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【北インド周遊記】混沌と静寂が織りなす魂の旅路、14日間で巡る聖地と秘境
1. はじめに:あの頃の旅心が蘇る、北インドへの誘い
結婚、出産、マイホーム。人生の節目と呼ぶにはまだ早いのかもしれないけれど、30代も半ばを過ぎると、毎日はいつしか「当たり前」の繰り返しに塗り替えられていく。学生時代、バックパック一つで世界中を旅していたあの頃の、胸の高鳴るような興奮。あの感覚を、私はいつの間にか忘れてしまっていた。
そんな私が再び旅に出たいと思わせてくれたのは、一枚の写真だった。夫が何気なく見ていた旅行雑誌に、黄金に輝く寺院が、まるで水面に浮かぶ蜃気楼のように写っていたのだ。そこはインド、北部に位置するアムリトサルという街にある「黄金寺院」だった。
インド―。それは私にとって、どこか近寄りがたい、未知の国だった。混沌とした街並み、強烈なスパイスの香り、宗教色の強い文化…。しかし、写真の中の黄金寺院は、そんな私の勝手なイメージを軽々と飛び越え、心の奥底に眠っていた冒険心を呼び覚ました。
「そうだ、インドに行こう」
夫にそう告げると、彼は少し驚いた顔をした後、すぐにいつもの優しい笑顔を見せた。「いいね、インドか。君がそんなに乗り気なら」
こうして、私たち夫婦の、あの頃の旅心が蘇る、北インドへの旅が始まったのだ。
2. 旅の準備:バックパックに詰める夢と現実
「本当に大丈夫かな…」。出発が近づき、私は大きくなった荷物を前に不安を隠しきれずにいた。ガイドブックを読み込むほどに、インドという国は、私が今まで経験したことのない世界なのだと実感させられる。
水道水は飲めるのか? 衛生状態は? 女性一人で歩くのは危険? 頭の中をよぎる不安要素は尽きない。しかし、そんな私の不安をよそに、バックパックは着実に膨らんでいく。
あれもこれもと詰め込みたくなる気持ちを抑えつつ、厳選に厳選を重ねた結果、今回の旅の相棒は、学生時代を彷彿とさせるバックパックに決定した。スーツケースのように転がすわけにはいかない。この重みが、私の覚悟を試しているかのようだ。
パスポート、ビザ、航空券、そしてインドの神様に守ってもらうための小さな amulet(お守り)。必要なものを確認しながら、私は心の中で静かに呟いた。「さあ、冒険の始まりだ」。
< インドのビザについて >
インドへ旅行するには、観光ビザが必要になります。事前にオンラインで申請できる「e-Tourist Visa」が便利です。
申請方法: インド政府の公式ウェブサイト(https://indianvisaonline.gov.in/evisa/tvoa.html)から申請します。
必要書類: パスポート、顔写真データ、航空券、宿泊先情報など
費用: 国籍や滞在日数によって異なります。
取得期間: 通常は4営業日以内。
3. 1日目:デリー、喧騒の町の洗礼を受ける
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デリーのインディラ・ガンディー国際空港に降り立った瞬間、むせ返るような熱気と、喧騒と、香辛料の匂いが、五感を刺激する。クラクションの音、行き交うリキシャの呼び声、物売りの声。ここは紛れもなく、私の知っている世界とは全く異なる場所だった。入国審査は、思ったよりもスムーズだった。e-Tourist Visaのプリントアウトとパスポートを提示し、簡単な質問に答える。指紋を採取され、顔写真を撮られ、無事にインド入国となった。空港から市内までは、プリペイドタクシーを利用。事前に料金が決まっているため、ボッタクリの心配もなく、言葉の通じない運転手との交渉も必要ない。ホテルまでは、約40分の道のり、車窓から流れる景色を眺めることに集中できた。
< 1日目の宿泊先 >
ホテル名: The Imperial, New Delhi(ザ・インペリアル ニューデリー)
ひとことメモ: コロニアル調の重厚感あふれるホテル。喧騒の街から一歩足を踏み入れれば、そこには別世界が広がっている。
