「アルゼンチン-タンゴの国での7日間」
1.Day1:ブエノスアイレスへ
機内から見下ろすブエノスアイレスの街並みに、私の心は高鳴った。
「ねえ、見て!あそこにオベリスコが見えるわ」
窓際の席に座る夫の肩越しに、ブエノスアイレスのシンボルであるオベリスコが見えた。白く尖った塔が、夕暮れ時の街を静かに見守っている。
エセイサ国際空港に到着したのは、現地時間の午後6時過ぎ。日本との時差は12時間。長時間のフライトで体は疲れていたが、南米の地に降り立った高揚感で、疲れも吹き飛んだ。
空港からブエノスアイレス市内へは、事前に予約していたプライベート送迎サービスを利用した。約1時間のドライブで、私たちは宿泊先のホテルに到着した。
【宿泊先】
ファエナ・ホテル・ブエノスアイレス (Faena Hotel Buenos Aires)
https://www.faena.com/buenos-aires/
プエルト・マデロ地区にあるこの5つ星ホテルは、かつての倉庫を改装したブティックホテル。赤レンガの外観と、フィリップ・スタルクによるデザインが印象的だ。
夜遅くまで飛行機の中だったため、この日はホテル内のレストランで軽く夕食を取ることにした。
疲れた体を引きずりながらも、明日への期待に胸を膨らませ、私たちは眠りについた。ブエノスアイレスの夜は、まだ始まったばかりだった。
2.Day2:情熱の街を歩む - ブエノスアイレス観光
朝日が差し込む窓から、リオ・デ・ラ・プラタ川の輝きが目に飛び込んできた。時差ボケで目が覚めたのは早朝5時。夫はまだ熟睡している。静かにバルコニーに出ると、朝もやの中にブエノスアイレスの街並みが浮かび上がっていた。
朝食を済ませ、いよいよブエノスアイレス観光の始まりだ。まずは、サン・テルモ地区へ向かう。ここは、タンゴの発祥の地として知られている。石畳の道を歩いていると、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る。
カラフルな建物が立ち並ぶカミニート通りでは、タンゴダンサーたちが路上パフォーマンスを繰り広げていた。
昼食は、サン・テルモ市場で地元の味を楽しむことにした。
【レストラン】
エル・デンテ (El Dente)
住所:Carlos Calvo 430, C1102 CABA
市場内にある小さなレストラン。地元の人々で賑わっている。
おすすめメニュー:
• チョリパン(チョリソーソーセージのサンドイッチ)
• ロクロ(豆と肉の煮込み料理)
午後は、レコレータ地区へ。ここにある「レコレータ墓地」は、エビータ・ペロンの墓で有名だ。華麗な彫刻が施された墓石の間を歩きながら、アルゼンチンの歴史に思いを馳せた。
夕方、私たちは「フロリダ通り」へ。ここは、ブエノスアイレスの中心部を南北に走る歩行者天国だ。ショッピングを楽しむ人々、路上パフォーマーたち、そしてマテ茶を片手に談笑する若者たち。街の活気が肌で感じられる。
夜は、タンゴショーを楽しむことにした。
【アクティビティ】
カフェ・トルトーニ (Café Tortoni)
住所:Av. de Mayo 825, C1084 CABA
https://www.cafetortoni.com.ar/
1858年創業の老舗カフェ。夜になると、地下のホールでタンゴショーが開催される。
艶やかな衣装を身にまとったダンサーたちの華麗な舞に、息を呑んだ。情熱的な音楽と共に、彼らの動きは時に激しく、時に優雅だ。
ホテルに戻る途中、月明かりに照らされたプエルト・マデロの夜景に魅了された。かつての港湾地区が、今では近代的なウォーターフロントに生まれ変わっている。
部屋に戻り、バルコニーから夜景を眺めながら、私たちは静かに微笑んだ。明日はどんな出会いが待っているのだろうか。
3.Day3:大地の恵みを味わう - パンパ平原への小旅行
私たちはブエノスアイレスを後にした。今日の目的地は、アルゼンチンの広大な大地、パンパ平原だ。ガウチョ(カウボーイ)文化を体験し、アルゼンチンの心臓部を感じたいと思い、日帰りツアーを予約していた。
バスに揺られること約2時間。窓の外の景色が徐々に変わっていく。高層ビルや喧騒は遠ざかり、どこまでも続く平原が広がり始めた。そこには、点々と牛の群れが見える。アルゼンチン経済の要であり、世界的に有名な牛肉の源がここにあるのだ。
