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なぜ天動説は指示されたのか ③プトレマイオス

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〇プトレマイオスによる天動説の完成

アリストテレス以外にもう一人、天動説優位を絶対のものにした古代の人物がプトレマイオス(83?-168)だ。プトレマイオスはローマ帝国の時代のエジプトの天文学者・数学者だ。彼は地球の大きさを測量によって求めたほか、数学や音楽の分野でも功績が残るマルチな才能を有していた。


プトレマイオスの肖像

彼の著書「アルマゲスト」は彼以前の天体予測技術を含めた集大成であり、(天動説にたった)天体の運行軌道に関する理論、天体の測定方法、測定結果の解析法、数学技術の解説、計算のための資料などを網羅した天文の百科全書である。天動説優位を確定づける最大の著書であり、以後長くにわたって「アルマゲスト」およびその解説本は天文学者たちの標準の教科書となった。

彼の天動説の優れていた点は、予測精度が高いということだ。
現実の惑星軌道はわずかに楕円軌道を描いて運行しているが、17世紀にケプラーがそのことに気が付くまで天動説・地動説にかかわらず、神々の住む天界の星々は美しく調和のとれた真円運動していると考えられてきた。
そのため真円運動で惑星軌道を予測しようとすると、天動説でも地動説でも必ず予測と実際の運行がずれるのだ。特に火星の軌道は真円からは大きくずれており、真円軌道だけでは大きな予測誤差を与えていた。
また単純な円軌道では、天動説では惑星が時折ほかの星の動きに逆行をする不規則な運行を説明することができなかった。

空を惑星が逆行する様子
Wikipedia「順行・逆行」のページより引用

「逆行」とは地球より外側で太陽を公転する火星や木星、土星を地球が追い越す際に、地上からこれらの惑星が通常と逆方向に動いているかのようにみえる現象。惑星を惑う星と呼ぶ理由にもなった。
素朴な天動説ではこの逆行を説明することができない。


プトレマイオスは天動説の立場からこの問題の一応の解決を行った。

それがエカント(等化点)と周転円の導入だ。
エカントとは、惑星は地球のまわりを真円運動するが、運動の中心は地球からすこしずれた離心点を中心にしており、さらに惑星は地球と運動中心反対側にあるエカントと呼ばれる点に対して角速度一定で運動するという考え方だ。
また、周転円とは、惑星の運動は真円運動を複数組み合わせて螺旋のような軌道を取っているという考え方だ。

プトレマイオスモデルの概要
Wikipedia「エカント」のページより引用

プトレマイオスは、惑星は地球の周りを周転するが、その軌道は第一の真円軌道の周りを第二の真円軌道(周転円)で周転するという二重の公転を提案した。さらに観測結果に一致させるため、第一軌道の中心は地球ではなく、地球から少し離れた点(図中の×)であり、地球と軌道中心の反対側にエカント(図中の●)を設定し、惑星の第一軌道とエカントと地球のなす角度φの時間当たりの変化量が一定(角速度一定)になるように惑星が運動すると考えた。
プトレマイオスの天動説は予測精度は高いが、特にエカントの導入は複雑で、かつ「なぜエカントが存在するのか?」という説明がなかったため長年にわたって論争となった。

周転円が導入されたことで、現実に惑星が逆方向に移動している時間があるため、逆行現象を説明することができた。

現代の観点から見ても、このエカントと周転円のモデルは実際の惑星の楕円軌道をよく近似できており、プトレマイオスの予測方法はそれなりに精度が出るモデルであった。

またエカントと周転円の導入によって多くのパラメータが導入されたため、後年になって測量技術が向上しプトレマイオスの計算からのずれが大きくなったとしても、周転円の大きさや比率といったパラメータを合うように調整したり、エカントの位置をずらすことによって、予測誤差を小さくすることができた。

一方でそのような増改築が繰り返された結果、予測理論は複雑になっていったといわれる。特にエカントについては、そのような複雑な運動が天界で起きているはずがないという批判は多く、長年の論争であったようだ。彼の天動説の改良は後年様々な天文学者が提案しており、エカントをなくして周転円の数を増やすなどいろいろな代案が提案された。コペルニクスが地動説に到達したのもこのエカントの解消を検討する過程であったといわれている。

エカントと周転円の導入はプトレマイオス以前の人々の功績もあるが、彼はこれらを集積・体系化することで、惑星運行の精密な予測を可能にさせた。彼の提示した天動説は細部の変更はあったものの大部分そのまま、地動説にとってかわられるまで千年以上にわたって受け入れられる優れた理論であった。

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