11.忘れたいこと
伯母は、私がこうして苦しんでいることを
何も、知らない。
言おうとも思わないし
気付いて欲しくもない。
だって彼女は、
私と円満な関係を築けているつもりでいる。
可哀想な人。
誰よりも繊細で、努力家で
誰よりも家族の繋がり、絆が欲しいのに
素直になれずにいる。
実の息子には愛想を尽かされ
名前を捨てたいから、と婿養子となり
家を出て行った。
それら全て事後報告で。
薬を飲む事で心の安定を手に入れた伯母は
周りを傷付けた事実を、過去を、
綺麗に全て忘れているのだ。
そして、
私にはもうあなたしか居ないの、と
呪いの様な言葉を吐く。
かつては存在を否定した相手に。
立場を弁えろ
お前は所詮あの女の娘だから
気が利かないし使えない
似過ぎていて嫌い
お前に使った金を今すぐ払え
できなければ出て行け
思い出したらキリがないほど
鋭い言葉に傷付けられてきた。
傷つけられる度、両親を憎んだ。
私がここにいるのは、両親のせい。
こんな気持ちになるのも、両親のせい。
こんな言葉を吐かれるのも、両親のせい。
全てを人のせいにして
傷つけられるがまま傷ついて
同じように体にも傷をつけた。
見えるように傷がつけば
あの人にも分かってもらえる気がしたから。
気づいてもらえるように。
心配してもらえるように。
しかし、
それでも誰も、
私の傷には気付かなかった。
体の傷は残ったまま、
心の傷には蓋をした。
蓋の下で傷は膿み、
取り返しのつかないことになってしまった。
傷を塞ぐ方法すら、教えられなかった。
消毒することも、
瘡蓋をはがしてはいけないことも、
何も知らない私は
いつまでも痛みを受け入れ続けた。
忘れれば、未来を受容できるのですか?
どこまで背負っていけばいいのですか。
忘れることは
そんなに
悪いことなのですか。
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