見出し画像

"軍事的"ではない経営はいかにして可能か?「冒険的世界観」を実現するマネジメントを探究する

前回の記事では、20世紀のビジネスを支えてきた「軍事的世界観」に焦点を当て、いまはその限界が表出しているタイミングにあることを説明しました。そしてこれからの時代においては、「冒険的世界観」という新たなパラダイムにシフトする必要があるのではないか、ということについても触れました。

しかしながら、軍事的世界観から冒険的世界観へのシフトとは、「もっとゆるくラクに働こうよ」という意味ではありません

冒険的世界観を組織において実践するためには、むしろより高度なマネジメントが求められます。

そこで本記事では、冒険的組織を実現するために、マネジメントをどのように変えていく必要があるか。その手がかりについて書いていきます。


冒険的世界観の組織とは:事例としての「麦わらの一味」

前回記事の最後では上記のような形で、20世紀のビジネスを支えてきた「軍事的世界観」と、これからのビジネスが目指していくべき「冒険的世界観」について整理しました。

しかしこれだけではイメージが湧きづらいと思いますので、本記事では「冒険的世界観」の内実について、より具体的に説明していきたいと思います。

まず、冒険的世界観の組織とは、どのような組織なのか。

ここで例として取り上げてみたいのが、『ONE PIECE』における「麦わらの一味」です。

ゾロ、サンジ、ナミなど、麦わらの一味の幹部たちは、麦わらの一味という組織に隷属しているわけではありません。みんなそれぞれに自分の夢や目標があり、それを叶えるために、同じ船に乗っている。

そして同じ船に乗るからには、自分の夢を叶えるという観点では多少回り道になったとしても、共同体としてお互いに協力し合います。
たとえばナミは、「自分の目で見た世界地図を描く」という夢を持っているわけですが、そのための最短ルートを辿っているとは到底思えません。それでも、さまざまな能力を持つ仲間とコラボレーションする中で、不確実性を乗り越えながら、夢に向かって前進しているわけです。

一方、彼らの対峙する「海軍」を束ねる世界政府は、基本的には軍事的世界観の組織です(一部、軍事司令よりも志や人情を優先するチームも描かれていますが)。

軍事的世界観において、個人の自己実現や価値観、内側に抱えている葛藤は、まったく重要ではありません。権力による司令が絶対で、それを遂行するための強さを身に付け、成果を出すことだけが求められます。

そのため、軍事的世界観をWHYとする組織では、表面的なHOWだけ変えても、心理的安全性は醸成されず、多様性やコラボレーションは生まれないのです。

単一事業を短期的に伸ばしていきたいようなタイミングでは、軍事的世界観を優勢にするモードは、たしかに有効に機能します。

しかし、市場の競争が激化している現代においては、事業を多角化し、複数の事業を組み合わせてシナジーを生み出していかなければ、持続的に価値創造し、利益を生み出すこと自体が難しくなっています。

先日書いた「事業リーダーと企業リーダーの違い」の話にもつながりますが、やはりこれからの時代に企業が価値を生んでいくためには、多様な視点を取り入れ、コラボレーションを生んでいく必要があるのです。

実は戦争より「冒険」の方が過酷?冒険的世界観の厳しさとは

「軍隊」の厳しいイメージに比べると、「冒険」の方が一見ラクそうに見えるかもしれません。

しかしある意味では、軍事的世界観の方が「ラク」な側面もある、と言うこともできます。

なぜかといえば、軍事的世界観の組織においては、強ければ強いほど過酷な戦地にアサインされる一方、戦力外となったメンバーは、出世や評価を諦めることと引き換えに、競争から抜けられるからです。『ドラゴンボール』で言うところの「チャオズは置いてきた」の世界観です。

一方、冒険的世界観においては、一度船に乗ったからには、みんなで一緒に冒険に出かけます。当初はほとんど非戦闘員であったナミやウソップも、容赦なく敵のいる前線に放り込まれ、どんどん個性を発揮した活躍を求められるようになっていく。

