おばあちゃんのおいなりさんを食べるまでの、地元の油あげ事情からレシピまで
子どもたちの運動会のお昼は、ばあちゃんのおいなりさんと杏仁豆腐と決まっていた。運動会の弁当を外注に出す母。それが私だ。
ばあちゃんはなんでも多くつくる。数を数える単位が「1個、2個、3個、たくさん・・・」なのだ。私が子どもの頃、四人家族なのに、おいなりさんは通常100個くらい作った。作り終わると家族の分を残して、いくつかタッパーにおいなりさんを詰めて、どこかに持っていく。なぜか、なんでも振る舞うのが好きな人だった。
娘が「ばあちゃんのおいなりさんが食べたい」と突然言い出した。
ばあちゃんは「豆腐屋の油あげを買っておいで」と言った。
土曜日の朝8時、近所に二件ある豆腐屋への行脚が始まった。吹上観音の下の豆腐屋に行ってみたところ、のれんは出ていたが「販売は11時から」と書いてあった。油あげの値段は1枚70円。
それではと、瑞光橋の豆腐屋へ向かう。こちらはおじいさんが仕込みを終えたようで、道具の片付けをしている。店頭に「油あげ3枚100円」と書いてある。やけに安いやんけ。寂れた商店街の豆腐屋さんで、油あげを大量に買うのは気が引けるが・・・「油揚げ40枚いただけますか?」と声をかけると、「いいよ」と店の奥のカゴに並んだ油あげを袋に詰めてくれた。3枚100円だから、40枚買うといくらだ?1500円で収まるな・・・と財布から小銭を出そうとしていると、おじいさんが袋を二つドスンとおいて「はい2000円!」と言った。「????」おや?やけに高いやんけ・・・と思いつつも、小心者の私は「謎の料金体系かな?」と2000円払った。まあ、それでも1枚50円だから、豆腐屋さんの油あげの相場より全然安い。
娘と「あっちの店は70円、こっちは50円、ずいぶん値段が違うけど味はどうなんだろうね?」「食べ比べてみたいね・・・」なんて言いつつ、私は外出の予定があったので、娘に油あげをばあちゃんに届けておくようにと告げて家を出た。
その後、娘は11時を待って、吹上観音の下の豆腐屋へ行ったらしい。「油あげ2000円分ください」と言ったら、おばちゃんにあからさまに嫌な顔をされ、予約をして欲しかったと言われたとの事。油あげはおばあちゃんしかあげられないそうで、おばあちゃんがあげられなくなったらお店は閉めると、閉店予告をされたらしい。
昼過ぎ、ばあちゃんからLINEが入った。
「いったい、おいなりさんをいくつ欲しいのかしら?なんと136個分の油あげを買ってきたのでした!?」「食べ比べをしたいねえ・・・とのことで、2種類の油あげを買ってきたそうでしたが、一寸オーバーではないかしら!?」
そうは言いながらもばあちゃんは、2種類の油あげをふたつの鍋で煮てくれた。
水600cc、出汁600cc、酒200cc、みりん300cc、醤油40cc、砂糖70g(今回は甘さが足りなかったから砂糖は100gでも良いかもしれないと言っていた)
翌日、私は5合のご飯を持参して、おいなりさんをつめに行った。
行くとばあちゃんは「これまでこんな器量の悪い油あげはみたことがない」と50円の油あげをさして言っていた。でも開きやすかったと。70円の方はと言うと、きれいにあがっているが、皮が薄くてすぐ破けるので開きにくかったと。店によって油あげはこんなに違うのだ。(写真は上が70円下が50円)
すし酢は、火を通さず、塩と砂糖を入れて混ぜて溶かしていた。この方が香りがたつと、かつてどこぞの料理長に教わったとのこと。
干し椎茸はそばつゆで煮てある。出汁5:醤油1で沸騰させ、甘さを感じない程度の隠し味でみりんが入っている。
れんこんは酢バスに、にんじんも砂糖を少し入れて煮てある。
三つ葉は生で細かく切り、白ごまは手ですりつぶしながらまぶす。30gくらい入れたかな?
左が50円、右が70円の油あげ。大きさが違うのでそれぞれご飯は60gと50g。
さて、お味はどうか・・・?
ん〜・・・♪♪♪
皮は甘すぎず、酢飯に、干し椎茸の甘みとれんこんのシャキシャキ感、三つ葉とごまの香りが絶妙で・・・んまい〜♪
こっちはどうだ?と両方食べるのだが・・・。
実は・・・、違いがよくわからなかった・・・。確かに、歯応えは違うのだが・・・油あげの味はわからない・・・ポンコツだ・・・。
これは、改めて、味のついていない油あげを焼いて食べ比べた方が良さそうだ・・・。
ばあちゃんは、タッパーにおいなりさんをいそいそと詰めて、お隣さんへ持っていった。相変わらず、振る舞うのが好きな人なのであった。