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「キューバ-時が止まった楽園へ」


1.魅惑のキューバへ - 旅の始まり

カリブ海に浮かぶ社会主義国キューバ。1950年代のクラシックカーが今も現役で走り、植民地時代の建造物が色褪せながらも威厳を保ち続ける、まるで時が止まったかのような不思議な国。
そんなキューバの時が進む前に一度、ベールに包まれていたこの国を見てみたいと考えた。

【入国とビザについて】
日本人観光客の場合、30日以内の滞在であればビザは不要だが、観光カード(ツーリストカード)の取得が必須となる。これは日本の旅行会社やキューバ大使館で入手可能で、費用は約3,000円。パスポートの残存有効期間は入国時から6ヶ月以上必要だ。

私たちは成田からメキシコシティ経由でハバナへ向かうルートを選んだ。直行便がないため、経由地での乗り継ぎは避けられない。アメリカ経由も可能だが、追加でESTAの取得が必要になるため、メキシコ経由を選択した。

2.Day 1:ハバナ到着 - タイムスリップした街との出会い

メキシコシティでの乗り継ぎを終え、ハバナのホセ・マルティ国際空港に降り立ったのは、現地時間の午後3時頃だった。空港を出た瞬間、むわっとした熱気と共に、甘い葉巻の香りが私たちを出迎えた。

【宿泊先:イベロスター グランド パッカード】
住所:Calle Prado, 51, La Habana, Cuba
URL: https://www.iberostar.com/en/hotels/havana/iberostar-grand-packard

2018年にオープンした5つ星ホテル。オールド・ハバナの中心に位置し、屋上インフィニティプールからマレコン通りとカリブ海を一望できる。歴史的な外観と近代的な内装が見事に調和している。

空港からホテルまでは、事前予約していたホテルの送迎サービスを利用。約30分のドライブで、街の様子が少しずつ見えてきた。道路脇には、まるで博物館から抜け出してきたかのような1950年代のアメリカ車が、現役のタクシーとして走っている。シボレーやキャデラックといった往年の名車たちが、パステルカラーの建物を背景に、色とりどりの姿で行き交う光景は、まさに絵葉書のような美しさだった。

チェックイン後、早速オールド・ハバナの散策へ。歩き始めてすぐに気付いたのは、インターネットの存在感の薄さだ。スマートフォンを見ながら歩く人がほとんどいない。代わりに、路上でドミノに興じる人々や、軒先で談笑する住民の姿が目に入る。

【ディナー】
・ラ・グアリダ
住所:Concordia No.418, La Habana, Cuba

ひとことメモ:映画『フレサとチョコレート』のロケ地として有名な建物の最上階にあるレストラン。廃墟のような外観から想像できない優雅な空間が広がる。

おすすめメニュー:
・ロブスターのグリル
・マラカイボ風チキン
・モヒート

夕暮れ時になると、マレコン通りは地元の若者たちで賑わい始めた。カリブ海からの潮風を受けながら、路上ミュージシャンの演奏に耳を傾ける。モヒートを片手に、夕陽に染まる街並みを眺めていると、ここが現代のキューバなのか、それとも60年前のハバナなのか、その境界が曖昧になってくる。

初日の夜は、ホテルの屋上バーで締めくくることにした。インフィニティプールに映る満天の星空を眺めながら、明日からの本格的な観光への期待に胸を膨らませた。寝室に戻ると、窓の外からかすかにサルサの音楽が聞こえてくる。エアコンの効いた部屋の中で、私たちは静かに耳を澄ませた。

3.Day 2:オールド・ハバナ散策

朝食後、世界遺産にも登録されているオールド・ハバナの散策へ出発。朝の空気はまだ涼しく、路上で新聞を読む老人たちや、学校へ向かう制服姿の子供たちの姿が印象的だ。

ツアーガイドとして予約していたマリアと合流しアルマス広場から散策をスタート。ここはかつて軍事演習場として使われていた場所だが、今は観光客と地元の人々が行き交う憩いの場となっている。広場を囲むコロニアル様式の建物群は、スペイン統治時代の面影を色濃く残している。

「ここでちょっと寄り道を」とマリアが案内してくれたのは、路地裏のパン屋さん。観光客向けではない、地元の人々が通う小さな店だ。

・パナデリア・サン・ホセ
住所:San Ignacio 364, La Habana, Cuba

ひとことメモ:できたてのキューバンブレッドとコーヒーで一休み。パンは1個0.05CUC(約0.06USD)という驚きの価格。

「これが本当のキューバンコーヒーよ」とマリアが差し出してくれたカップから、強い香りが立ち上る。濃厚で甘みのある味わいは、確かに観光客向けのカフェで飲むものとは一線を画していた。

