企業の「カルチャー」とは何か?「組織文化」研究から考える、その本質
組織について語る上で、必ずと言ってもいいほど頻繁に用いられる「カルチャー」というキーワード。
しかしながら、カルチャーという言葉がいったい何を指しているのか。改めて問われると、意外によくわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、先行研究をもとにカルチャーの定義を確認し、組織においてカルチャーがどんな機能を果たしているのかについて解説します。
「企業文化」研究は、日本企業への注目から生まれた
多くの人にとって親しみ深い「カルチャー」という言葉ですが、既に当たり前の概念として浸透しているからこそ、「組織全体の空気感」「組織に染み付いた何か」といったざっくりとした解像度で捉えられることも多いように思います。
そこでまずは、経営学においてカルチャーがどのように捉えられ、研究されてきたかについて、『制度と文化:組織を動かす見えない力』という書籍を元に紐解いてみましょう。
経営学におけるカルチャーの研究は「企業文化論」という領域から始まります。そして企業文化という概念は、日本企業への注目から生まれたものでした。
1980年代と言えば、日本企業が大躍進を遂げていた時代。北米を中心とした経営学の至上命題は、日本企業の強さの秘密を解き明かすことでした。今となっては切ないですが、かつて日本企業が世界のお手本として注目されていた時代もあったのです。
なぜ、日本企業はあんなにも強いのか。どうすれば日本企業に追いつけるのか。そうした命題の中で生まれたのが、企業文化論という研究領域です。
ある目標の達成のために、企業の全員が一丸となって頑張る。そうした日本企業の文化が注目され、「理念」「英雄(理念の体現者)」「儀礼と儀式」「文化のネットワーク」といった「強い文化」を形作る要素の研究が進められました。
組織文化とは「組織を特徴づける共有された規範」
その後、1980年代後半ごろから、企業文化論は次第に「組織文化論」という言葉に言い換えられていきます。
背景には、文化の捉え方を拡張し、企業以外の組織にも組織文化の考え方を応用したり、組織に存在する複数の「サブカルチャー」にも目を向けていこうという動きがありました。
また、それまでの企業文化研究は、「文化」の定義があいまいなまま進められてきてしまったという課題がありました。
そこで、企業文化に代わって「組織文化」という概念を確立したのが、プロセスコンサルテーションを通じた組織変革の第一人者であるエドガー・シャインです。
シャインは『企業文化 改訂版: ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房, 2016)という書籍の中で、組織文化を「共有された暗黙の仮定のパターン」と定義づけ、「Aritifacts(人工物)」「Espoused Values(標榜された価値観)」「Underlying Assumptions(暗黙の前提)」という3つの階層に整理しました。
3つのレベルの組織文化は、上のレベルにあるものほどはっきりと可視化され、下のレベルに行くにつれて、無意識的・暗黙的なものになっていきます。
一番表層のレベルにある「人工物」は、組織構造や手順を示したマニュアルなどを指しています。
中間の「標榜された価値観」は、戦略や目標、哲学など、「こういうものを大事にしていこう」とスローガン的に掲げられるものを指しています。企業理念やバリューも、この階層に位置します。
一番深層の「暗黙の前提」は、どこにも明示的に書かれていないにもかかわらず、組織に浸透し、組織の人々の行動を支配している規範を指します。たとえば、「こういう場合は上司に相談しなければならない」「顧客からの電話には、就業時間外でも対応しなければならない」といった、組織に染み付いた暗黙のルールがこれにあたります。
「暗黙の前提」は、組織外にいる人からするとしばしば異様に見えることもあり、その組織を強く特徴づけるものでもあります。またシャインも、一番深層のレベルにある「暗黙の前提」こそが、最も本質的な組織文化であるとしています。
そして私自身は、シャインやチャットマン&オライリーによる定義を踏まえた上で、組織文化は必ずしも暗黙的である必要はないとして、組織文化を「組織を特徴づける共有された規範」と定義しています。
組織を機能させる上では「文化の整合」が必要
組織文化、すなわちカルチャーの定義が明らかになったところで、ここからはカルチャーが企業において果たす役割について見ていきましょう。
組織において組織文化は、事業や組織の構造と組織内の人々をつなぎ、文化的整合をとる役割を果たします。
「組織づくりが組織の構成要素を『整合』させることである」ということは、以前別の記事に書いた通りです。
しかし、組織構造やビジョン、ミッション、バリュー、マニュアルをどれだけ整備したところで、それが組織に浸透し、共有された規範にならなければ、何の意味もありません。そこで必要になってくるのが、組織文化を軸に精神的な整合をとることなのです。
上記は、組織の各構成要素がどのように影響し合っているのかを表したMIMIGURIのCCM(Creative Cultivation Model)です。機能的整合と精神的整合の両方をとりながら、さまざまな探究を通じて、メンバーの個々の内的動機と社会的に評価される外的価値を整合させる、という組織開発のプロセスを見取り図として示しています。
このモデルにおいて、組織文化は文化の精神的整合の中心にあり、対外的には社会や顧客から抱かれている印象・記憶としての「ブランド」に、対内的にはメンバーが感じているチームの雰囲気・関係性としての「職場風土」につながっています。
組織文化と「職場風土」の違い
組織文化と職場風土はごっちゃに語られることが多いので、ここで両者の違いについて説明しておきたいと思います。
組織文化と職場風土は非常に密接に関わっているものの、異なる概念です。
まず、風土とは「climate」であり、ある土地や組織にいる人がどのように感じているのかを普遍的に捉えたものです。たとえば、「夏は暑くて湿度が高い」というのは、東京の風土を表した表現ですね。組織であれば、「うちの職場はオープンで仲がよい」という表現は、職場風土を表したものです。
そして、東京と同じような気候の土地は他にもあるように、風土は必ずしもその土地や組織に独自のものである必要はありません。
一方、組織文化とは「組織を特徴づける共有された規範」であるため、その会社らしさを体現するものが、組織文化として認識されます。
MIMIGURIの場合は、「対話を大事にする」ことが、MIMIGURIという組織を特徴づけるカルチャーのひとつにあたります。そして、組織文化が浸透した結果、たとえば「何かあったときにすぐに相談できる」といった職場の雰囲気や関係性(=職場風土)ができ上がります。
組織文化は「ブランド」として外部に染み出す
また、社会やユーザーから認知されるブランドは、組織文化が外側に染み出したものと捉えることができます。必ずしもそうなっていない場合もあると思いますが、そうなっていると、整合性の観点からは理想的です。
組織文化に反するようなブランディングをしようとしても(そうした事例は往々にして多いのですが)、どこかにほころびや違和感が生まれ、ユーザーに伝わってしまいます。
そのため、カルチャーをつくりながらそのカルチャーを軸にブランドや職場風土をつくっていくことは、事業と組織の双方にとって非常に重要なのです。
ここまで見てきたように、組織文化は、事業の成功にとって非常に重要な意味を持ちます。
では、いったいどうすれば、組織文化をよりよい方向に変えられるのか。
多くの経営者・マネージャーの方が、そのようなテーマのもとに、現場で試行錯誤をされているのではないかと思います。実際、私のところにも、直近で多くのカルチャー変革に関するご相談や講演依頼をいただいています。
そこで次回のnoteでは、カルチャー変革のポイントについて、具体的にご紹介していく予定です。SNSやnoteをぜひフォローしてお待ちください。
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