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吉本ばなな「下北沢について」を読んで思う、わたしにとっての特別の場所

今年引っ越すまで、井の頭公園のすぐそばに住んでいた。

京王井の頭線で通勤していたから、下北沢は通勤経路にあった。

面白そうな場所だと思っていたし、実際に何度かはいってみたのだけれど、なんとなくわたしはそんなに心惹かれないままだった。

吉本ばななさんの「下北沢について」を読んだ。

好きだから、だけではなくて、下北沢とばななさんにはご縁としか言いようのないものがあるのだと思う。

わたしにとっては、いつの間にかご縁が繋がっていたのは井の頭公園であり、公園の目と鼻の先にあった、約6年住んだあの部屋だった。

わたしがあの部屋に住むようになったのも引き寄せられたとしか言えないような経緯だった。
なんというか、諸般の事情であの時はあの部屋にしか住めない状況だったのだ。

詳細はこちら。

わたしはまさか自分が井の頭公園に住む日が来るとは思っていなかったけれど、大島弓子さんの漫画やその他の映画などで、井の頭公園の風景はいつの間にかわたしの中に刷り込まれていた。

井の頭公園の近くに住み初めて、不思議なくらいに落ち着きを感じたのは、北海道出身で緑が多いことに安堵するから、という理由だけでなく、自分の中にあった「見たことのある景色」を無意識に思い出していたのかもしれない。

そして、井の頭公園の部屋の大家さんは、まるで親戚のおじさんのようにあったかい方だった。

東京で初めて暮らしたのがあの部屋だったが、あの落ち着いた雰囲気で、散歩に行けばすぐに公園の緑が広がる環境だったから、わたしは東京暮らしに自然に馴染むことができた。

今年夫と一緒に暮らし始めなければ、わたしはもう少しあの部屋に住んでいたかもしれない。

ただ、あの部屋で暮らし始めてから職場が移転したことで、通勤が遠くなってしまい、次第に通勤が辛くなっていたことも事実だった。

引越しの話がまとまった頃に母の病気がわかり、引越しの日の翌日には母が亡くなったこともあり、引越しの時には井の頭公園と別れを惜しむ余裕もなかった。

大家さんのところには後日お礼とご挨拶に伺ったが、それから井の頭公園には行っていない。

引越しの多いわたしの人生の中では、約6年過ごしたあの部屋は割と長く住んだほうだ。

東京で住んだ、初めての部屋。
やさしい大家さんのお世話になった部屋。
四季を通じて散歩した井の頭公園。
普段着でぶらっと映画を見に行けた吉祥寺。

あの部屋のことは、一生忘れないと思う。

ばななさんの本を読みながらわたしの頭に浮かんだのは、井の頭公園とあの部屋だった。

*ほぼ本のことを書いていないが、ばななさんが10年住んだという上馬の家のことは、大家さんのお人柄も含めて大好き。
その家で上の階にトータス松本さんが住んでいた頃のお話も素敵で、「クリエイティブエネルギー」は確かに流れていたのだろうと思う。
小沢健二さんが遊びにきてみんなでお好み焼きを食べたとか、すごすぎて羨ましいとすら思えなかった。

また、お姉さんのハルノ宵子さんの本でさらっと「1度手術を"ドタキャン"した」とだけ書いてあった事件が、このばななさんの本の方でもう少し詳しく書いてあり、興味深く読んだ。

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櫻木 由紀 Yuki Sakuragi
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