エスタンシア(大農場)に到着すると、まずはガウチョたちの歓迎を受けた。彼らの誇り高い表情と、荒野を駆ける姿に、アルゼンチンの魂を感じる。
私たちは馬に乗せてもらい、広大な牧場を散策した。初めは怖かったが、優しい馬と熟練したガウチョのおかげで、次第に楽しくなってきた。夫は意外にも乗馬が得意で、颯爽と走り回っている。
昼食は、エスタンシアの名物、アサードを堪能した。
【レストラン】
エスタンシア内レストラン
広大な敷地内にある、オープンエアのレストラン。目の前でガウチョたちが肉を焼き上げる。
おすすめメニュー:
• アサード(各種肉の炭火焼き)
• チミチュリソース(ハーブとオイルのソース)
• エンパナーダス(具の詰まったパイ)
炭火で焼き上げられた肉の香りが、大地の匂いと混ざり合う。口に入れた瞬間、肉汁があふれ出す。これまで食べた肉の中で、最高の味だった。
食事の後は、フォークロアショーを楽しんだ。激しいリズムのマランボという踊りに、会場全体が熱気に包まれる。気がつけば、私たちも立ち上がって踊っていた。隣にいたアルゼンチンの家族が、踊り方を教えてくれる。言葉は通じなくても、踊りを通じて心が通じ合う。そんな瞬間だった。
ブエノスアイレスに戻ると、すでに夜の帳が降りていた。今夜の宿泊先は、レコレータ地区のブティックホテルだ。
【宿泊先】
ミオ ブエノスアイレス (Mio Buenos Aires)
住所:Av. Pres. Manuel Quintana 465, C1129 CABA
https://www.miobuenosaires.com/
モダンなデザインと、温かみのあるサービスが魅力的なホテル。
夜、屋上テラスでワインを飲みながら、夫と静かに語り合った。都会での日々に追われる生活の中で、二人で過ごす時間がこんなにも貴重だったことに気づく。パンパ平原での体験は、私たちに新たな視点をもたらしてくれた。
4.Day4‐Day6:氷河の絶景に息を呑む - エル・カラファテ
早朝、ブエノスアイレスの喧騒を後にし、南部パタゴニア地方へと飛び立った。目的地は、エル・カラファテ。ロス・グラシアレス国立公園の玄関口として知られるこの街は、世界遺産にも登録されているペリト・モレノ氷河への拠点となる。
3時間のフライトの後、エル・カラファテ空港に降り立った瞬間、空気が変わったことに気づく。乾燥した冷たい風が頬をなでる。遠くには、アンデス山脈の雪をかぶった峰々が見える。ここは、まさに地球の果てを思わせる景色だった。
空港からホテルへの道中、ガイドのホルヘさんが語る。
「ここエル・カラファテの名前は、この地方に自生する小さな果実に由来しているんです。その果実を食べると、必ずこの地に戻って来るという言い伝えがあります」
その言葉に、夫と顔を見合わせてほほ笑んだ。
【宿泊先】
エスプランド・エル・カラファテ (Esplendor El Calafate)
住所:Av. Juan Domingo Perón 1143, El Calafate, Santa Cruz
Esplendor by Wyndham El Calafate(エル・カラファテ):(最新料金:2024年)
アルゼンチン湖を見下ろす丘の上にあるこのホテルは、現代的なデザインと伝統的なパタゴニアの要素を融合させている。
チェックイン後、早速町の散策に出かけた。小さな町ながら、世界中からの観光客で賑わっている。お土産屋さんには、カラフルなポンチョやマテ茶の道具が並ぶ。
夕食は、地元の名物料理を楽しむことにした。
【レストラン】
ラ・タベルナ (La Tablita)
住所:Coronel Rosales 28, El Calafate, Santa Cruz
地元で最も人気のあるレストラン。パタゴニアの名物料理が楽しめる。
おすすめメニュー:
• コルデロ・パタゴニコ(パタゴニア風ラム肉のロースト)
• トルタ・フリタ(揚げパン)
翌朝、いよいよペリト・モレノ氷河へ向かう。バスで約1時間半、道中では野生のグアナコ(ラマの仲間)の群れを見かけた。そして、氷河が見えてきた瞬間、私たちは言葉を失った。
巨大な氷の壁が、まるで生き物のように佇んでいる。青白い氷の色、そしてときおり聞こえる氷河の轟音。自然の壮大さと、地球の歴史を目の当たりにする思いだった。