午前中のハイライトは、カテドラル広場。バロック様式の大聖堂は、非対称な2つの塔が特徴的だ。広場では地元のアーティストが作品を販売しており、私たちは水彩画を1枚購入。画家との会話を通じて、キューバの芸術文化についても知ることができた。

【ランチ】
・ドンナ・エステラ
住所:Mercaderes 208, La Habana, Cuba
おすすめメニュー:
・ルーパ・ビエハ(伝統的な牛肉の煮込み)
・コングリ(黒豆と米の炊き込みご飯)
・マンゴーシェイク 

ひとことメモ:1850年代の邸宅を改装したレストラン。中庭での食事は、まるで昔の貴族の暮らしを体験しているよう。

午後はヘミングウェイの足跡を辿る。まずは、彼が16年間暮らしたフィンカ・ビヒアへ。

【アクティビティ:ヘミングウェイの家博物館見学】
所要時間:約2時間

生活空間がそのまま保存されている。机の上には、最後の著作の原稿が残されたまま。写真撮影は外観のみ可能。

夕方には、ヘミングウェイが通った伝説的なバー、フロリディータへ。

【バー】
・エル・フロリディータ
住所:Obispo 557, La Habana, Cuba

ひとことメモ:「ヘミングウェイ・スペシャル」というダイキリを注文。観光客で賑わうが、バーテンダーの技と生演奏は本物。

日が暮れる頃、カサ・デ・ラ・ムジカへ。

【ディナー&エンターテイメント】
・カサ・デ・ラ・ムジカ
住所:Galiano entre Neptuno y Concordia, La Habana, Cuba

ひとことメモ:本格的なキューバ音楽とダンスショーを楽しめる。地元客も多く、観光客と一緒にサルサを踊る光景も。

この日は、音楽と踊りに心を奪われ、すっかり夜更かし。ホテルに戻る途中、マレコン通りで見かけた地元のカップルたちは、まるで時間を気にする様子もなく、波音をバックに語らっていた。

4.Day 3:革命の跡を巡る

朝もやの中、革命広場へと向かう。タクシーの運転手フアンは、革命当時の話を聞かせてくれた。「私の父は革命軍の一員でした」と誇らしげに語る彼の横顔に、キューバ人の複雑な思いが垣間見えた。

【革命広場】
ひとことメモ:朝一番での訪問がおすすめ。観光バスが到着する前の静寂の中で、チェ・ゲバラの肖像画が刻まれた内務省ビルを眺めることができる。

【アクティビティ】
・革命博物館見学
住所:Refugio 1, La Habana, Cuba
所要時間:約2時間

ひとことメモ:旧大統領官邸を利用した博物館。弾痕の残る展示品から、革命の生々しさが伝わってくる。英語の案内板は少ないため、日本語ガイドブックの持参推奨。

【ランチ】
・パラドール・ロス・メルカデレス
住所:Mercaderes 265, La Habana, Cuba

おすすめメニュー:
・アヒアコ(キューバ伝統のスープ)
・タマレス・キューバーノ(トウモロコシの蒸し物)
・クリスタル・ビール 

ひとことメモ:地元客で賑わう庶民的なレストラン。値段も手頃で、本場のキューバ料理を楽しめる。

午後は、キューバを代表する産業のひとつ、葉巻工場の見学へ。

【パルタガス葉巻工場見学】
所要時間:約1時間

ひとことメモ:写真撮影は禁止だが、職人たちの手作業を間近で見学できる。工場直営店での葉巻購入がおすすめ。偽物が出回っているため、街中での購入は要注意。

夕暮れ時、マレコン通りの散策へ。カリブ海に沈む夕陽を眺めながら、3キロにわたる海岸通りを歩く。週末ともなれば、この通りは地元の若者たちの社交場と化す。ギターの音色、恋人たちの語らい、子供たちの笑い声が、潮風に乗って響いてくる。

夜は、ブエナビスタ・ソシアルクラブで音楽を楽しむ。

・カフェ・タバルナ
住所:Mercaderes y Obispo, La Habana, Cuba

ひとことメモ:伝説的なキューバ音楽グループのメンバーによる生演奏を楽しめる。観光客向けではあるが、演奏の質は確か。

この日、特に印象に残ったのは人々との何気ない会話だ。革命についても、経済についても、彼らは驚くほど率直に語ってくれた。「不便なことも多いけれど、それでも私たちはハッピーよ」と話す女性の言葉が心に残った。

