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#8 経営はチキンレースなのか?
~勇気を持ってブレーキを踏まなければいけない時もある~
その昔,私がサントリー宣伝部でモータースポーツの担当をしていた頃のことです。その時スポーンサードしていたチームのレーサーが「怖くて怖くてアクセルから足を離したくなる時がある,でも離すと負けるので左足で右足を踏んづけてアクセルを離せないようにするんだ」と話してくれたことがありました。
踏み込まなければ勝てないけれども踏み込み過ぎるとバーストしてしまう,つまりリスクを取らなければ成果は得られないけれど読み間違えると破綻するという,経営にはチキンレースのような側面があります。しかし,リスクを取るのは確率論であり蛮勇であってはなりません。
ある投資案件の雲行きが怪しくなった場合を考えてみます。資産価値が50%の確率で3割減か50%の確率で4割減となるA案と,20%の確率で資産価値は減らず80%の確率で半減するB案,あなたならどちらを選ぶでしょうか。A案の期待値は(0.7×0.5)+(0.6×0.5)=0.65,B案の期待値は(1.0×0.2)+(0.5×0.8)=0.60であり,多くの人はA案を選択するでしょう。
ところが,資産価値が50%の確率で5割減あるいは50%の確率で9割減となるC案と,20%の確率で資産価値は倍増しかし80%の確率で元手を割ってさらに2割損をするD案だったとしたらどうでしょうか。D案の期待値は(0.5×0.5)+(0.1×0.5)=0.30,D案の期待値は(2.0×0.2)+(-0.2×0.8)=0.24で,C案の方が期待値が高いにもかかわらず一か八かのD案を選ぶ人が多くなるのです。
人間は,ピンチに陥れば陥るほどダメモトでギャンブルに走る傾向あるようです。もちろん経営は意志ですから,単に確率論だけで決定するものではありません。しかし,経営は博打ではないことは肝に銘じておかなければなりません。相場の世界で言われる「見切り千両,損切り万両」は,経営でも重要な心の道標なのです。
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