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ホテルに到着後、荷物を置くと、すぐに街へと繰り出した。目指すは、旧市街にあるチャンドニー・チョーク。ホテルからタクシーで約20分、そこは、迷路のように入り組んだ路地裏に、商店や屋台がひしめき合う、まさに混沌の空間だった。香辛料、サリー、雑貨、そして食べ物。あらゆるものが所狭しと並べられ、客引きの声が飛び交う。その熱気に圧倒されながらも、私は必死に五感を研ぎ澄ませようとした。チャンドニー・チョークを抜けると、今度は広大な敷地に建つ、赤い城壁が印象的なレッドフォートへ。徒歩で15分ほど、ムガル帝国の栄華を今に伝えるこの城は、インドの歴史の重みを静かに物語っていた。
< 1日目のグルメ情報 >
レストラン名: Karim's (カリムズ)
ひとことメモ: ムガル帝国時代の宮廷料理の流れを汲む、老舗レストラン。マトンカレーとナンが絶品。レッドフォートから徒歩5分。
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夕食を終え、ホテルへと戻る頃には、すっかり夜も更くなっていた。タクシーで揺られること30分、シャワーを浴び、ふかふかのベッドに横たわりながら、私は今日一日の出来事を振り返る。
デリーは、私の想像をはるかに超える、刺激的な街だった。しかし、その喧騒の中にあっても、どこか懐かしさを感じさせる温かさがある。それはきっと、この街が、長い歴史の中で、様々な文化や人々を受け入れてきた証なのだろう。
4. 2~3日目:バラナシ、ガンジス河の祈りに触れる
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早朝のデリー駅は、すでに多くの人で賑わっていた。これから向かうのは、ヒンドゥー教徒の聖地、バラナシ。列車の旅は、インドの日常を垣間見ることができる貴重な機会だ。
多くの旅行者が利用する、エアコン付きの上級クラスの車両は、事前に予約しておいた方が安心だ。私たちは、AC2 Tierという、二段ベッドが設置された個室のようなコンパートメントを利用した。
約12時間の列車の旅を経て、バラナシに到着したのは、すでに夕暮れ時だった。駅前からすでに、カオスと神聖さが混在する、独特の雰囲気が漂っている。
< 2~3日目の宿泊先 >
ホテル名: BrijRama Palace(ブリジラマパレス)
ひとことメモ: ガンジス河畔に佇む、歴史ある宮殿ホテル。早朝のプージャ(礼拝)の様子を、ホテルのガートから間近で見ることができる。
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荷物を置くと、すぐにガンジス河へと向かった。ホテルから歩いてすぐ、視界いっぱいに広がる聖なる川の景色に、思わず息を呑む。
沐浴する人々、祈りを捧げる人々、そしてその傍らで洗濯をする人々。ガンジス河は、まさに生と死、そして信仰が織りなす、混沌とした空間だった。
< 2~3日目のグルメ情報 >
レストラン名: Blue Lassi Shop(ブルーラッシーショップ)
ひとことメモ: バラナシで人気のラッシー専門店。マンゴーラッシーがおすすめ
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翌朝は、日の出前に起き、ボートに乗ってガンジス河でのプージャ(礼拝)を見学した。水面に浮かぶ無数の灯篭、祈りの歌声、そして朝日が織りなす幻想的な光景に、心揺さぶられるものがあった。
バラナシは、私が想像していた以上に、強烈な場所だった。しかし、その混沌とした雰囲気の中にこそ、インドという国の真の姿があるような気がした。
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バラナシからは、再び列車でカジュラーホへと向かう。所要時間は約12時間。寝台列車に揺られながら、私は、この旅でまだ見ぬ景色への期待に胸を膨らませた。
5. 4~5日目:カジュラーホ、愛と官能の寺院群に圧倒される
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列車に揺られること12時間、私たちはカジュラーホに到着した。ここは、その精巧で官能的な彫刻で知られる寺院群で有名な場所だ。駅からは、リキシャでホテルへ向かう。オートリキシャと呼ばれる、オートバイに客席を取り付けた乗り物は、インドの都市部では一般的な交通手段だ。
< 4~5日目の宿泊先 >
ホテル名: The Lalit Temple View Khajuraho(ザ ラリット テンプル ビュー カジュラーホ)