5.Day 4-5:バラデロビーチリゾート

ハバナを後にする朝、宿のマダムが「バラデロは天国よ」と笑顔で送り出してくれた。専用車での2時間の道中、延々と続くサトウキビ畑の間を縫うように走る。運転手のホセさんは「このサトウキビ畑は私の祖父の時代からあるんだ」と誇らしげに語ってくれた。

【宿泊先:メリア・バラデロ】
住所:Carretera de las Morlas, Varadero, Cuba
URL: https://www.melia.com/en/hotels/cuba/varadero/melia-varadero

ひとことメモ:白砂のビーチに面した5つ星リゾート。7つのレストラン、5つのバー、3つのプールを完備。客室からの海の眺めは圧巻。

ホテルに到着すると、スタッフがフレッシュココナッツジュースで出迎えてくれる。部屋のバルコニーから見える紺碧の海に、思わず深いため息が漏れた。

ここではアクティビティを満喫。
セーリングでは、地元ガイドのカルロスさん指導の下、カリブ海の風を全身で感じながら、透明度抜群の海でシュノーケリング。色鮮やかなエンゼルフィッシュやパロットフィッシュが間近で泳ぐ姿に、歓声が上がった。

【ランチ】
ヴァラデロ62
住所:Calle 62, Varadero, Cuba
オーナーシェフのホセさんが「今朝獲れたばかり」と自信を持って勧めてくれた魚のセビーチェが絶品。テラス席では、地元の子供たちがビーチバレーを楽しむ姿が見え、のどかな雰囲気に包まれる。

午後はキューバ-の名産であるラム工場見学にも出かけた。
熟練の職人が「これが私たちの誇りです」と、樽の熟成工程を丁寧に説明。試飲させてもらった15年物は、まろやかな甘さと深い香りが印象的だった。

2日目には漁村を訪問。
当初予定になかったが、ホテルのコンシェルジュ、ラウルさんの「本当のキューバを見てほしい」という熱意で実現。漁師のペドロさん宅で、奥さんの手作りの魚介炊き込みご飯を頂きながら、家族写真を見せてもらったり、孫たちと遊んだり、言葉の壁を越えた温かい交流が生まれた。

サンセットディナーでは、シェフおすすめの「アブエラ(おばあちゃん)のレシピで作ったキューバ風ステーキ」に舌鼓。波音をBGMに、満天の星空の下での特別な時間となった。

ここは高級リゾートの洗練された雰囲気の中にも、キューバ人特有の人懐っこさと温かさが溶け込んでいる—そんな印象が心に残った。

6.Day 6-7:トリニダーへ

バラデロを出発する朝、運転手のラモンさんが「トリニダーまでの道のりは長いけど、キューバの田舎の素晴らしい風景が楽しめますよ」と教えてくれた。その言葉通り、サトウキビ畑や赤土の大地、点在する小さな村々の風景が車窓から広がった。

途中立ち寄ったシエンフエゴスでは、地元ガイドのルイサさんが「フランス人入植者たちの夢が詰まった街なのよ」と熱く語りながら案内してくれた。
パラシオ・デ・バジェでは、19世紀の豪商の暮らしぶりを示す優美な建築に目を奪われた。

【ランチ】
・レストラン・サン・カルロス
住所:Calle San Carlos, Cienfuegos, Cuba
窓際の特等席を確保。
ウェイターのホルヘさんお薦めの海老のアヒージョは、にんにくの香りが食欲をそそる逸品。
「このレシピは3代続くの」と誇らしげに話してくれた。

【宿泊先:カサ・パルティクラル・ラ・ボカ】
住所:Real 16, La Boca, Trinidad, Cuba

ひとことメモ:民家を改装した宿。オーナーのマリアさん一家との交流が旅の醍醐味。手作りの朝食は絶品。海を望むテラスでの夕暮れが素晴らしい。

ホテルに到着すると、オーナーのマリアさん一家が温かく出迎えてくれた。「ここがあなたの家よ」という言葉に、すぐに打ち解けられた。

テラスで飲んだマリアさん特製のモヒートは、ミントの爽やかさが印象的。

世界遺産の街並み散策では、カメラを構えていると地元の子供たちが「写真撮って!」と寄ってきて、自然な交流が生まれた。

プラザ・マヨールでは、老人たちがチェスに興じる様子や、路上でギターを奏でる音楽家たちの姿が、まるで時が止まったかのような雰囲気を醸し出していた。

【ディナー】
・レストラン・ソル・アナンダ
住所:Real del Jigüe 45, Trinidad, Cuba
シェフのアントニオさんが「これぞキューバの味」と自信を持って出してくれたロポ・ビエホが絶品。

