vol8.最期の一息まで隣に
誤嚥性肺炎で入院していた利用者さんが退院してきた。何度も入退院を繰り返しており、全身状態は徐々に落ちており退院時に「もし次に肺炎で入院する時は、もう帰れないかもしれない」という説明をされて帰宅。
そうして帰宅して早くもその決断を迫られるときが来た。発熱し呼吸状態もあまりよくない。救急搬送するか?それとも自宅で療養を続けていくか?旦那さんの答えは『最期まで自宅で過ごしていきたい』と。
そして状態が良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら迎えた4月のある日。とうとうその日はやってきた。呼吸が普段と違うと旦那さんより連絡が。スタッフが訪問すると明らかに下顎での呼吸に変わっていた。
この状況で看護師ができることもするべきことも何もなかった。最期の時を2人でゆっくり過ごしてもらうように、息を引き取ったとしても、焦らずゆっくりで大丈夫なので、連絡をしてもらうようにスタッフから伝えた。
その数時間後、旦那さんから息を引き取りました。という連絡が入った。
私と先輩で訪問し、エンゼルケア希望があったため一緒にお身体を拭いたり、着替えをしたり、お身体を整えた。
初めてのエンゼルケアで、私は大切な人の最期を目の前にした人に対してなんて声をかけていいのか分からなかった。自宅で最期まで過ごせてよかったですねでもなく、残念でしたね、でもなく。どんな言葉も陳腐に感じた。
これまでの二人との関わりに思いを馳せながら、出てきた言葉は「たくさん頑張りましたね」と労わる言葉だけだった。
最期の一息まで旦那さんはずっと本人のそばにいたそう。何を感じ、何を話したんだろう。
そのあとも、近所で歩いている旦那さんを見かけては思い出す。きっとこれからもずっと私の心に生き続ける。