「花衣」上田三四二
『講談社文芸文庫』の「花衣」という、上田三四二の短編集を読んでいるのだが、読めない漢字が多い。
「敗荷」という作品。
題名からして読めない。かっこ付でルビが振ってある。ハイカ。音読みだから、ルビなしで読めても、意味はわからない。葉のやぶれたハスのことらしい。訓読みなら、やれはす。
冒頭7ページまでで、読めなかった語は
繁吹(しぶき)
四阿(あずまや)
時鳥草
(ホトトギス 鳥ではなく植物)
長閑(のどか)
心型
(ハート? 辞書サイトに用例なし)
楫(カジ)
玉蜀黍(とうもろこし)
葉柄(ヨウヘイ)
抽ん出る(ぬきんでる)
凹める(くぼめる)
読むのを中断しては、Googleレンズで文字を起こす。レンズで反応しない字もある。20分ほど読んで、疲れて中断。
歌人なら、この程度はあたりまえで、つねの用字なのかもしれない。自分の教養のなさを思い知らされる。
標題作「花衣」では、躙口(にじりぐち)、褄(つま)など、茶や着物の用語は何とか読めたが、洗練された男女の心の機微とエロス、この艶のある文章がよどみなく読めないのは、くやしい。
漢語ならななめ読みできるのだが、和語に漢字をあてたものが結構あって、これらは読めないと、文意が理解できない。
短歌には三十一文字ですべてを表現しなければならない制約がある。用字や表記を練るのは当たり前のことだ。だけれども散文は、そんなところにこだわる必要はない。むしろ平易な語彙がのぞましい。気を衒い過ぎては読み手を選んでしまう……。などと、作品や作者に文句を言ってもしかたがない。読み手に、それを受けとめる器がないだけなのだから。
それよりも。本として売る側に言わせてもらいたい。
「講談社文芸文庫」は部数もおそらく多くはない。ディレッタント向けに特化している。価格も高い。その分、出版社にはそれなりのことはしてほしい。
後記に「振りがなを多少加えました」とある。振られているルビは、例えば
啄み(ついばみ)
身を避ける(よける)
縁(ふち)
池の面(おもて)
などなど。それほど難しいとは思えない語ばかり。
底本(単行本「花衣」昭57.3)を確認していないのだが、文庫化にあたってこれらの語にルビを振ったのが編集者だったとして、振らなかった語を編集者は全部読めたのだろうか。買うのはどうせ、もの好きの読者ばかり、読みたけりゃ自分で調べるだろうと、読めない字を調べる労を放棄し、その言い訳が後記のことわりではないのだろうか。
鏡花は春陽堂の全集のころから総ルビだったように思う。谷崎や荷風あたりの作家も、文庫化された作品には適当にルビが施され、語注もあるではないか……。
とまあ、文句ばかりだが、続きは読みおわったあとで。投げ出さなければ、だけれど。
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