地元バンドの生演奏に合わせて、客同士が踊り出す様子は、まさにキューバならでは。

2日目のサルサレッスンでは、講師が「音楽を感じて!」と熱心に指導。

最初は戸惑っていた私たちも、次第にリズムが体に染み込んでいくのを感じた。

【ランチ】
・パラドール・ソル・イ・ソン
住所:Calle Cristo 36, Trinidad, Cuba
中庭では、古い扇風機がゆっくりと回る中、シェフ手作りのキューバ風パエリアに舌鼓。

アンティーク市場では、レース編み職人のお婆さんが「これは私の母から教わった模様なの」と一針一針丁寧に編み上げる様子に魅せられた。
値段交渉も、笑顔の会話を楽しみながらの和やかなものだった。

最後の夜のカサ・デ・ラ・トローバは、まさにキューバの魂が宿る場所。

地元の人々は初心者の私たちを温かく迎え入れ、基本ステップを教えてくれた。「サルサは心で踊るものよ」というおばあちゃんの言葉が心に残った。

石畳を歩くたびに響く足音、色とりどりの壁に映える夕陽、路地裏から漂う家庭料理の香り、そして何より、見知らぬ旅行者を家族のように迎え入れてくれる人々の温かさ。トリニダーでの2日間は、まさに生きたキューバの歴史と文化を体験する貴重な時間となった。

帰り際、マリアさんが「あなたたちはもう私たちの家族よ。また帰ってきてね」と言ってくれた言葉が、今でも心に深く残っている。

7.キューバ旅行を終えて 

時計の針が60年前で止まったと言われるキューバ。しかし、実際に訪れてみると、その表現は必ずしも正確ではないことに気付く。確かに街には1950年代のクラシックカーが走り、革命期の面影を残す建物が立ち並ぶ。だが、そこに暮らす人々の営みは、決して過去に縛られてはいない。

むしろ、物質的な豊かさや利便性とは異なる価値観で、現代を力強く生きている。音楽があり、踊りがあり、人々の笑顔がある。インターネットこそ制限されているものの、代わりに濃密な人間関係が息づいている。

特に印象的だったのは、出会った人々の「今」を生きる姿勢だ。ハバナのタクシー運転手は「明日のことは分からない。だから今日を精一杯楽しむんだ」と語ってくれた。トリニダーの民宿のオーナーは「物は少なくても、音楽と踊りがあれば幸せ」と微笑んだ。

物質的な豊かさとは別の価値観、人々の温かさ、音楽と踊りが溢れる生活。それは私たち日本人が忘れかけている、人生の豊かさの本質を教えてくれるように思えた。

またあの陽気な人々と触れ合えることを楽しみに旅を終えた。

≪旅行情報≫
■入国とビザ
・観光カード(Tourist Card)が必要
・取得費用:約3,000円
・有効期間:30日間
・パスポートの残存有効期間:入国時6ヶ月以上必要
・取得方法:旅行会社またはキューバ大使館で申請可能
■通貨
・キューバ・兌換ペソ(CUC):観光客用
・キューバ・ペソ(CUP):現地人用
・両替は公式の両替所(CADECA)で行うこと
・米ドルの両替は手数料が高いため、ユーロ持参推奨
・クレジットカードの使用は限定的(アメリカ系カード不可)

■気候と服装
ベストシーズン:11月~4月

  • 乾季:11月~4月(平均気温22-28度)

  • 雨季:5月~10月(平均気温25-32度)
    推奨する服装:

  • 通気性の良い綿素材の衣類

  • 歩きやすい靴(石畳が多い)

  • 日よけ帽子、サングラス

  • 教会訪問用の肩掛けショール(女性)

■移動手段
1.都市間移動
・プライベート車チャーター
・ビアスール(長距離バス)
・国内線(ただし遅延が多い)
2.市内移動
・タクシー(黄色のモダン車両)
・クラシックカータクシー
・馬車(トリニダーなど)
・コッコタクシー(三輪自動車タクシー)

【安全対策】
■治安
・全般的に安全だが、スリや置き引きには注意
・夜間の一人歩きは避ける
・貴重品は分散して携帯
■健康管理
・水道水は飲まない
・生野菜、生魚は注意
・日射病対策必須
・旅行保険への加入推奨

【通信環境】
■インターネット
・Wi-Fiカード(1時間1CUC)を購入
・主要ホテルやWi-Fiスポットで利用可能
・接続は不安定
・SNSの利用制限あり

【注意事項】
・アメリカ製品の持ち込み制限
・葉巻の持ち出し制限(50本まで)
・写真撮影の許可が必要な場所あり
・チップの相場は10-15%

※この記事は筆者の主観に基づいて作成されています。旅行前に最新の情報を確認することをおすすめします。

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