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ファシリテーターの”芸風”の構造

ミミクリデザインの組織学習を専門とするファシリテーターの遠又が、こんなことをツイートし、共感を集めていました。

たしかにファシリテーターと呼ばれる役割には”画一的な理想像”は存在せず、「個性」のようなものが存在します。現在ミミクリで進めている熟練したファシリテーターの暗黙知に関する調査研究でも、当日の立ち振る舞いや、背後にある価値観は、ファシリテーターによって多種多様であることが確認されています。

ミミクリデザインでは、なぜそれを「個性」ではなく「芸風」と呼んでいるのか。そもそも「芸風」とは何か。試論として、ファシリテーターの「芸風」を「コミュニケーションスタンス」「武器」「信念」の3つに分解することで、その理由に迫ってみたいと思います。

ファシリテーターの”芸風”の構成要素(仮説)
(1)場に対するコミュニケーションスタンス
(2)場を握り、変化を起こすための武器
(3)学習と創造の場づくりに関する信念

(1)場に対するコミュニケーションスタンス

ファシリテーターとひとくちにいっても、よく喋る人もいれば、ほとんど喋らない人もいます。まず参加者の日常の悩みを聞くところから始める人もいれば、自ら口火をきって非日常の世界へと誘っていく人もいます。 論理的な整理を好む人もいれば、場の感情を第一に進行する人もいるでしょう。これらは、場に対するコミュニケーションのスタンスの違いです。ミミクリデザインでは、ファシリテーターのコミュニケーションスタンスの違いを以下の2軸のマトリクスで整理しています。

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軸①:参加者に対して自ら主導、触発しながら進行していくタイプか ⇄ 参加者の意見やコミュニケーションに耳を傾け、それを共感的に受け止めながら進行していくタイプか

軸②:場に関わる際に論理的なコミュニケーションを重視するか ⇄ 場に関わる際に感情的なコミュニケーションを重視するか

安斎の芸風のスタンスは、左上の象限である「主導×論理」タイプです。研究者である特性を活かしながら場に対して説得的な切り口や思考の枠組みを提案し、場の気づきや創発を突き動かしていくことを得意としています。他方で、弊社のファシリテーターである和泉裕之は、対局の象限である「共感×感情」タイプで、参加者がいま本当に話したいと思っていることに耳を傾け、共感的に対話の場を作っていくことを得意としています。

(2)場を握り、変化を起こすための武器

第二に、実際にワークショップの場をホールドしたり、学習や創発の変化を生み出していく際に、ファシリテーターとして何を武器にしているか、というところも、芸風に大きく関わります。

前述したコミュニケーションスタンスそのものを武器にしているファシリテーターもいれば、たとえば「グラフィカルに図解できる(グラフィックレコーディング・グラフィックファシリテーション)」「生活者リサーチに習熟している」「ビジネストレンドに詳しい」「漫談が得意」など、特定の技術や専門知を「武器」にしているファシリテーターも少なくありません。

安斎の場合は、博士論文を書く過程で獲得した学習科学・教育工学・創造性研究に関する知識基盤と、質的分析の過程で身につけた微視的な観察力、参加者の衝動に火をつける内発的な活動(遊びやマクロな問い)の提案力などが、武器になっています。

(3)学習と創造の場づくりに関する信念

最後に、ワークショップの実践の背後にどのような価値観や信念をもっているか、という点も、ファシリテーターにとって多種多様であり、芸風に大きく影響します。

たとえば、「アイデアは個人の頭の中にあり、ワークショップはそれらをうまく引き出して情報を収集するための場である(個人主義)」という信念を持っているファシリテーターと、「アイデアはコミュニケーションによってしか創られない(社会構成主義)」という信念を持っているファシリテーターでは、プログラムの設計や、場の振る舞いに大きな差がでます。

目の前で「特定の1人ばかりがアイデアを出していて、グループワークが盛り上がっていない」という状況に直面した際に、その出来事をどのように解釈し、どのように介入するかは、上記の信念の違いによって大きく変わるでしょう。

他にも「ワークショップにおいて何を"参加"と捉えるか」とか「ファシリテーターはどれぐらい介入すべきか」とか「プログラムはどの程度自由であるべきか」などの考え方にも、ファシリテーターの実践観や信念はよくあらわれます。

このような、ワークショップにおいて「何が望ましいのか」を規定する信念は、幼少期から形成された価値観に加えて、ワークショップの実践経験を積んでいくなかで磨かれ、獲得されていくもので、熟練したファシリテーターであれば必ず複数の信念を保有しています。自分自身のスタンスや武器をどのように使うか、の背後にある判断基準といってもよいでしょう。

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以上、ファシリテーターの「芸風」を「コミュニケーションスタンス」「武器」「信念」の3つに分解しながら、「芸風とは何か」について整理してきました。

「芸風」とは、その意味を調べると「芸の仕方」「持ち味」というふうに出てきます。個人に本来的に内在している特性だけでなく、後天的に獲得した技術や方法論が入り混じったもの、として捉えられている言葉です。

“個性”というとなかなか変えられないし、変える必要がないものであるような印象を受けますが、「芸風であれば、学習可能である」ということが重要なのではないか、と考えています。

俳優や芸人がキャリアの熟達の過程において芸風を変えることがあるように、ファシリテーターもまた、己の芸風を大切な拠り所にしながらも、変容可能なものとして芸風をアップデートし続けることが重要なのではないかと思います。

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