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美術史に名を刻む日本人 深堀隆介さんの魅力
アクリル絵の具と透明なプラスチック樹脂を使い、まるで本物のように立体的で美しい金魚を描く美術作家、深堀隆介さん。
『金魚酒』と呼ばれる、一合枡の中に金魚がいる作品が特に有名です。
枡の作品を見れば、「テレビで見たことがある」「ああ、あの人か」となる人も多いのではないでしょうか。
そんな深堀隆介さんの魅力について紐解いていきたいと思います。
※ここにアップしている写真は全て、過去の個展や企画展において「撮影OK」および「SNSでシェアOK」の案内があったもののみです
本物みたい!!だけじゃない
深堀隆介さんは、ゼロから1を生み出した人
深堀さんは、美術作家であり、発明家でもあると言えます。
それは、絵画における新しい技法を編み出した人だからです。
絵画の巨匠と言えば、誰が思い浮かびますか。
ピカソ、モネ、ルノワール、ダリ、ポロック、クリムト・・・
挙げたらきりがないほど沢山いますが、その誰もが『絵を描く』行為を『平面の支持体に顔料を乗せる』ことで行ってきました。
如何にして表現するかはそれぞれ異なりますが、描き方の根本は同じです。
写実的な絵も、抽象的な絵も、超現実的な絵も、平面の支持体に顔料を乗せて表現します。
『絵画=二次元』と言えます。
深堀さんは、この『絵画=二次元』の常識を、新しい描き方によって覆しました。
顔料を乗せるための支持体に透明のプラスチック樹脂を用いることで、支持体を何層も重ねる技法を編み出したのです。
※透明のプラスチック樹脂は、高濃度エポキシ樹脂と言います
枡などの容器に透明のプラスチック樹脂を流し込み、数日待って固まったら、そこに金魚の腹びれを描く。
腹びれの絵の具が乾いたら、また樹脂を流し込み、2層目が固まるまで数日待つ。
今度は金魚の胴体を描き、それが乾いたらまた樹脂を流し入れる。
これを何度も繰り返すことで、下の層は金魚の腹びれや尻びれ、中ほどには胴体や目玉、上の層は背びれ・・・というように、
層の重なりによる立体的な金魚が完成します。
平面に描く『二次元』的な描き方でありながら、3Dプリンターを彷彿とさせる『三次元』的な作品が出来上がるのです。
深堀さんは、ご自身が編み出したこの技法を“2.5Dペインティング”、“積層絵画”といった呼び方をしています。
ゆらゆらと揺らめく錯覚を覚えるほど、柔らかく繊細なタッチで描かれた尾ひれ。
生き生きとした目玉。
透明感のあるキラキラしたウロコ。
汚れた水槽の、あの独特なにおいを思い出すほどリアルな水草やフン。
どれも本物のようですが、金魚や植物は何層にも重ねられたアクリル絵の具で、水はプラスチック樹脂です。
金魚や植物が落とす影だけが本物で、透明の支持体の上に乗った顔料の影が落ちているのです。
斬新、革新的、唯一無二の技法です。
この発明とも言える技法で描かれた作品の数々は、どれも違った驚きと感動を与えてくれます。
2.5Dペインティングの作品は、作品集をはじめテレビや雑誌などでも見ることが出来ますが、
「上から見ると本物の金魚なのに、実は絵の具と樹脂の作品」ですから、肉眼で見てこそ楽しめるのではないかと思います。
繊細な作品が代表作として挙げられがちですが、
迫力があってまがまがしいものもあれば、作家さんの遊び心を感じるもの、くすりと笑えてしまうものもあります。
美術史に刻まれる新しい技法を生み出した深堀隆介さんの作品は、現在岩手県立美術館で見ることが出来ます。
こちらは6月13日まで開催しています。
(5月9日で終わっちゃうけど、みやざきアートセンターでは和巧絶佳展も!!)
各自治体からの案内や政府の要請次第ですが、可能であれば、
感染症対策をしっかりと行った上で、生き生きと泳ぐ金魚たちを見に行ってみてはいかがでしょうか。
夏祭りの出店、夢中になった金魚すくい、品種も分からず飼ってみた数匹の金魚、てのひらの中の命。
深堀さんが生み出したたくさんの金魚を見て、あなたならではの発見や、郷愁や、情感を楽しんでいただきたいと思います。
noteという発信の場を活用し、私が何年も追い続けている美術作家さんについて、情景が伝わるように熟考しながら文章を綴りました。
主に、作家さんが講演会などでお話しくださった内容を参考にしています。
日頃投稿しているテーマとは毛色が異なりますが、私の心を掴んで離さない深堀さんの魅力が、たった一人にでも伝われば幸いです。