これはメンバーだけでなく、企業にとっても過酷な世界観です。

ファーストリテイリングの柳井社長は、ビル・ゲイツの言葉を引用して「泳げないものは沈めばいい」と言いましたが、これまでの企業の採用は、とにかくガサーッと人を集めてきて、辞めたければいつでも辞めていい、残れる人だけが残ればいいという適者生存の考え方で行われていました。そのため、一人ひとりの個性や自己実現に目を向けたり、カルチャーフィットのために何かする必要はありませんでした。

一方、冒険的世界観においては、採用とは仲間との出会いであり、そう簡単には見捨てることはありません

一度仲間になったからには死なせない。一人ひとりの能力を開発し、活躍して輝いてもらう。

法政大学の石山恒貴先生による書籍『日本企業のタレントマネジメント』では、適者生存ではない適者開発のタレントマネジメントの重要性について論じられていましたが、まさに冒険的世界観における採用と育成には、一人ひとりの個性や強みに焦点を当ててチームの成果に活かす「適者開発」の思考が求められるのです。

採用は「兵力の増強」から「仲間との出会い」へ

冒険的世界観において、採用は単なる兵力の増強ではなく、これから同じ船に乗る仲間との出会いです。

したがって、「誰を船に乗せるか」という判断をする際には、「合わないなら辞めればいい」という軍事的世界観で採用を行うときよりも、慎重を期す必要があります

実際MIMIGURIの採用においても、いくら経歴やスキルが魅力的な即戦力人材であっても、お互いについて深く知り合うために、一般的な採用プロセスよりも面談回数を多く重ね、対話的なコミュニケーションを心がけます。

では、具体的にどのような基準で、メンバーを採用していけばよいのでしょうか。

まず、スタンスの観点では、採用に関わる全員が“同じ船に乗る仲間になれるか”、そして"一緒に働くことで、お互いのポテンシャルが拡がるか"、さらに誤解を恐れずにいえば“友達になれるか”の感覚で求職者と接する感覚が必要なのではないかと考えています。

特に大企業において、人事が求職者と面接をする場合、「自分が一緒に働くわけじゃないから」と、スキルや経歴のみで相手を判断してしまうことがあると思います。

しかしながら、たとえ規模の大きな会社であったとしても、そこにいる社員は全員が同じ1つの船に乗る仲間です。

だとすれば、共に働くことになる現場の人間だけでなく、採用に関わる全員が、仮に相手が苦境に陥ったときに友人として心から支援したいと思えるか、お互いの自己実現をサポートしあえるか、という基準で判断をしていくことが大事なのではないかと思います。

また、軍事的世界観の企業においては、既存のメンバーより優秀な人はなかなか採用されづらい傾向があるように思います。優秀な人が入ってきてしまうと、自分の立場が脅かされるからです。

一方、冒険的世界観が根底にあるMIMIGURIにおいては、自分たちより魅力的で優秀な人や、新たなカルチャーを吹き込んでくれる人を採用する、というスタンスを徹底しています。

不確実性が高く、「ここに行けば終わり」というゴールのない時代においては、企業にも、個人にも、冒険者として探索を楽しみ、柔軟に変化していく姿勢が求められます。

そのためMIMIGURIでは、組織に変化をもたらし、共に学んでいける冒険的な学習者を新たな仲間として迎えているのです。

「組織としての目標達成と自己実現の両立」を実現するための目標設定の考え方

「よりよい社会の可能性を拓く」という事業観を持った冒険的世界観の企業においては、組織における目標設定の考え方も従来のものとは違った形になるはずです。

冒険的世界観を実践しようとすると、理念や事業目標の達成と一人ひとりの自己実現をどのように両立させるのか、という難題にぶつかります

麦わらの一味の例に立ち戻ってみても、船としては未知の財宝「ワンピース」を目指しつつ、ひとりひとりの個人の夢もないがしろにはされていないのですが、これはけっこう無茶なことをやっていると思うのです。

仮に個人の自己実現を謳っている企業だったとしても、実際は事業目標の達成の方が優先されてしまうことがほとんど。かといって、事業目標の達成をそっちのけで個人の自己実現を追求するのも、それはそれで本末転倒です。組織や事業の目標と、個人の目標を重ね合わせ、両方を達成していくマネジメントが求められます。