URL: https://www.thelalit.com/the-lalit-temple-view-khajuraho/
ひとことメモ: 西洋寺院群から徒歩圏内、快適なホテル。
荷物を置いたら、早速、西方の寺院群を見学に行くことにした。10世紀から12世紀にかけて、チャンデーラ朝によって建てられたこれらの寺院は、ヒンドゥー教の神々や女神、そして人間の一生を描いた彫刻で飾られている。
その中でも特に目を引くのは、愛欲を表現した彫刻の数々だ。男女の交わり、官能的なポーズ、人間の欲望をありのままに表現した彫刻群に、私はただただ圧倒されるばかりだった。
< 4~5日目のグルメ情報 >
レストラン名: Raja Cafe(ラージャカフェ)
ひとことメモ: 地元で人気の、家庭的なインド料理のレストラン。
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翌日には、東方の寺院群と、南方の寺院群も見学した。これらの寺院群は、西方の寺院群に比べて規模は小さいものの、それぞれに個性的な魅力がある。
カジュラーホの寺院群は、その彫刻の官能性ばかりが注目されがちだが、ヒンドゥー教の宇宙観や生命観を表現した、芸術性の高い建造物でもある。
6. 6~8日目:オルチャ、ムガル帝国の栄華を偲ぶ
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愛と官能の街、カジュラーホを後にし、私たちはオルチャへと向かった。カジュラーホからオルチャまでは、列車とバスを乗り継いで約7時間。道中は舗装されていない道も多く、揺れの激しいバスに揺られながら、私は、これから訪れる街に想いを馳せていた。オルチャは、16世紀から17世紀にかけて、ムガル帝国の都として栄えた街だ。街中には、当時の宮殿や寺院、霊廟などが残されており、ムガル帝国の栄華を今に伝えている。
< 6~8日目の宿泊先 >
ホテル名: Amar Mahal(アマルマハル)
ひとことメモ: ベトワ川を見下ろす丘の上に建つ、宮殿のようなホテル。
オルチャに到着してまず向かったのは、街の中心部にあるオルチャ城塞。16世紀初頭に建てられたこの城塞は、ムガル建築の傑作と言われ、その壮麗な姿は、訪れる者を圧倒する。
城塞内には、ジャハーンギール・マハルやラージ・マハルなど、複数の宮殿があり、それぞれに美しい装飾が施されている。宮殿内を歩きながら、私は、かつてこの場所で繰り広げられたであろう、華やかな宮廷生活に思いを馳せた。
< 6~8日目のグルメ情報 >
レストラン名: Mediterraneo(メディテラネオ)
ひとことメモ: オルチャ城塞のすぐそばにある、本格的なイタリアンレストラン。
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オルチャ城塞の他にも、街中には、ラーム・ラジャ寺院やチャトルブジ寺院など、見どころが点在している。オートリキシャをチャーターして、効率的に観光するのがおすすめだ。
オルチャは、カジュラーホとはまた違った魅力を持つ、歴史と文化の街だった。静かに流れる時間の中で、私は、インドという国の奥深さを改めて実感した。
7. 9~11日目:リシケシ、ヨガの聖地で自分と向き合う
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喧騒のデリー、聖なるガンジス河、そしてムガル帝国の栄華。様々な顔を持つ北インドを巡る旅も、いよいよ後半戦。私たちは、ヒマラヤの麓にある聖地、リシケシへと向かった。オルチャからリシケシまでは、列車で約10時間。車窓からは、徐々に緑が増えていくのが見て取れる。そして、ついに目の前に、雄大なヒマラヤ山脈の姿が現れた時、私は、言葉にできないほどの感動を覚えた。リシケシは、ガンジス川の上流に位置する街で、「ヨガの聖地」として知られている。世界中から、ヨガを学びに、そして自分自身と向き合うために、多くの人が訪れる。
< 9~11日目の宿泊先 >
ホテル名: Ananda in the Himalayas(アナンタ イン ザ ヒマラヤス)
ひとことメモ: ヒマラヤの麓に佇む、高級スパリゾートホテル。ヨガや瞑想のプログラムも充実している。
