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感触を持って、英語を覚えるということ

2023年は、生きてきたなかで最も英語の語彙力がUPした年だったと言える。

英語勉強中にネイティブと会話をしたことがある人は、「知らない単語ばっかりで何言ってるか本当にわからんな……」と思いながら笑って誤魔化した経験がきっと、いや絶対に、一度はあるよねぇ。

例えばcomfortableという単語は知っていたとしても、ネイティブは略してよく「comfy」と言うし、be right back(すぐ戻ってくるよ)は「BRB」と単語の頭文字だけ使われたりもする。

正式な単語を知っていたとしても、ネイティブが日常的に使う形式とその音、そして聞き取れる耳を持っていないと、中学英語だけで構成されている会話でも簡単に迷子になってしまうのだ。

そして当然、スラングも多用される。私が新しい服を職場に着て行った時に、同僚が「Yuki! That's so sick〜!!」と言ったのだけど、私は完全に「huh?」という顔をした。

sickは辞書的に病気を意味するし、もちろんその意味でも使われるのだけど、スラングの場合は「超かっこいいね!」とか「最高!」という意味の褒め言葉になる。greatやcoolとほぼ同じだ。

明らかにsickの意味をわかっていない顔をする私に、同僚はスラングとしての意味を紙に書いて渡してくれた。仕事が始まってからは特に、私の毎日は本当にこういうやり取りの連続だ(今でもそう)。

知らないことを知るたびに「勉強不足でごめんね」と思っていて、お客さんの英語が聞き取れなかったり他のスタッフに助けてもらうたびに、「役立たずでごめんね」と、どうしても感じてしまう。

そんな私の罪悪感や英語に触れる恐怖心を、べらぼうな愛情で払拭してくれたのがAnnieというスーパープリティーなマネージャーだった。
出来ないことがある、わからないことがある、そうして凹む、その一連のすべてを彼女はまるごと「かわいい」とひたすらに愛でて、そばにいてくれた。彼女の眼差しから、愛情だけでなく新しい国で新しい挑戦をすること自体へのリスペクトを感じていた。本当に、素敵な人たちばかりと出会ったと思う。


私が「え?」という顔をするたびに、彼らは「これ新出単語だった?」と教えてくれる。教えてもらって、「へええぇ……!」と反応する私に微笑み、Annieはハグしてくれる。

私が環境に慣れて、勉強をして、知識も自信も増えて、私に出来ることがひとつひとつ増えていく姿を見たり、お客さんから嬉しい言葉をもらったり、他のスタッフが私のことを褒めているのを耳にすると、「I’m proud of you~!!(誇らしいよ)」と嬉しい言葉をくれる。

わからないことをわからないと言い、何かを習得しようとするその姿勢を丸ごと肯定してくれる。Annieだけでなく、この職場のみんなが、本当にそうで。

私が「ごめんね…」と謝るたびに「大丈夫だよ」とか「全然気にしてないよ」ですらなく、「え?何に謝ってるの?」と素で聞き返してくる。

まだ出来ないこと、まだ知らないこと、成長過程で間違えること
そのどれも、ちっとも悪いことじゃない。謝る場面ですらないというみんなの前提に、どれだけ救われたことか。

働き始めてから少し経った頃、Annieが「ゆきにプレゼントがある!」とポケットに入るサイズのノートをくれた。

「勤務中に見つけた新出単語を、記録するために使って。この机に置いといてくれたら、最近のスラングとか私たちがゆきに教えたい言葉も見つけ次第書いていくから!」と。

きっと、自分で作ったノートだったら三日坊主にもなれなかったと思う。だけどAnnieがわざわざDay1、Day2……と毎日1Pずつ埋まるように書き込んでくれていて、みんなが私のノートの存在を知っていて、一緒に単語を拾い集めてくれる。

時々、とんでもなく下品な言葉だったり、悪い言葉だったり、ギャングしか使わないような実用性のカケラもない言葉だったりして
「覚えちゃダメ!」とか「大声で言っちゃダメ!」とかゲラゲラ笑いながらみんなが書き込んでいたり、ノートを見返して思い出して笑っていたりする。

第一言語がフランス語のメンバーがいるから
たまにフランス語も書いてある

記録されたすべての言葉たちに、情景がある。どんな文脈でこの言葉に辿り着いて、どんな様子で残したのか。どんな感情だったのか。

ひどい雨の日に「heavy rain……」とつぶやいたら「pissing rainとも言うよ」と、下品verを笑いながら教えてくれた日

持っていた紙をシンクに落としてしまい、「うわ〜〜紙が……この状態って英語でなんて言うの?」と同僚のTaylorに聞いたら「soggy!」とすぐに答えてくれて、もっとびちょびちょに濡らして「これは?」と聞くと「soaking wet」と教えてくれた日

全部が、この小さなポケットサイズのノートに残っている。

場景や感触がセットだと、本当に言葉をすぐに覚える。そして忘れにくくなる。

日本語の常用語で、「いつ覚えたか」が明確な言葉はほとんどないだろう。例えば、いつ「痛痒い」という言葉を初めて使ったのか、誰から教わったのかなんて覚えていない。気がついたら使っていた。
ひどく濡れている状態を「びちょびちょ」と表せることを、まだ知らなかった自分を覚えていない。

だけど、新たに習得する言語は違う。
多くの単語に、初めて聞いた時の記憶や感触がある。使うたびにその場景が浮かんできたりする。

これが第二言語の面白さだよなぁと改めて思うし、言葉を増やしていく過程を愛で包み、協力してくれるみんなに、本当に感謝したい。

1冊目のノートを使い切り、Annieが2冊目のノートをくれた。今年からはこの子が相棒だ。

異国に来たら、言語だけでなく毎日がわからないことばかり。

その不自由を楽しめる環境にいれるかどうかで、言語習得の速さも、国の印象もずいぶん変わる。

第二言語の語彙力が上がるということは、それだけ恥をかいてきたという証拠でもあり、教えてくれる人たちの優しさを受け取ってきたという証拠だ。

何度でもありがとうと伝えたい。

今まさに、英語を勉強しているよという皆さんがもしこのnoteと出会ってくれているなら
ツンデレすぎてなかなか簡単に振り向いてくれない英語に、時々傷つけられながらも手を伸ばしつづける私たちの努力にハグとエールを送りたい。

I’m proud of us!

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