと遠くに落ちてしまったのかもしれない。
探しに行こうか。けれど、出口へ向かう人の流れは逆だ。迷って、とりあえず外に出た。すると親が待っていて、映画は楽しかったかと尋ねてきた。私は何も言い出せずに頷いて、結局オモチャについて言い出す機会をなくしてしまった。
もしかするとあの時から、映画館に行くと何か失敗するんじゃないかと緊張する癖がついたのかもしれない。

クレジットカードを使って、事前に予約した映画館のシアターに入る。平日の朝だから、人はまばらだ。予約時は私のほかに2つしか席が埋まっていなかったが、なんだかんだ今は20席ほど埋まっているだろう。それでやっと、私の体のこわばりが少しほぐれた。
ホラーやスプラッター映画ばかり観てきたせいか、最近は人が少ないと後部座席から両手が伸びてきて、私の首を締める想像をするようになった。あるいは、上映中に停電が起こってパニックになるか。あるいは、トイレに立った時に個室の鍵が開かなくて戻れなくなるか……。緊張のせいか暗い空想から抜け出せない。映画を観ている人が多ければ、助けてもらえる確率は上がるだろう。空想に他力本願で助かる映像を加えながら、自分の緊張を解きほぐしていく。

ネット検索すると、実は「映画館が苦手」な人はそれなりにいるらしい。閉鎖的な空間からパニックに陥ってしまうとか。
気持ちはわかる。
でもせっかく大人になったんだもの。たまの贅沢は映画館で映画を観たい。
それで数年に1度は、1人で映画を観る機会を作るようになった。
今の私なら子どもの頃と同じように入場特典を落としても、上映が終わったらさっさと取りに行けるだろう。スタッフの人に事情を話して、一緒に探してもらうかもしれない。そう考えたら、緊張しすぎる必要はないはずだ。
スマホがあれば停電になっても照らせるし、トイレに閉じ込められても誰かに連絡を取ることができる。……後部座席から首を絞められたら抵抗できるかわからないけど、暴れて音を出すくらいはできるだろう。
そうやって自分の心をなぐさめていく。そもそも、緊張から私の心臓が早鐘のように鼓動を打つ時、ワクワクとした感情がそこにあるのも事実なのだから。緊張だけを見つめて、心の喜びを切り捨てるのはもったいない。

シアターが暗転して、物語が始まる。私は自分の空想を手放し、スクリーンをただ見つめ始める。


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