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私たちは、ヨガと瞑想を体験するために、プログラムに参加することにした。早朝に起き、朝日を浴びながらヨガを行い、夜は瞑想の時間。普段の生活では味わえない、静寂の時間の中で、私は、自分自身の内側と向き合い、心の奥底にある静けさを感じることができた。
< 9~11日目のグルメ情報 >
レストラン名: The Little Buddha Cafe(ザ リトル ブッダ カフェ)
ひとことメモ: ガンジス川沿いにあり、眺めの良いカフェ。オーガニック食材を使った、ヘルシーなメニューが楽しめる。
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リシケシは、まさに「聖地」と呼ぶにふさわしい、静寂と spirituality が漂う場所だった。ヨガと瞑想を通して、私は、自分自身と向き合い、心をリフレッシュすることができた。
8. 12~13日目:12~13日目:アムリトサル、黄金寺院の荘厳さに息を呑む
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ついに、この旅の最終目的地、アムリトサルに到着した。列車に揺られること約11時間、車窓から見える景色は、緑豊かな田園風景から、徐々に建物が増え、活気あふれるものへと変わっていった。
アムリトサルと聞いて、私がまず思い浮かべたのは、ターバンを巻いた屈強な男性の姿と、彼らが信仰するシク教の象徴とも言える「黄金寺院」だった。正直なところ、華やかさや洗練されたイメージとは程遠い、質実剛健で、どこか近寄りがたい印象を抱いていた。
しかし、街に一歩足を踏み入れると、そんな私の先入観は、音を立てて崩れ落ちた。確かに、喧騒と熱気、雑然とした街並みは、他のインドの街と変わらない。しかし、その奥底に、凛とした静寂、神聖な空気が、確かに感じられたのだ。
< 12~13日目の宿泊先 >
ホテル名: Radisson Blu Hotel Amritsar(ラディソン ブル ホテル アムリトサル)
URL: https://www.radissonhotels.com/en-us/hotels/radisson-blu-amritsar
ひとことメモ: 黄金寺院から車で約10分。スタイリッシュでモダンな客室を提供するホテル。屋上プールからは市街のパノラマビューを楽しめる。
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ホテルに荷物を置き、私はいても立ってもいられず、すぐに黄金寺院へと向かった。夕暮れ時、オレンジ色に染まる空を背景に、黄金寺院は、想像を絶する美しさで、私の目の前に姿を現した。
それは、単なる建造物ではなく、まるでひとつの宇宙のようだった。黄金の輝きは、まばゆいばかりなのに、不思議と心を落ち着かせる力強さがある。水面に映るその姿は、この世のものとは思えない美しさで、私は、ただただ息を呑んで見惚れることしかできなかった。
寺院に入る前に、私たちは頭をスカーフで覆い、靴を脱いで裸足になった。そして、大理石でできた冷たい床を踏みしめながら、ゆっくりと寺院へと近づいていく。一歩一歩、心が洗われていくような、不思議な感覚だった。
寺院内には、厳かな祈りの歌声が響き渡り、シク教徒の人々が、静かに、しかし、心から神に祈りを捧げている。その姿は、宗教や文化の違いを超えて、人間の心の奥底にある、純粋な信仰心を、私たちに見せてくれているようだった。
< 12~13日目のグルメ情報 >
レストラン名: Bharawan Da Dhaba(バラワン ダ ダバ)
ひとことメモ: 黄金寺院の近くにある、地元で人気の食堂。安くて美味しい、家庭的なパンジャブ料理が楽しめる。
黄金寺院では、誰でも無料で食事を提供する「ランガル」という習慣がある。私たちも、そのランガルに参加させてもらい、何百人という人々と共に、床に座って食事をとった。
カレーやナン、チャパティなど、シンプルながらもスパイスの効いた料理は絶品で、心も身体も満たされるようだった。見知らぬ者同士でも分け隔てなく接する、シク教の教えに触れ、私は、心の奥底から温かい気持ちになった。
アムリトサルでは、黄金寺院以外にも、インドとパキスタンの国境で行われるフラッグダウンセレモニーを見学した。両国の兵士たちによる、息の合ったパフォーマンスは、緊張感がありながらもどこかユーモラスで、見応えがあった。