そもそも目標とはどのようなものか。目標に対する考え方そのものを変えていく必要があるのです。

このあたりのマネジメントにおける目標設定論は、以下の無料ウェビナー『チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄』でも解説しています。どなたでもご視聴いただけますので、ぜひご覧ください。

OpenAI社の試みから考える、軍事的世界観と冒険的世界観の両立

限界を迎えつつある軍事的世界観のオルタナティブとして紹介した、冒険的世界観というパラダイムについて、魅力を感じていただけたでしょうか。あるいは自分の会社では、冒険的世界観へのシフトはまだまだ難しいと感じられたでしょうか。

そこで最後に、軍事的世界観と冒険的世界観もまた、二者択一の思考ではなく、高度に両立させることが可能であることを補足しておきたいと思います。

ここでご紹介したいのが、「Chat GPT」の開発元として知られるOpenAI社です。

まず、OpenAIは、「OpenAI LP」と呼ばれる営利企業と「OpenAI Nonprofit」と呼ばれる非営利企業という2つの会社で構成されており、非営利企業が営利企業のオーナーを務めるという企業スキームを採用しています。

さらに、OpenAIは、自らを「“capped-profit”(利益上限付き)company」と称し、株主である等式や従業員に還元する利益に上限を設定し、「株主の利益より人類の利益が優先されること」「AGI(汎用人工知能)開発にあたって、同じ価値観を有する先行企業が現れた場合、競争をやめ他社の支援に回ること」などを宣言した憲章を設定しています。

これらは完全に、冒険的世界観に基づいて出てきている仕組みですよね。一方、同社が展開する「ChatGPT」は破竹の勢いで伸びており、おそらくそこでは、軍事的世界観でも過酷な戦いに勝利できるだけの戦略やマーケティングノウハウが十分に活用されていることでしょう。

言うなればOpenAIは、軍事的世界観にもとづく方法論を道具として使いつつも、ベースには冒険的世界観が横たわっている組織体制をとっているのです。

※詳しくは、『WIRED』日本版で法律家の水野祐さんが連載している「新しい社会契約〔あるいはそれに代わる何か〕」の最新回「第14回 OpenAIによる「利益上限付き」会社の試み」をご参照ください。

つくりたい社会の理想像があり、それを実現するために、必ずしも「戦うこと」を最上位の目的に置く必要はない。おそらく今後は、OpenAIのような価値観を持つ企業が、どんどん増えていくのではないかと思います。

ぜひ、組織の課題を解く上で、「冒険的世界観」の考え方を取り入れられないか、検討してみていただければ幸いです。

冒険的世界観に基づくマネジメントの具体論については、以下のウェビナーでも解説予定ですので、是非ご視聴ください。


【お知らせ】無料ウェビナー『チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄』開催

10月3日(火)に新作無料ウェビナー『チームを覚醒させる「問い」のデザイン:新時代のミドルマネジメントの真髄』を開催します。

6月の経営層向けの「新時代の組織づくり」ウェビナーが3,200人動員、満足度98.6%と大好評いただきましたが、今回はミドルマネージャーやプロジェクトリーダーの方向けに実践的な内容をお届けします。

2020年に書籍『問いのデザイン』がベストセラーになり、その後も『問いかけの作法』『パラドックス思考』など、マネジメントにおける「問い」の技術についてはあらゆる角度から深堀りしてきました。

一貫して、これまでのビジネスや組織論が立脚していた【軍事的世界観】から脱却して、不確実な時代で価値を切り拓く【冒険的世界観】のマネジメント論を確立したいという想い。そして、そのために冒険(Quest)の指針しての問い(Question)が鍵になる、という確信が、通底しています。

今回のウェビナーでは、これまでの研究知見を概観して編み直しながらも、さらなるアップデートをかけて、チームマネジメントの武器としての「問いのデザイン」について語り直す機会にできればと思います。

すでに書籍を読まれた方も、未読の方も、関心ある方はぜひお気軽にお申し込みください。多くの方々に届けたいため、参加費は無料ですので周囲にもぜひご紹介ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?