1mmでも近くへ
現在、北海道と千島歯舞諸島居住者連盟が主催する「洋上慰霊」という事業が実施されていることを、皆さんはご存じだろうか?
北方領土がソ連・ロシアに不法占拠されている中、両国による話し合いで、人道的な視点から特例として、元島民が北方領土に「ビザ」がない状態でも渡ることができ、お墓参りをするという事業がありました。「北方墓参」と言われる事業です。
こういった取り組みとして、その他、元島民やその家族が故郷へ訪問できる「自由訪問」という事業、さらに日本国民と現ロシア島民との交流を図る「ビザなし訪問」という事業でも、「墓参」は組み込まれているほど大切にしていた事業です。
私自身「御霊」のような、現在、科学で解明されていないものを、重視しない人間なので、昔はわざわざ税金つかって墓参りして、何の得になるんだ?って思っていましたが…
色々と経験を積んで「生きている側が過去と現在、そして未来に向き合う大切な行為」だと思うようになってから、北方墓参もまた、北方領土問題と向き合う上で大切だし、一番大事なことだと思えるようになりました。
元島民が高齢化し、運動ができない、参加できない方々が増えていき、過去を知る者が減っていくという高齢化の問題がある。元島民の実体験から語られる返還への想いの力と比べれば、元島民の2世や3世、4世といった関係者や、若い世代の運動参加者の想いはどうしても説得力がなく、後継者として、今後どのように北方領土のことを伝え、問題解決へ取り組んでいくかもまた課題であり、私自身様々な視点・手法で試行錯誤しながら事業を実施・参加していたが、元島民のやれること・やることに比べれば程遠い。
今回、主催公式の映像記録班として、3度、洋上慰霊に参加させていただき様子を撮影していたが…。
ふと、祭壇に手を合わせ、供養するのは、元島民も、2世、3世、また一般の方々も「同じ」だと感じた。
誰もが、北方領土を開拓し、そこで生活し生涯を終えた御霊へ向け、過去、現在、未来と向き合う…。
「洋上慰霊」事業に対して、昔の私のように、否定的な人々もいる。
元島民や関係者の中にも、島に渡れないなら意味がないという方々もいる。
元島民で劇場版アニメ「ジョバンニの島」の主人公カンタのモデルになった得能宏さんは「コロナや戦争という情勢で、墓参ができない今、根室の港から、四島へ向けて出港することだけでも事業は成功だし、とにかく1歩でも1mmでも四島に近づくこと、そして手を合わせることが大事」と語られていた。
元島民だけではなく、後継者、そして国民一人ひとりが、まずは「慰霊」をすることが、運動の第一歩であり、元島民の想いに1mmでも近づく方法なのかもしれないと感じた。
国後島元3世:髙橋友樹
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