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 作業に焦点を当てた実践と目標設定

このnoteでは,作業に焦点を当てた実践と目標設定について解説していきます.「作業療法ってなんだろう?」と悩む方,「作業に焦点を当てた目標設定」や「面接評価」について学びたい初学者向けに書きました.

このnoteの内容は大きく2部に分かれています.前半は「作業に焦点を当てた実践に必要な知識」について,後半は「作業に焦点を当てた目標設定」について解説しています(スライド59枚+解説 20,000文字).

私が各所でお話している「作業に焦点を当てた実践」や「目標設定」「面接評価」について,まずは基礎的な知識を学びたい方,研修会や学会に参加したいけど,諸々の理由で参加できない方などにオススメです.

また,このnoteを購入してくださった方への特典として,noteの最後にスライドのPDF資料(四つ切)のダウンロードリンクを付けています.ご自由にダウンロードしてください.

なお,このnoteおよびダウンロード資料は,あくまでも個人の学習目的にご活用ください.データの第三者への譲渡や,印刷しての配布は固く禁止します.また,いかなる理由があっても返金はできませんので,ご理解のうえ購入してください.

それでは早速,前半の内容「作業に焦点を当てた実践に必要な知識」について解説していきます.

作業に焦点を当てた実践を行うために,まず大切なのは,作業療法士として対象者をどのようにみるか?ということです.これは,しばしば「作業のレンズ」などと形容されます.

例えば,眼の前に一匹の魚が泳いでいるとしましょう.この魚を海洋生物を研究している学者がみる場合と,寿司屋さんがみる場合では,その視点はおそらく違います.

なぜ違うのか?それは,それぞれの専門性が違うからです.どちらが正しいのか?という議論に意味はありません.それぞれの職種が,それぞれの専門家としての視点で魚をみているわけです.

対象者をみる場合も同じです.一人の対象者を複数の職種が,それぞれの専門性の「レンズ」を通してみることになります.だからこそ,それぞれの強みを活かした他職種連携が可能になります.

では,作業療法士は対象者をどのような「レンズ」を通してみるのでしょうか?

それは「人生は作業の連続であり,人は作業の集合である」というみかたです.私たちは,生まれてからずっと作業をしています.25歳の人には25年分の作業歴が,40歳の人には40年分の作業歴があります.数えきれないほどの作業に関わってきた「結果」が,今日の自分です.

つまり,どのような作業をどのように遂行しながら生活するのか?どのような作業にどのように関わりながら生活するのか?それが生存や健康,幸福に影響を与えているということです.

「眼の前にいる対象者はどのような作業にどのように関わりながら生きてきたんだろう?」「どのような作業にどのように関わりながら生きていきたいと思っているんだろう?」「どのような作業にどのように関わることができるだろう?」という関心を基盤に持つことが大切です.

私達はどうしても解剖・運動・生理学的な視点で対象者をみる傾向があります(それはそれで大切です).しかし同時に,上述したような視点で対象者をみることから,作業療法士としての評価・支援がはじまります.

しかしながら,このような「レンズ」を通して対象者をみることは容易ではないようです.私は大学で「作業科学」や「作業療法概論」を担当しています.この科目は,作業療法士であれば誰もがご存知のように「作業とは?」「作業療法とは?」について学ぶ科目です.

ある程度授業が進行してきた段階で私は学生に「あなたは何でできていますか?」と質問します.これまで学習してきた内容を踏まえて自由に記載してもらうわけです.すると,約半数の学生は,自分の典型的な1日を構成する作業の名前を列挙しますが,残りの学生は,身体を構成しているパーツについて列挙します.

ほとんどの養成校(おそらくすべて)では,初年次に解剖・運動・生理等の基礎科目を重点的に学習します.これらについての学びは,リハビリテーションに興味・関心を持って入学してきた学生の好奇心を掻き立てるものでしょう.学生が身体を構成しているパーツを記載する気持ちもわかります.

作業のレンズ」で対象者をみる視点を養うことは,なかなか容易ではないようです…

作業についての理解を深め,「作業のレンズ」を通して対象者をみることができるようになるためには,作業的存在としての自分自身に対する理解を深めることが大切だと言われています.

ここで我々が行った研究を1つ紹介します.これは,作業科学の学習経験が学生にどのような影響を与えたか?について調査した研究です.ここでは要点のみを記載しますので,よろしければ論文を読んでください.

オープンアクセスですのでこちらから読むことができます.

ほとんどの学生は,入学当初,作業について,「なにかを作る」といった漠然としたイメージを抱いていますが,作業科学の授業を通して,作業が「人が意味を持って行う全ての活動」であることを知ります.その後,作業についての知識を学ぶ過程を通して,これまで漠然としていた「作業」の解像度が高まってきます.それはつまり,作業で語る言葉を手にするということです.

この段階に到達した学生は,次に自分自身の生活を作業の視点で顧みるようになります.作業的存在として自分自身を評価したり,「評価結果」を踏まえて自分の生活の一部を修正する経験が,作業の知識についての理解をより深めていきます.

作業的存在としての自己を評価する経験は,もう一つの気づきを生みます.それは,将来自分が担当する対象者の中にも,観察不可能で動的な内的営みが存在するという気づきです.

考えてみれば当たり前のことなのですが,どうしても学生は,リハビリテーションに対して「評価結果を踏まえ,必要なプログラムを”やらせる”」といった父権的・操作的な印象を持っています.それが,上述した気づきを通して,対象者の主観や主体性を重視する必要性を実感します.

これらの学びや気付きは,作業療法士として作業の持つ力を活かしたセラピーを行うことや,クライエント中心の考え方の基盤となるものです.ぜひ「作業のレンズ」を通して対象者をみる視点を養うため,まずは自分自身を作業的存在として捉えることから始めてみてください.

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