法人営業では直接的競合よりもむしろ「間接的競合」を意識すべき
このNoteでは、私が実施している「法人営業4年目の教科書」という営業向け研修から、とくに反響の多い「間接的競合」というテーマについてお話をしていきます。
1.間接的競合とは何か
間接的競合とは「自社の製品サービスとは違ったアプローチで課題を解決する方法」のことを指します。
イメージしやすいようにBtoCビジネスで考えてみてみましょう。
例えば「痩せるためにジムに通おうとしてる人」がいたとします。この場合、同じエリアにあるジムの競合店舗は直接的な競合となりますが、一見競合には見えない「ヨガ教室」も、痩せるための手段と捉えれば競合となります。また「毎日ランニングをする」というお金をかけずに解決する手段も競合と言えるでしょう。さらに言えば、運動とは違った視点で痩せる方法、例えば「食生活の見直し」や「痩せるレシピを身につけるために料理教室に通う」という手段も競合となり得ます。
このように、違ったアプローチで課題を解決する手段や方法のことを「間接的競合」と表現しています。
ところで、痩せるための手段としてジムとヨガ教室で迷っており、どちらかと言うとヨガ教室になびいている人がいたとしましょう。このような人に「うちのジムは競合店舗よりも機材が豊富で!」というアプローチはあまり有効ではありません。なぜなら「ジムに通うならここが良い」という納得は得られるかもしれませんが、優劣の関係では「ヨガ>ジム」という関係に変化はないからです。
このようなケースでジムに入会してもらうには、まずは「痩せるための手段としてジムでのトレーニングがいかに他の手段と比較して優れているか」を納得してもらった上で、「競合店舗との比較でいかに自社が優れているか」について納得をしてもらう必要があります。
2.間接的競合を意識しなければならない理由
ⅰ. 実は気づかないうちに間接的競合に負けている
このような間接的競合の問題は、実は法人営業でも同様に存在しています。とくに昨今のSaaSビジネスなど「あったら便利、無くてもなんとかなる系の製品・サービス」では、とくに注意深く間接的競合の存在を意識する必要があります。なぜなら皆さんが提案する製品やサービスもまた、問題や課題を解決するたった1つの手段でしかないからです。
❝皆さんが提案する製品やサービスもまた、問題や課題を解決するたった1つの手段でしかない❞
大事なことなので2回書きましたが、商談を進める上ではこの本質を理解することがとても重要です。理解を深めるためにも、まずは法人営業のよくある提案サマリを見ていきましょう。
Salesforceでもこのような骨子の提案サマリはよく見かけますが、この流れには隠れた前提があります。それは「自社の提案は、GAPを生じさせている原因を分解したうえで、その1つの課題に対しての解決策および提案でしかない」という視点です。
言われてみれば当たり前に聞こえるかもしれませんが、実際は自社の製品・サービスで解決できる課題や悩みをお客様から聞けるやいなや、「待ってました!」と言わんばかりに飛びついて即提案に移ってしまう営業は少なくありません。
しかし、自社の提案が課題解決の1手段でしかないことを理解しないまま提案を進めるのはとても危険なことです。なぜならお客様の頭の中はきっとこうなっているはずだからです。
もし、お客様が「別の解決策を採択した方が投資効率が高い」、あるいは「別の原因・課題にテコ入れをした方が利益改善のインパクトが大きい」と内心思っていれば、いくら直接的な競合との比較で優位性を納得頂けたとしてもそもそも「その類の解決策」への優先順位が低いため投資はされません。
結果、直接的な競合に負けたわけではないが、実態としては間接的競合に負けて商談自体が失注となってしまうケースは実はよく起こっています。見送りなどの理由で失注になる商談はだいたいこれに該当するでしょう。
一方で、あらかじめ間接的競合の存在を分かっていれば適切な対応を講じることができたかもしれません。また、仮に間接的競合に負けることになったとしても、理由が明確なのでNext Actionの解像度も上がってくるはずです。少なくとも「それではまた時期をみてご連絡させていただきます…」という曖昧なものにはならないでしょう。
お客様に何かしらの悩みや課題がある場合、それが完全に放置されるケースは稀なので、リプレイス商談でもなければまず間違いなく間接的競合はいると思って商談を進めた方がいいと言えます。
ⅱ. 間接的競合に負けている商談は意外と多い
