日本BGMフィルに見た夢(9) 「華龍進軍」
■華龍進軍
日本BGMフィルハーモニー交響楽団の第一回演奏会にて6曲目に演奏された曲は、歴史シミュレーションゲーム『三國志V』の楽曲「華龍進軍」だった。
長くゲームを楽しんでいる人なら一度は"KOEI"あるいは"コーエー"(現:コーエーテクモゲームス)の三國志や信長の野望シリーズをプレイされた方も多いだろう。
コーエーの歴史シミュレーションシリーズは、歴史ファンからシミュレーションゲーム好きまで幅広く愛されているシリーズだ。
三國志シリーズは登場から30年を迎え、ナンバリングタイトルは12を数える。
コーエイを代表するような作品と言えるだろう。
代を重ねるごとに練り込まれたゲーム内容はもちろんのこと、楽曲の評価も高い。ゲーム音楽ファンからも大きな支持を受けているが、なかなかオーケストラ演奏の機会も少ないため、今回の演奏を楽しみにしていた人も多いだろう。
先立って行われたアンサンブルコンサートでも奏者が演奏してみたい作品として挙げていたひとつに、三國志シリーズがあったことを思い出す。
それだけファン層が厚く、演奏家の心も揺さぶる作品なのだろう。
『三國志V』の楽曲を作曲した服部隆之氏は、現在はドラマや映画の世界を中心に活躍されている。
「新撰組!」などの三谷幸喜作品の楽曲がよく知られている他、最近ではドラマ「半沢直樹」が大ヒットしたことも記憶に新しい。
ゲーム音楽を作曲していた音楽家が、その後映画やアニメーションなどゲーム以外の世界で活躍することも珍しくない。
アニメ作品や映画への楽曲提供に留まらず、今や世界的な作曲家となった菅野よう子氏が、初期の信長の野望や三國志シリーズなどの楽曲作成に携わったことはよく知られている。
半沢直樹と『三國志V』が実は繋がっているのだと考えると、ゲームの世界は必ずしも閉じた世界ではなく、開かれた世界と地続きなのだと改めて感じることだろう。
曲間のMCでも説明されたように、この曲はゲーム内で蜀の国に攻め込む際に流れる音楽である。
三国志のファンはもはやご存知だと思うが、蜀の国は三国志に登場する英雄「劉備元徳」が興した国だ。
「華龍進軍」は、ゲーム内で劉備元徳が治める地域が敵に攻め込まれた際の合戦モードで流れる曲となっている。
蜀の国はまさに三国志の由来になった三国鼎立時代の一角を占めた国とはいえ、劉備玄徳一代で起こした歴史の浅い国であり、関羽雲長や諸葛亮孔明といった現代でもよく知られた英雄・豪傑を擁しながらも、他の国に比較すれば圧倒的に国力が小さかったという。
BGMフィルもまた日本初のゲーム音楽を演奏するプロの管弦楽団という触れ込みで立ち上がり、優れたプロフェッショナルの演奏者を集めた楽団ではあるものの、この時点では結成以来まだ1年ほどしか経過していない若い団体である。
ゲーム音楽の世界から離れて見渡せば、この国には音楽界で名を馳せた名演奏家を擁する歴史ある楽団から、若く熱意に溢れた野心的な楽団まで、さながら戦国時代のように大小様々な演奏家集団がひしめいている。
日本は世界的に見ても非常に音楽家の層が厚く、交響楽団の数も多いと言われているのだ。
プロとして旗挙げた以上、立ちはだかるのはもはや自らの音楽だけではないことを肌で感じていただろう。
戦わなくてはならないのが自分自身だけではなくなるということだ。
襲いかかる有形無形の様々な理不尽に抗わなくてはならない時もあるだろう。
BGMフィルの演奏家達はもちろんのこと、指揮者であるとともに音楽監督であり、また代表理事の一人でもある市原雄亮氏の両肩にかかる重責は並大抵のものではなかったに違いない。
強大な敵国を相手に手を携えて立ち向かった英雄達の姿に、BGMフィルと自分自身を重ねたこともあっただろう。
「華龍進軍」は、小さな国が巨大な存在に立ち向かう悲壮感を感じさせる曲だ。
彼らの弦が管が空気を震わせるたびに私達の心に響く。
勇壮の中に見え隠れする悲哀。
奮い立つ心と、胸を惑わす不安。
絶望の中にあっても前に進むという強い決意。
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