【アクティビティ】
ペリト・モレノ氷河トレッキング
ガイド付きで氷河の上を歩くことができる。クランポン(アイゼン)を装着し、氷河の表面を歩く体験は圧巻。
氷河の上を歩いていると、夫が突然立ち止まった。
「ねえ、聞こえる? 」
確かに、足元から微かな振動が伝わってくる。私たちは無言で手を握り合った。
夕方、氷河クルーズに参加。船上から見る氷河の姿は、また違った表情を見せてくれる。夕日に照らされた氷河は、オレンジ色に輝いていた。
翌日、エル・カラファテを後にする前に、ホルヘさんお勧めのカラファテの実を食べてみた。甘酸っぱい味が口の中に広がる。「必ずまた戻ってくる」という言い伝えが本当なら、きっと私たちはまたここに来るのだろう。そう思うと、なんだか嬉しくなった。
パタゴニアでの体験は、言葉では表現しきれないほど深く心に刻まれていた。
5.Day6:再びブエノスアイレスへ - 最後の2日間
ブエノスアイレスに戻ってきた私たちを出迎えたのは、活気に満ちた街の喧騒だった。パタゴニアの静寂とは対照的な都会の雰囲気に、一瞬戸惑いを感じる。
今回の宿泊先は、パレルモ・ソーホー地区のデザインホテルだ。
【宿泊先】
ベ・ホテル・パレルモ・ソーホー (Be Hotel Palermo Soho)
住所:Nicaragua 4762, C1414BVB CABA
アートやファッションの中心地にあるこのホテルは、モダンでスタイリッシュな雰囲気が魅力。
チェックイン後、早速パレルモ・ソーホー地区の散策に出かけた。カラフルな壁画、おしゃれなカフェ、ユニークなブティックが立ち並ぶ通りを歩いていると、この街の創造性とエネルギーが肌で感じられる。
夕食は、地元で人気のパリージャ(グリル)レストランを選んだ。
【レストラン】
ラ・カブレラ (La Cabrera)
住所:Cabrera 5099, C1414 CABA
https://www.lacabrera.com.ar/
熟成肉の美味しさで有名なレストラン。
おすすめメニュー:
• ビフェ・デ・チョリソー(Tボーンステーキ)
• プロヴォレータ(グリルしたチーズ)
熟成肉の深い味わいに、私たちは言葉を失った。パンパ平原で見た牛たちを思い出す。アルゼンチンの大地の恵みを、こうして直接味わえることに感謝の念を覚えた。
翌日は、これまで行けなかった場所を巡ることにした。まずは、カサ・ロサダ(大統領官邸)がある5月広場へ。ここで毎週木曜日に行われる「白いスカーフの母たち」のデモについて、ガイドから説明を受ける。アルゼンチンの歴史の重みを感じずにはいられなかった。
その後、コロン劇場を訪れた。世界屈指の音響を誇るこの歌劇場の豪華な内装に圧倒される。
【アクティビティ】
コロン劇場ガイドツアー
https://teatrocolon.org.ar/en/guided-tours
劇場の歴史や建築について詳しく学べるツアー。
午後は、レティーロ地区にある国立美術館を訪れた。アルゼンチンの芸術の歴史を辿りながら、この国の文化的な深さを改めて実感する。
夕方、最後の夜を過ごすため、私たちは再びサン・テルモ地区へと足を運んだ。古い教会や骨董品店が立ち並ぶ通りを歩きながら、旅の始まりを思い出す。
そして、この旅の締めくくりにふさわしい場所へ向かった。
【レストラン&タンゴショー】
エル・ケエランディ (El Querandí)
住所:Perú 302, C1067AAH CABA
https://querandi.com.ar/
1920年代の雰囲気を残す建物で、本格的なタンゴディナーショーが楽しめる。
おすすめメニュー:
• ロモ・アル・メルロー(牛フィレ肉の赤ワイン煮込み)
• フラン・コン・ドゥルセ・デ・レチェ(カラメルプリン)
優雅な音楽と情熱的なダンスに魅了されながら、私たちは静かに手を握り合った。この1週間で体験したすべてのことが、この瞬間に凝縮されているようだった。
ホテルに戻る途中、月明かりに照らされたブエノスアイレスの街並みを眺めながら、私たちは無言で歩いた。言葉にする必要のない理解が、二人の間にあった。
6.Day7:帰国の途へ