また、法人営業で間接的競合を意識しなければならない理由は、失注全体のうち間接的競合に負けて失注になった割合が多いことにもあります。
まず誤解のないように、商談を進める際に直接的競合と間接的競合競合どちらが多いのかは、下図のとおり製品・サービスの特性によって変わります。
例えば、業務上必須の製品やサービスでは購買や導入が前提となるので、比較の際は競合製品同士になることが多いです。このようなケースでは、商談発生後の結末は「受注」か「失注(競合に負けた)」のどちらかになりますので、あまり間接的競合を意識する必要はないかもしれません。
一方で、業務上必須ではないが「あったら便利、無くてもなんとかなる系の製品・サービス」の場合には、論理的には間接的競合との比較をした上で直接的競合との比較になることから、商談発生後の結末は「受注」「失注(間接的競合に負けた)」「失注(直接的競合に負けた)」の3パターンとなります。
ここで注目してほしいのは、失注の内容とその割合です。多くのSaaSビジネスにあるような「あったら便利、無くてもなんとかなる系の製品・サービス」では、圧倒的に「失注(間接的競合に負けた)」パターンの割合が多くなっているのではないでしょうか。
先程も説明したとおり、論理的には間接的競合との比較をした上で直接的競合との比較になるので、直接的競合への対策も必要になりますが、このように割合を明らかにしてみるとどこにテコ入れをした方が改善効果が高いかは答えが明白です。
また、直接的競合への対策は普段の営業活動で息をするように実施している事柄でもあるので、これ以上飛躍的に改善すること自体が難しいという見方もあるでしょう。この点からも間接的競合への対策は新しい視点として有効です。
さらに言えば、間接的競合も踏まえた上で導入の正否について議論するレベルで商談を進めていけるのであれば、そこまで積み上げた信頼感によって、最終的に直接的競合との比較になった際にもほぼ出来レースで自社に決まることも多いかと思います。
以上が、法人営業でも間接的競合を意識しなければならない理由です。
3.受注を正しく理解し失注をお客様のせいにしない
ここまでは間接的競合の意味、そしてそれを意識して商談を進めなければならない理由を説明してきましたが、このように考えていくと、法人営業における受注とは本来以下のような状態であると定義することができます。
BtoBにおける契約の判断は基本的には「合理」によって行われるので、お客様の頭の中ではこういった整理をした上で契約するかどうかのジャッジメントをしているはずですし、上申書にもこのような情報が整理されているはずです。
もし商談でこのような会話をしないまま受注になったケースがあるとすれば、それはたまたまこれらの整理をお客様がしてくれただけの話で、営業的には再現性はないまぐれと言っても過言ではないと私は思っています。
また、このような構造を正しく理解していないことで、「絶対効果が出るのにお客様が決めてくれなかった」など、失注をお客様のせいにしてしまうケースを見かけることもありますが、これはとんだ勘違いです。
直接的競合に負けた以外の失注の本質とは、「お客様が決めてくれなかった」のではなく「営業がこれらの正当性を証明できなかった」と解釈するべきで、主語はあくまで自分自身です。
もっと正しく言うと、課題が完全に放置されるケースは稀なので、実際は「他の何かに投資を決めた」あるいは「他の何かへの投資余力を残した」という『決定』をお客様がしている状態であり、単に営業がその決定を覆すに値する情報を提供できなかったか、もしくは説得に失敗しているだけに過ぎません。
受注という状態を正しく理解し、失注をお客様のせいにしない、このような謙虚な姿勢で1つ1つの商談を振り返っていくことが、再現性高く安定した成果を残すために必要な視点だと私は思っています。
ある程度商談はこなせるようになった、でも売れる時と売れない時がある、ぶっちゃけその差が分からず行き詰まっている、そのような人がいたら「間接的競合」という視点から商談を振り返ってみてはいかがでしょうか。
長文ご覧いただきありがとうございました。
※このような内容の法人営業向け研修を無償で実施しています。これまで延べ300名に研修を実施し、ありがたいことに満足度は「4.8点/5点満点」という評価をいただいています。ご興味ある方はSNS等でぜひご連絡ください。
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