9. 14日目:再びデリーへ、そして帰国
アムリトサルでの体験は、私の心を、静かな感動で満たしていた。黄金寺院の荘厳な美しさ、人々の穏やかな信仰心、そしてランガルで見せた分け隔てない優しさ。混沌と静寂が織りなす独特の空気感を持つこの街は、私の中に、インドという国への深い畏敬の念を刻み込んだ。
飛行機の時間まで、まだ少しだけ時間があった。私たちは、賑わう市場をぶらぶらと散策することにした。色とりどりのスパイス、美しい刺繍のサリー、そして食欲をそそる屋台の香り。五感を刺激する雑多な魅力は、最後まで私を飽きさせない。
「マダム、ヘナタトゥーはいかがですか?」
小さな女の子が、私の手を引いて、ヘナタトゥーの店へと案内してくれる。可愛らしい笑顔に誘われ、手の甲に、小さな花模様を描いてもらうことにした。
「ありがとう。」
そう言って、少女にチップを渡すと、彼女は満面の笑みを浮かべて、元気よく走り去っていった。その屈託のない笑顔が、私の胸に、温かい光を灯してくれた。
再びデリーへと戻る列車の中、車窓を流れる景色を眺めながら、私は、この2週間の旅を、ゆっくりと振り返っていた。
賑やかなデリー、神聖なバラナシ、官能的なカジュラーホ、静寂のリシケシ、そして荘厳なアムリトサル。それぞれの街が、全く異なる顔を見せてくれ、様々なことを教えてくれた。
かつて、インドは、私にとって、未知の世界、どこか恐ろしささえ感じる場所だった。しかし、実際に訪れてみて、その印象は180度変わった。
確かに、インドは混沌とした国だ。貧富の差、衛生問題、文化の違い。私たちが普段暮らす世界とは、全く異なる現実が、そこにはあった。
しかし、同時に、インドは、驚くほど美しく、そして温かい国でもあった。
雄大な自然、歴史的な建造物、そして、そこで力強く生きる人々。彼らの笑顔、親切心、そして、信仰心の深さに触れた時、私は、言葉では言い表せないほどの感動を覚えた。
「また、必ず来よう。」
そう、心の中で誓った。
再び訪れる時、インドは、私にどんな顔を見せてくれるのだろうか。そんな期待を抱きながら、私は、飛行機に乗り込んだ。
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10. まとめ:インドが教えてくれたこと
2週間のインド旅。それは、私にとって単なる観光旅行ではなく、自分自身と向き合い、人生を見つめ直す、貴重な時間となった。
帰国後、日常に戻った私は、以前と変わらない風景の中に、新しい輝きを見出すようになった。それはきっと、北インドの強烈な光と影、混沌と静寂、そして、そこで出会った人々の笑顔が、私の心に、消えない光を灯してくれたからだろう。
例えば、スーパーマーケットの棚に、整然と並ぶ商品を見て、私は、インドの市場で見かけた、雑然としながらも活気に満ちた風景、そして、そこで働く人々の笑顔を思い出す。
完璧に管理された、便利で快適な日常生活。しかし、その一方で、私たちは、何か大切なものを置き忘れてはいないだろうか。
北インドで見た景色、人々の笑顔、そして感じた空気は、私の日常に、新しい視点を与えてくれた。それは、完璧ではないけれど、人間味あふれる温かい世界。そして、混沌の中にこそ、真の美しさや生きる力強さが宿っていることを教えてくれた。
毎朝、慌ただしく家事をこなしながら、私は、ガンジス河畔で見た、日の出の風景を思い出す。水面をオレンジ色に染め、ゆっくりと昇っていく太陽。祈りを捧げる人々の顔は、どこか神々しく、そして、力強いエネルギーに満ち溢れていた。
会社へ向かう満員電車の中で、私は、リシケシで体験したヨガと瞑想の時間を思い出す。深い呼吸と共に、雑念を払い、自分自身の内側に意識を向ける。都会の喧騒に疲れた心に、静寂と安らぎを与えてくれる、大切な時間だ。
何気ない日常の中で、ふと、北インドの風景や人々の顔が頭をよぎる。それは、まるで、私が忘れかけていた大切な何かを、思い出させてくれるかのように。
北インドの旅は、確かに終わってしまった。
しかし、そこで得た経験、学び、そして感動は、私の心の奥底に、しっかりと刻み込まれている。
そして、それはきっと、これから先の人生を生きていく上で、私にとって、かけがえのない宝物になるだろう。
「また来たい。」
そう心から思える、忘れられない旅となった。
※この記事は筆者の主観に基づいて作成されています。旅行前に最新の情報を確認することをおすすめします。