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日記「My spring has come.」
幼い頃から住む場所の近くにはいつも小さな川が流れていた。川沿いのサイクリング道路は桜並木で遊具があったり草地があったり子供達の絶好の遊び場だった。幼い私はまだ寒さが残る季節の陽だまりにオオイヌノフグリを探すのが好きだった。とても小さくて鮮やかなブルーのとても可愛い花だ。最盛期には遠目からでも群生しているのがわかるほどブルーになる。せっかちな子は早々に咲いてしまうのだ。
こんなに可愛い花なのにオオイヌノフグリなんてちょっと可哀想な名前である。
詩人の野木京子さんの詩の一部を紹介。
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冬が終わった次の日に
低い処、ゆっくりとした処に、妖/精が住んでいる
通路の向こう側に拡がる根、根の先端
細すぎたり、節々が違う曲がり方をしていたり
弱い通路の先には、繊い花しか咲いていなくて
小さな花花が地面の下に隠し持っている大きな拡がり、地面の下根の先端
「オオイヌノフグリというのだって」
「かわいそうな名」
「かわいそうだから、かわいらしい」
「陰嚢の奥のモレキュラーメカニズムの通路」
「ゴル、ゴル、ゴル、••••••」
「株分かれして、そうしてまた新しい生命が顕れる」
詩集「ヒムル、割れた野原」より
『輪 circle』
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とても好きな詩。私にとってオオイヌノフグリはまさに妖精のような存在。春を一番先に私に教えてくれるのだ。
Spring has come.にはまだまだ寒い。陽だまりにオオイヌノフグリをみつけたらその時から私に春がやって来る。My spring has come.
今、住む場所の近くにも小さな川が流れている。遊歩道を歩くのが日課。所々に小さな公園や広場がある。公園の大きな桜並木の蕾はまだ硬い。ようやく梅の蕾が膨らみ始めたばかり。遊歩道から川原に降りて草っ原をのぞいてみる。一輪のオオイヌノフグリ。
Oh!! My spring has come!!
暴力的にcolorfulな春を目前にもう置いてきぼりを喰らってしまったような気持ちになる。保育園児達が日陰の霜柱を踏む音がする。ザクザク。可愛らしい笑い声がこだまする。私はその場から歩くという動作がわからなくなってしまった。
彼ら彼女らにもじきに春がやってくる。