エセイサ国際空港に向かう車中、窓の外に広がるブエノスアイレスの街並みを眺めながら、タンゴの情熱、パンパ平原の広大さ、ペリト・モレノ氷河の壮大さに思いを馳せる。
空港に到着し、チェックインを済ませた後、お土産店で最後の買い物をする。マテ茶のセット、地元のワイン。これらを見るたびに、きっとアルゼンチンでの思い出が蘇るだろう。
搭乗の時間が近づき、私たちは最後にアルゼンチンの大地に別れを告げた。飛行機の窓から見える街並みが、徐々に小さくなっていく。
機内食が配られる頃、隣の席のアルゼンチン人カップルと会話を交わした。彼らは日本への観光旅行だという。私たちの経験を元に、日本でのおすすめスポットを教えてあげる。文化交流は、こうして空の上でも続いていく。
7.旅を振り返って
帰国後、私たちの生活に少しずつ変化が現れ始めた。休日には近所の公園でタンゴを踊ってみたり、週末にはちょっとした小旅行に出かけたりするようになった。日々の食事も、アルゼンチンで学んだレシピを取り入れ、家庭の中に小さな冒険を取り入れている。
この旅行記を書きながら、あの7日間の思い出が鮮明によみがえってくる。そして、これからの人生もまた、新たな冒険の連続になるだろうという期待に胸が膨らむ。
この旅行記を読んでくださった皆さんも、ぜひ自分たちなりの冒険を見つけてほしい。それは遠い国への旅行かもしれないし、近所の公園への散歩かもしれない。大切なのは、その経験を通じて新しい自分を発見し、大切な人との絆を深めること。
アルゼンチンよ、ありがとう。いつかまた、あの大地を踏みしめる日を楽しみにしている。
≪アルゼンチン旅行基本情報≫
■入国方法
日本国籍の方が観光目的で90日以内の滞在をする場合、ビザは不要です。ただし、パスポートの残存有効期間は、入国時点で最低6ヶ月以上必要です。
■ビザ取得
90日以上の滞在や就労目的の場合は、事前にビザの取得が必要です。詳細は在日アルゼンチン大使館のウェブサイトで確認してください。
■現地での移動手段
ブエノスアイレス市内:
地下鉄(Subte):市内の主要エリアを結ぶ6路線があり、便利です。
バス(Colectivo):広範囲をカバーしていますが、路線が複雑なので、事前に調べておくことをおすすめします。
タクシー:比較的安全で便利ですが、必ず正規のタクシーを利用しましょう。
Uber:ブエノスアイレスでも利用可能です。
長距離移動:
国内線:主要都市間の移動に便利です。Aerolíneas Argentinasが主要な航空会社です。
長距離バス:快適で安価な選択肢です。寝台バスもあります。
■通貨
アルゼンチン・ペソ(ARS)が使用されています。為替レートの変動が激しいので、現地での両替がおすすめです。クレジットカードも広く使えますが、小さな店や地方では現金が必要な場合があります。
■チップ
レストランでは請求額の10%程度が一般的です。タクシーではチップは不要ですが、荷物を扱ってもらった場合は少額のチップを渡すとよいでしょう。
■気候と服装
アルゼンチンは南半球に位置するため、日本とは季節が逆になります。
ブエノスアイレス:四季があり、夏(12月〜2月)は暑く、冬(6月〜8月)は冷え込みます。
パタゴニア:年間を通じて寒く、特に冬は厳しい寒さになります。防寒着は必須です。
■言語
公用語はスペイン語です。英語が通じる場所も増えていますが、基本的なスペイン語を覚えておくと便利です。
■電源
電圧は220V、周波数は50Hzです。プラグは日本と異なるので、変換アダプターが必要です。
■時差
日本との時差は-12時間です(サマータイム実施時は-11時間)。
■治安
一般的に観光地の治安は良好ですが、スリや置き引きには注意が必要です。特に人混みの中では貴重品の管理に気をつけましょう。
■食事
牛肉料理が有名ですが、ベジタリアン向けのメニューを提供するレストランも増えています。水道水は飲まないようにし、ミネラルウォーターを利用しましょう。
■注意事項
マテ茶は現地の人々にとって重要な文化です。丁寧に受け取りましょう。
時間にルーズな面があるので、約束時間には余裕を持って臨みましょう。
タンゴショーやサッカー観戦など、現地の文化体験を楽しむことをおすすめします。
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